“常勝軍団”復活へ…鹿島の「スタイル完成見えた」 Jトレンド適合で漂う“上昇への変化”【コラム】
【カメラマンの目】ポポヴィッチ流でかつての鹿島が誇っていたスタイルに接近
ランコ・ポポヴィッチを新たな先導者に迎えた鹿島アントラーズは、近年のリーグ上位でフィニッシュしたわりにはゲーム内容に見るべきものが少なかったチームと比較して、上昇への変化を作り出せているのか。その答はイエスである。
ポポヴィッチ監督は本来、ポゼッションを主体として攻撃を仕掛けるサッカーを信条としている。しかし、鹿島のシーズン前の宮崎合宿を取材した時、チームスタイルで目に留まったのは守備力だった。トレーニングマッチではボールを持った相手選手を激しくマークして敵にリズムを作らせず、攻撃に転じれば素早く前線にボールを運びゴールを目指すスタイルの確立に着手していた。
この決して華麗ではないが、相手も一目置く勝利をひたすら追求する強烈なメンタリティーから生まれる無骨に、そして的確にゴールを突く戦い方は本来、かつての鹿島が誇っていたスタイルに近い。
シーズンが開幕して間もない第2節の対セレッソ大阪戦(1-1)では、相手に球際で激しさを見せられ苦戦したが、実戦を重ねるごとに指揮官のスタイルも浸透し、ここにきて現実的に優勝が狙える上位へと進出を果たしている。
シーズンが経過し、各チームの特徴が明らかになってくると、このハードマークをベースとして、攻撃に転じれば手数をかけずに素早く仕掛けるスタイルは、現在リーグ上位に位置するFC町田ゼルビアやヴィッセル神戸とチームコンセプトのベクトルが類似している部分が多い。安定した守備からの一気の攻撃は、今シーズンのJリーグのトレンドと言えるだろう。
こうして迎えたJ1リーグ第17節の対横浜F・マリノス戦。試合はスタンドを埋めた5万2860人の大観衆の後押しを受けて、お互いが持ち味を出し合う好ゲームとなる。
両チームともマイボールにすると、スペースがあればドリブルで進出し、呼応した仲間の動きを察知してタイミング良くスルーパスを供給する。相手の長所を消すのではなく、自らの攻撃で相手を捻じ伏せようとする強い意志がプレーに表れていた。
勝利した鹿島は佐野海舟らMF陣が縦パスを強く意識し、チャンスと見れば前線へとドリブルで進出して攻撃の形を作り出した。さらに安西幸輝、濃野公人の両SB(サイドバック)を中心としたサイド攻撃では、敵陣深くに侵入しては中央にラストパスを送るセオリーどおりの攻めを見せる。その一方で、FW鈴木優磨が前線での幅広い範囲でプレーすることによって攻撃にアクセントを加え、ゴール攻略の流れを多彩にした。
遮二無二、勝利を奪いにいくスタイルが「鹿島らしい」
前半は主導権を握られた鹿島だが、横浜FMがハードスケジュールによる疲労からか、時間の経過とともに徐々にペースダウンしていったこともあり、先制点を奪われながらも得点者がFWとDFという全員攻撃で逆転勝利を挙げた。鹿島にとってこの勝利は、日本プロサッカーリーグの創立メンバーでありJリーグを、いや“J1リーグ”を牽引してきたライバルに競り勝ったという事実に加え、チームスタイルの完成に向けて、大きな一歩となったように思う。
シーズンも折り返しが近付いた現在、上位には黒田剛監督の下で短期間にチームスタイルが確立され、もはや成熟の域に達した台頭著しい町田、昨年王者で安定した力を誇る神戸、そして復権を目指すガンバ大阪が名を連ねる。そのなかで鹿島は守備力を全面に出して、相手にサッカーをさせないスタイルでスタートし、そこから素早く攻撃に転じてゴールを目指すサッカーからさらに進歩して、多くの時間で試合を支配するまでの形が出来上がりつつある。
なにより遮二無二、勝利を奪いにいくスタイルが鹿島らしい。近年、タイトルから遠ざかり、常勝チーム復活を掲げてきた鹿島だが、その目標を成し遂げるためのスタイルの完成が見えてきている。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。