J1強豪“大敗ショック後”何が? 士気低下の危機に…「俺らそうじゃない」と立ち上がった舞台裏【コラム】
ACL決勝で涙も…J1で完勝した横浜F・マリノスのリスタート
横浜F・マリノスは5月29日、日産スタジアムで行われたJ1第9節延期分で柏レイソルに4-0と大勝して、Jリーグでは7試合ぶりの勝利。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)ファイナルの終幕から見事なリスタートとなった。
ここまでラウンド16のバンコク・ユナイテッド戦から始まり、山東泰山、蔚山現代と、Jリーグと並行しながら厳しいトーナントを戦い抜いて、クラブとして史上初のファイナルに進出した。
UAEのアル・アインを相手に、ホームでの第1戦こそ2-1で勝利して、アドバンテージを持ってアウェーに乗り込んだが、早い時間帯の失点が響き、さらに守護神ポープ・ウィリアムの退場など、予想外の流れで5失点。合計スコア6-3というショッキングな結果で、アジアの頂点、そして世界を懸けた壮大な挑戦は幕を閉じた。
1週間弱で、日本とUAEを往復する長旅で、そのショッキングな敗戦から中3日足らずで迎えた柏戦だけに、心身両面で不安の声は多くあった。しかし、選手たちは何かが吹っ切れたように溌剌とした動きで、本来の前からのプレッシングや自分たちでボールを動かしながら、積極的に人数をかけていく攻撃で柏を押し込むと、立て続けにリードを広げた。
後半は柏が戦い方を修正して、前向きに得点を奪いに来たことに加え、横浜FM側にもさすがに疲労が見えてきた。それでも、センターバックを中心とした粘り強い守備から効果的なカウンターを仕掛ける。
途中、ポープの負傷アクシデントで、GKがベテランの飯倉大樹に交代したが、相手の間伸びを突いてFWアンデルソン・ロペスのハットトリックを含む、4得点につなげた。そうした戦い方ができた理由について、スタメン起用されたMF天野純は「開始からアグレッシブに行こうと決めていた。最近、プレスのところで緩い部分があったのを外で観ていて。そこで自分が先頭切ってハイプレスをかけることで、昔のマリノスの良さを取り戻そうと思っていた」と語る。
その天野はACLファイナルのピッチに立つことが叶わず、残酷なまでに厳しい結末をベンチから見届けることになった。この柏戦では「悔しいと同時に、(ピッチに)立てなかったことへの実力不足を感じてた。自分の存在価値を見せたい」という思いを胸に、目の前の試合に挑んだという。もちろん天野だけではない。色々な立場で敗戦を経験した選手たちが、思いをJリーグの試合にぶつけた。
こうした試合は心身両面で難しい戦いになるはずだが、それでも横浜FMらしいパフォーマンスで勝利できた理由について、天野は「本当にリーグ戦も今まではACLを言い訳にしてたじゃないけど、それがすべてなくなって。しかも、優勝できなくてみんな思ってたことがあると思う」と語る。
悔しい経験を糧に…Jリーグでの上位進出へ突き進む
試合を前に、ハリー・キューウェル監督を中心としたチーム全体、そしてMF喜田拓也キャプテンの音頭で、選手だけでもミーティングをしたというが、天野によると、そこで出た答えは「ここで右肩下がりになるのか、上がって行くのか。普通のチームは下がって行くけど、俺らそうじゃないよね」ということだったという。
この日、柏との古巣対戦で無失点を支えたDF上島拓巳も「(帰りの)飛行機の中はやっぱり、すごくどんよりした雰囲気でしたし、自分も引きずってはいたんですけど。日常生活に戻るにつれて、奥さんも労いの言葉をかけてくれて。練習場に戻ると、みんな前を向いて切り替えていこうという雰囲気が、僕も切り替えさせてくれました」と振り返る。
もちろん、敗戦の記憶が選手たちから消え去ることはないだろう。いや、それが消えないからこそ、また次のチャレンジで必ず生きてくるはず。上島はACLファイナルへの思いはしっかりと胸にしまいつつ、まずは目の前のJリーグで、横浜FMらしく勝利にこだわっていくことを誓う。
「あの大舞台で、僕だけじゃなくてチームとして力を発揮できなかったのが現実ですし、ただ、あの大舞台を経験できたからこそ、2回目は経験値として積み上がっていると思うので、絶対に獲りに行きたい」
そう語る上島の思いは、柏戦で左サイドバックのポジションから、鮮やかなミドルシュートによるチームの2点目を決めたDF永戸勝也も共有している。何とか切り替えられたのは試合当日の朝だったという永戸は「まだショックはショックですし、忘れることはないと思う」と認めながら、目の前のJリーグにしっかりと向き合っていくことの大事さを強調した。
昨シーズンのJ1で2位だった横浜FMは秋に始まるACLエリートの出場権を獲得している。ただ、その次のACLは今年のJリーグで上位に行かないと、出場権を勝ち獲ることはできない。
大会に出続けて、チャレンジし続けること。もちろんACLファイナルという大舞台は前回王者にも、準優勝に終わったクラブにも用意されているものではない。そこに辿り着くことも、険しい道のりであることはこれまで何度となく、グループステージや決勝トーナメントの1回戦で、壁に阻まれてきた横浜FMの歴史が物語っている。
それでも1年に1つのクラブしか味わえないその悔しい経験が、今後の戦いに生きてくることは間違いない。より強くなって、あの舞台に戻っていくために、Jリーグで勝利を目指し続ける日々が、またスタートした。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。