森保J主力級ズラリ「今夏の移籍注目イレブン」 三笘&久保、タレント並ぶ2列目…DFも欧州で評価急上昇【コラム】
鎌田はクリスタル・パレス加入が濃厚
今夏も多くの日本人選手が欧州で移籍する可能性がある。しかも、今回の移籍というのは日本代表で言えば、ここから北中米ワールドカップ(W杯)のアジア最終予選、さらに2026年の本大会に向けて、大きく関わっていく可能性があるという意味でも要注目だ。そこで今回は「今夏の移籍注目イレブン」という形でまとめてみたい。
GKはこのテーマで最も難しいが、筆頭は中村航輔(ポルティモネンセ)か。2026年までの契約がある中村は昨年のトルコ戦で右肩を負傷。そこから1月に復帰してチームを助けたが、シーズン16位で、AVSフトゥボルSADとの入れ替えプレーオフに。ファーストレグはホームで1-2と敗れると、中村はセカンドレグでスタメンを外れたが、アウェーも同じスコアで合計2-4となり、2部降格が決まった。もともとフランス2部やトルコの強豪クラブからの関心も伝えられていただけに、去就が注目される。
また現在ベンフィカのBチームに所属するパリ五輪代表候補の小久保玲央ブライアンは大きな岐路に立っている。ポルトガル1部で2位となったトップチームは21歳のウクライナ代表GKアントリン・トルビンが君臨しており、セカンドGKも21歳のサムエル・ソアレスであることを考えると、そこに直接割って入るのはかなり難しい。具体的な移籍先が浮上しているわけではないが、パリ五輪を経て、期限付き移籍で武者修行に出るべきタイミングと言えるかもしれない。
右サイドバックは菅原由勢(AZアルクマール)が筆頭だ。オランダで5シーズンを過ごし、主力に定着している菅原はサイドバックにありながら4得点7アシストを記録するなど、攻撃力の高さも評価を上げているはず。契約を1年残すが、5大リーグ移籍は射程圏内と想定できる。興味レベルではセリエAやプレミアリーグなど、色々なクラブが浮上するが、菅原本人はもちろん、AZ側が納得いく正式オファーが届くかどうか。
センターバックは板倉滉(ボルシアMG)と町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)という日本代表でも定着する二人が、満を持して次のステップアップを果たす可能性は低く無いだろう。ただし、板倉は昨年10月に右足首を手術し、復帰直後にアジアカップ参加という形で、フルに貢献できなかったこと、またパリ五輪のオーバーエイジ枠で招集も有力視される。所属クラブと非常に良好な関係を築けているとみられるだけに、双方が納得の行くビッグディールが条件になりそうだ。
ベルギーで3年過ごした町田は初めて、主力としてフル稼働できたシーズンを終えて、どういう決断をするのか。リーグ2位に躍進したサン=ジロワーズは来季、UEFAチャンピオンズリーグの予選から参加することも決まっており、残留の選択肢もある。ただ、イタリア移籍を拒否するような一部の報道に関してはベルギーカップで優勝した直後に、イタリア人記者の問いかけに対するジェスチャーが、間違って広まってしまったということで、否定している。
左サイドバックは伊藤洋輝(シュツットガルト)が最大の注目だろう。本人もできすぎであると認めるクラブの躍進で、チャンプオンズリーグの出場権を獲得した。元々、昨夏から移籍の話が出ていた中で、紆余曲折あって残留したことが伝えられるが、結果的に3年目のブンデスリーガで伊藤自身の評価も大きく上げることになり、関心を持つクラブも想定される移籍金も1年前とは比較にならない。チャンピオンズリーグを目標に掲げてきただけに、もし移籍するなら同じくチャンピオンズリーグに出場資格のあるクラブになるのではないか。
ボランチは現在Jリーグに在籍する若手選手も含めて、候補の多いポジションだ。その中で鎌田大地(ラツィオ)と田中碧(デュッセルドルフ)を選んだ。鎌田はミラン移籍が頓挫する形で、ラツィオが手を差し伸べて、セリエA挑戦が実現した。しかし、サッリ前監督の要求と鎌田のスタイルがなかなか合わずに、主力定着できず。周囲も騒がしくなる中で、3月の監督交代により状況が一変した。
