Jリーグ観戦者が「蚊帳の外」 判定経緯説明“なし”で「なぜ?」…妥当性欠く現地ファンへの気配り【コラム】
5万2860人を収容した鹿島×横浜FM、疑問を抱えたまま帰途に着いたファンも
東京・国立競技場開催のJリーグの集客力が際立っている。
6月1日の鹿島アントラーズ×横浜F・マリノス戦も5万2860人。リーグ創設以来、トップカテゴリーで途切れることなく続いてきたカードの観衆は、3日前に同スタジアムで行われたレアル・ソシエダ×東京ヴェルディ(4万150人)を超えた。
だが残念だったのは、せっかくスタジアムに足を運んだ多くのファンが、おそらく疑問を抱えたまま帰途に着いたことだ。試合は横浜FMが先制し、追いかける鹿島が前半32分に関川郁万のヘッドでゴールネットを揺すった。しかしここでVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が介入し、結局オフサイドでゴールは取り消しとなった。
釈然としなかったのは、どのタイミングで誰がオフサイドだったのか、まったく知らされることもなくゲームが進行したからだ。
鹿島は名古新太郎がFK(フリーキック)をゴール前へ送り、植田直通が頭で折り返して、最後は関川が叩き込んだ。直後にスタジアムのスクリーンで、オフサイドの有無を確認中であることが提示されるが、映像が流されることもないので観客はざわつきながらも蚊帳の外に置かれた格好になる。そしてしばらく時間が経過して、やはりオフサイドでノーゴールだったことだけが告げられ、試合は再開した。
後半17分のシーンは、さらに複雑だった。横浜FMが天野純のコーナーキックを、エドゥアルドが高い打点で捉えてゴールを襲う。このシュートは鹿島のGK早川友基が素晴らしい反応で阻むが、フォローした加藤蓮がシュート。再び早川が反応し、ゴールラインを越えたのか微妙な位置でボールを押さえる。ここで副審の旗が上がった。
このプレーもVARの末にオフサイドでノーゴールという結論が出た。ただし横浜FM側はエドゥアルドがヘディングでボールを捉えた瞬間に2人の選手がオフサイドの位置にいたが、プレーに関与していたとは思えない。また加藤のオフサイド判定にも疑問符が付いた。少なくともノーゴールという判定が、どういうプロセスで下されたのか。ファンに納得してもらうなら、なんらかの説明が不可欠だった。
現場の出来事をしっかりと理解し満喫してもらうこともファンサービス
ビデオレビューの映像をスタジアムのスクリーンに流すかどうかは、各大会組織に委ねられているという。一方でレフェリーがレビュー後に判定の説明をする試みは、すでにFIFA(国際サッカー連盟)主催の大会でも実践されており、昨年の女子ワールドカップ開幕戦で山下良美主審がVARを経てPKの決定をアナウンスしたのは周知のとおり。プレミアリーグでも来シーズンから導入を予定しているそうである。
そもそもVARを導入したのは、公平で正確な判断を下し、両チーム関係者やファンに納得してもらうためだったはずだ。ところがJ1では、せっかくVARが導入されたのに、スタジアムに足を運んだファンは、自宅で中継を楽しむよりも真実に近づけない。「なぜ?」の隔靴掻痒(かっかそうよう)感は払拭できないまま帰途に着くことになる。
残念ながら陸上競技場が目立つJリーグの観戦環境は、必ずしも恵まれているとは言えない。一方で各クラブともファンを楽しませようと、大音響のアナウンスや花火を打ち上げるなど派手な演出ばかりに走る傾向が見て取れる。だが本来のファンサービスとは、入場料を払って観戦する人たちに、現場で起こった出来事をしっかりと理解し満喫してもらうことではないだろうか。
歴史が浅く伝統国を追う立場のJリーグが、ピッチ上のパフォーマンスの質で上回るのは難しい。しかしこうしたファンへの気配りなら、先取りすることも可能なはずである。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。