FIFAに直訴も日本戦の悪夢再び 北朝鮮、6月シリーズの平壌開催が幻に終わった舞台裏【インタビュー】

北朝鮮の6月シリーズはラオスで開催へ(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
北朝鮮の6月シリーズはラオスで開催へ(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

サッカー協会関係者が告白…北朝鮮はW杯アジア2次予選の自国開催を積極アピール

 U-17日本女子代表(リトルなでしこ)は5月19日、インドネシアで開催されたU-17女子アジアカップの決勝でU-17朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)代表に0-1と敗れ、準優勝に終わった。日本にとってはとても残念な結果だったが、一方、北朝鮮のサッカー関係者にとっては久しぶりの明るいニュースだったようだ。

 北朝鮮は3月に平壌で開催予定だった北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選の日本戦が中止になり、0-3という不戦敗判定になった。北朝鮮サッカー協会の関係者によれば、「親、兄弟、友人の前でプレーを見せる」と張り切っていたチームは非常に失望したそうだ。そして、その後の試合がなんとか自国で開催できないかとサッカー協会が国内外の各方面に働きかけていたという。

 だが、5月20日、またも彼らをがっかりさせる出来事が起きた。アジアサッカー連盟(AFC)は公式サイトで6月6日のW杯2次予選第5節シリア戦、6月11日の第6節ミャンマー戦という北朝鮮のホームゲーム2試合が、ともに第3国ラオスの首都ビエンチャンで開催されることになったと発表したのだ。

 現在の勝ち点は日本12ポイント、シリア7ポイント、北朝鮮3ポイント、ミャンマー1ポイントで、北朝鮮はシリア、ミャンマーを破れば勝ち点を「9」まで伸ばせることになる。一方、シリアは最終戦に広島での日本戦を控えており、北朝鮮に敗れてしまうと勝ち点7止まりということも考えられる。2次予選は2位までが3次予選(最終予選)に進出できるため、北朝鮮が次のステージに進む道が完全に閉ざされたわけではない。

 それだけに、最後の2戦を必勝態勢で迎えたかった北朝鮮サッカー協会は、5月に開催された国際サッカー連盟(FIFA)の場でも積極的に自国開催をアピールしたらしい。

感染症予防のために平壌への定期便間引き運航が影響

 それでも却下された理由は何か。大きな理由は交通手段だと北朝鮮サッカー関係者は明かした。

「現在、平壌への定期便は週3回あります。ただし、さまざまな理由で間引き運行されているのが現状です。そのため平壌へ移動する時に定期便とスケジュールが合わなければチャーター便を使うことになります。ですが今回はシリア、ミャンマーの2か国の選手と役員、AFCの役員、両国のメディアとファンを短期間の間に往復輸送しなければならず、AFCが航空便の輸送能力に疑問符を付ける形で裁定が下されました」

 かつてはもっと頻繁に空路が運航されていた。なぜ完全に再開していないのか。それは3月に日本戦が平壌で開催されなくなった理由である「感染症予防」だという。3月の時点では政治的な理由で入国させなくなったのを「感染症」のせいにしたのではないかという見解もあったが、そうではないということだった。

「実際のところ、3月に日本で試合をした代表チームも帰国してから3日間隔離されました。現在も渡航者が滞在した国によっては、平壌に到着後に1日から3日間の隔離期間が設けられています」

 他国にとって新型コロナウイルスは次第に昔の話になっている。だが対象となる感染症は異なるとしても、北朝鮮国内では今も厳しい予防対策が取られているらしい。

 どんなほかの国とも違う独特の雰囲気がある金日成スタジアムで試合が開催できないことは、北朝鮮にとって有利になる条件が減ったことになる。ただ、それでも彼らがW杯への夢を諦めたわけではない。

「次のシリア戦にまず勝つことが大切です。そうすれば、日本が最終節でシリアを下すという条件の他力本願になるかもしれませんが、W杯への道はまだ残ります。そうなったときに、もしかしたら3次予選で日本とまた同グループになるかもしれません。その時には今度こそ平壌で開催できることを願っています」

(森雅史 / Masafumi Mori)

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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