トゥドール監督の信頼を掴んで、中盤の主力としてヨーロッパリーグ出場圏内の6位フィニッシュに貢献した鎌田だが、フランクフルト時代の恩師であるグラスナー監督が指揮するプレミアリーグのクリスタル・パレス移籍が濃厚と伝えられており、1月に噂された放出という格好ではなく、惜しまれながら新たな環境で挑戦することになりそうだ。田中碧はアジアカップのメンバーから外れ、冬にも移籍が濃厚とされたが、結局は実現せず。フルシーズン戦い、ドイツ1部昇格のプレーオフまでこぎつけたが、浅野拓磨を擁するボーフムにPK戦で敗れて、昇格を逃した。どちらにしてもステップアップは確実視されるが、やはり有力なのはドイツ1部の強豪クラブで、国外移籍があるとすればプレミアリーグか。
パリ五輪エース期待の細谷ら国内組の挑戦にも注目
最もタレントが充実する2列目は久保建英(レアル・ソシエダ)、鈴木唯人(ブレンビー)、そして三笘薫(ブライトン)の3人。FC東京からスペインに渡り、6年間に渡り戦ってきた久保はレアル・ソシエダ3シーズン目にして、複数のメディアで“ラ・リーガ”のベスト11に選出されており、クラブが来季のチャンピオンズリーグを逃したことからも、ステップアップを後押しする形になるかもしれない。
ソシエダとは2029年までの長期契約が伝えられるだけに、相応の移籍金が必要となるが、下部組織に在籍していたバルセロナ移籍が、ここで実現するかは注目だ。ただ、現地メディアではリバプールの強い関心も伝えられており、本腰を入れてくれば資金力ではアドバンテージを握りそうだ。一方で古巣のレアル・マドリーはイングランド代表MFジュード・ベリンガムなど、欧州制覇したメンバーがそのまま主力にとどまるうえに、フランス代表FWキリアン・ムバッペの加入が確実と見られており、仮に復帰したとしても久保が居場所を見出しにくい。
6月のA代表にも招集された鈴木唯人はデンマーク1部で9得点7アシスト。この1年間で、最も株を上げた若手選手の一人であり、主に5大リーグのクラブによる争奪戦が予想される。その中にはサッカーファンなら誰でも分かるクラブが浮上しているが、やはり現実的に、新シーズンの開幕時から主力として活躍が見込めるクラブに行くべきか、多少リスクはあってもビッグクラブに身を投じていくかが焦点になるかもしれない。
三笘薫は飛躍の昨シーズンから打って変わり、怪我に泣かされたシーズンとなった。ブライトンもプレミアリーグで11位に終わり、欧州カップ戦を逃す結果に。現在の主力も大幅な入れ替えとなる可能性もある。その中で、三笘に関しては欧州の移籍専門メディア「トランスファーマルクト」での市場価値も当時より下落してしまったが、見方を変えれば“買い時”とも言える。現地メディアでは元横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督が率いるトッテナムや退任が決まった“恩師”のロベルト・デ・ゼルビ監督が就任する噂のあるマンチェスター・ユナイテッドなども候補になるが、怪我のリスクをどう見るかも各クラブの判断材料になるかもしれない。
FWは2列目に比べると、移籍が決定的という選手が見当たらない。状況を考えれば古橋亨梧(セルティック)が有力となるが、2027年まで契約を結んでいる古橋をクラブが安売りする必要はなく、基本的に移籍金で利益を得る体質のクラブではないことが、ステップアップを難しくするかもしれない。移籍の可能性ということではドイツ1部残留に大きく貢献した浅野拓磨(ボーフム)の方が高い。スプリント回数や守備面の貢献など、ドイツでの評価は高い浅野だが、FWとして残している数字を重視すると、国外へのステップアップが実現するかどうかは想定が難しいところで、やはりドイツ1部のクラブが現実的か。
そのほか、欧州初挑戦でいきなり2桁得点をマークした日本代表FW小川航基(NECナイメヘン)やゴール量産で“古豪”リーグ・アン昇格を牽引したオナイウ阿道(オセール)、一時は壁に当たりながらもキールのドイツ1部昇格に貢献した町野修斗といった選手も価値を上げているはずだが、移籍のタイミングとしては強く推しにくい。また今回はイレブンに入れなかったが、パリ五輪代表のエースとして期待される細谷真大(柏レイソル)など、Jリーグ組の新たな欧州挑戦があるかどうかは夏の注目どころだ。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。