Jリーグに欧州200億円級クラブ誕生なるか? 有能な人材輩出に期待感も…ACL未来予想図に浮かぶ懸念【コラム】
200億円級のクラブ作りがJリーグの中期目標、大胆な施策も必要か
Jリーグは世界トップクラスのリーグとなる大目標を掲げている。それがシーズン移行の大義名分でもあった。
さしあたっての目標はベンフィカ、ビジャレアル、ASローマの規模のクラブを生み出すこと、という説明もされていた。これらはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)の優勝候補とは言えないまでも、EL優勝を狙えるくらいの実力がある。また、クラブの規模もこのクラスを目指すという意味もある。
今季のJ1で川崎フロンターレが苦闘している。第16節時点では15位、4勝5分7敗。まだシーズン途中とはいえ、黄金時代からの凋落は明らかだ。
あまりにも多くの人材が流出してしまった。日本代表の常連である守田英正、三笘薫、田中碧、旗手怜央、谷口彰悟が移籍している。さらに山根視来、登里享平の両サイドバックが抜け、クラブの将来を担うはずだった宮代大聖は昨季王者のヴィッセル神戸に引き抜かれてしまった。もちろん補強もしているが、マイナスを埋めるには至らなかったということなのだろう。
もし、移籍してしまった選手たちが全員残っていたら、実力的にはベンフィカやビジャレアルのクラスに達することはすでにできていたと思う。それが叶わなかったのは、本場の欧州でプレーしたいという選手の向上心もさることながら、移籍を食い止められるだけの資金力が川崎になかったからだ。
だからこそ、実力だけでなくクラブの財政規模を大きくしなければならず、前出の200億円クラスのクラブを作りたいというのがJリーグの中期的な目標になっているわけだ。
川崎と並ぶ黄金時代を築いた横浜F・マリノスは、川崎ほどの深手は追わなかった。アンデルソン・ロペス、エウベル、ヤン・マテウスのブラジル人FWを組み、日本人選手流出の穴を埋めている。しかし、その横浜FMもAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝ではアル・アイン(UAE)に2試合合計3-6と完敗を喫した。
来季から大会フォーマットが変わり、ACLエリートとなるトップコンペティションには横浜FM、神戸、天皇杯優勝の川崎が参戦するが、準々決勝からはセントラル方式の一発勝負となり、開催地はサウジアラビアに決まっている。
過去、中東で行われたACLで勝利したのはガンバ大阪だけで、中東開催は極めて分が悪い。さらに過密日程が追い打ちをかけることも予想される。周知のとおりサウジアラビアのクラブは欧州からトップクラスの選手を相次いで引き抜いて強化を続けていて、現状を見る限りJリーグは目標に近づくよりも遠ざかりそうなのだ。
クラブの収入として跳ね上がる優勝賞金をあてにしているようだが、ACLエリート優勝はこれまでよりもずっと困難になるだろう。
有能な選手を数多く生み出せるようになったJリーグだが、それとは裏腹にクラブの実力と財政規模の拡大は茨の道と言っていいかもしれない。目標を立てるにとどまらず、大胆な施策を打つ必要がありそうだ。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。