3-0も危険スコア? 欧州日本人対決で大逆転劇…「雰囲気良くない」→奇跡Vが実現した訳【現地発コラム】

ボーフムが入れ替え戦で3点差を逆転できた訳とは?【写真:ロイター】
ボーフムが入れ替え戦で3点差を逆転できた訳とは?【写真:ロイター】

ボーフムとデュッセルドルフの昇降格プレーオフ、第1戦0-3大敗からの挽回劇

「2-0」は危険なスコアとサッカー界でよく言われる。2-0から2-1になると心理的なプレッシャーが勝っているチームに襲いかかり、それに引っ張られて足が動かなくなり、失点を重ねてしまうというのが定説だ。こうした話は試合前やハーフタイムに監督がよく用いる論法の1つ。「可能性は十分あるからまずは1点返そう」と。選手にしても耳を傾けやすい。

 ただこれが3-0になると前例が少ない。決してないわけではない。2005年イスタンブールで行われたACミラン対リバプールのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝が最も分かりやすい例として挙げられる。

 ミランが前半3-0とリードを奪いながら、後半リバプールの反撃を許し、90分を終えた段階でトータルスコア3-3に。最終的にPK戦でリバプールが大逆転した。実例は確かにある。だが「だからみんな頑張れ!」と言われて、どこまで信じ切れるかというと難しいものがあるはずだ。

 そんななかブンデスリーガ2部3位のデュッセルドルフ(田中碧、内野貴史、アペルカンプ真大が所属)と昇降格プレーオフに挑むことになった1部16位のボーフム(浅野拓磨が所属)。日本人対決のホーム戦ファーストレグを0-3で落としたボーフムだったが、アウェー戦セカンドレグで3-0と取り返し、2戦合計3-3で延長戦を戦い、PK戦の末に勝ち切ってしまった。

 なぜボーフムはあそこまで見違えるようなパフォーマンスを披露することができたのだろうか。浅野拓磨が試合後、こんなふうに話していた。

「正直雰囲気は良くなかったですね。もうやっちまったなっていう感じは流れてました。ただ試合が近づいてきたらもうやるしかない。あとチームメイトとも話しましたけど、『どう? いけると思う?』っていう話をするなかで、『やれるんじゃない?』っていう会話を僕もチームメイトとしました。とにかく早い時間帯で点を取れば、全く問題ないんじゃないかっていう話はしてました。難しいだろうっていうのは分かっている。別に負けて当たり前。逆転してラッキーぐらいの感覚で。でもそのラッキーが起こり得るというか、その可能性は感じてました」

送ったクロス41本…シンプルかつ効果的な策を徹底

 ボーフムにとって、チームとして可能性はまだあると思えるラインを保てたことが1点。そしてよくこうした展開だと一か八かのがむしゃらサッカーに振り切ってしまい、逆にプレーがちぐはぐになってしまうケースもあるが、そうではなく、やるべきプレーをチームとして整理して、徹底してやり切ったことが大きい。

「ボーフムにはなかなか崩す力というのはないのかなとは思いますけど、思い切って、クロスをどんどんどんどん上げていって、それがゴールにつながったと。今まではゴールにつながらなかったり、つながらなかったら、ちょっとマイナスな雰囲気が流れてきたりというのはありましたけど、今日はやるしかなかった。みんなが自信じゃないですけども、本当に失うものがない気持ちでプレーできてたのかなと思います」(浅野)

 この試合、延長戦を含めてボーフムがエリア内に送ったクロスの数は41本。そしてうち27%がボーフムの選手に届いている。長身FWフィリップ・ホフマンをターゲットに、どんどんセカンドボールを回収するというシンプルかつ効果的な策が見事にはまる。

 後半13分から途中出場した浅野もゴリゴリのドリブルからどんどんクロスを上げ、逆サイドからのクロスには迷うことなく飛び込んで惜しいチャンスに絡み続けた。2点目、3点目が生まれたのが浅野途中出場後というのが興味深い。

 3-0も危険なスコアという常識がサッカー界には浸透していくのかもしれない。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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