町田に訪れる「真の強さ」証明の機会 後半戦で問われる“対策”を越える修正力と完成度【コラム】
【カメラマンの目】町田は守備だけでなく、押し寄せる攻撃もダイナミック
東京ヴェルディDF陣が守るゴールのうしろから、望遠レンズを装着したカメラのファインダーの中にGKマテウスを捉える。気に留まったのは、このブラジル人守護神の振る舞いにハツラツさがあまり感じられず、精神的に不安定であるように見えたことだ。
J1リーグ第15節、FC町田ゼルビアの自陣から解き放たれた、攻撃の選手たちが東京Vゴールに向かって飛び出して行く。ホームゲームを戦う町田は攻撃に転じると、ボールを持った選手が勢い良く前線へと進出。周囲の仲間もその動きに素早く呼応し、攻撃に厚みを持たせようと敵陣へと進出して行った。
ボールを持った選手がサイドから進出すれば、ほかの攻撃陣はラストパスの供給を受けようとゴール中央へと走り込む。戦術による崩しへの共通意識を強く持った選手たちからは、自分たちのプレーに自信を持っていることがありありと感じられた。ボールはピンポイントとまでは言わないが、走り込んだ選手たちが要求するスペース近くへと出されゴールへのチャンスを創出する。その一連のプレーにはゴールの予感が強く漂っていた。
何より町田は攻撃のスイッチが入るとそこが攻め時と言わんばかりに、前線の選手たちが一気にゴールへと殺到した。相手ゴールへと押し寄せる町田の選手たちの攻撃は実にダイナミックだった。
この迫力ある攻撃を待ち受ける東京V守備陣、特に最後の砦となるマテウスにとっては、劣勢の展開となったなかで強いプレッシャーを感じ、平常心を保つのが難しかったのかもしれない。それがブラジル人GKの動きや仕草に表れていたのだろう。
黒田剛監督がチームを率いるようになってからの町田の代名詞は強力な守備だ。しかし、対戦相手のスタイルや実力にもよるのだろうが、この試合での町田は結果5得点を奪取した事実が示しているように、高い攻撃力を発揮した。
上位との再戦でも自分たちのスタイルを貫き通せるか
シーズン開幕前の宮崎でのキャンプを取材した際に感じたのは、町田の選手たちの充実ぶりだった。グラウンドの各所でコーチ陣の選手たちのハートを刺激する声が上がり、練習は活気に満ちていた。選手たちもコーチ陣の心中を察して、意図ある練習を精力的にこなしていた。そうしたチーム全体の活気ある姿を目の当たりにして、もしかして町田はJ1初登場ながら上位に進出する可能性があるのではないかと感じた。
そして、シーズンが開幕するとそうした予想をさらに上回る活躍を見せている。
町田の選手たちはよく鍛え上げられ、そしてタフだ。攻撃陣に目を向ければオ・セフンとナ・サンホの韓国人FWが奮闘し、若手も起用に応え活躍している。この試合でもパリ五輪メンバー入りを目指す藤尾翔太が2得点を叩き出した。さらに長期離脱から復帰していたブラジル人FWのエリキも交代出場でピッチに立ち、チームの5得点目となるゴールもマークした。
攻撃面で言えば、仮に長いシーズンを通してレギュラー選手が調子を落としたり、怪我でチームを離脱したとしても、それに代わるベンチメンバーのレベルは高く、選手層は厚くなってきている。町田は個人で状況を打開してしまうような圧倒的なスター選手はいないが、高い守備力をベースとしたチームは安定しており、相手によっては攻撃で圧倒できることも見せつけた。
改めて言うまでもないが、対戦する相手にとってはJ1初進出のチームとはいえ、現在の順位が示しているように、町田はまったく侮れない集団であることは間違いない。ただ、これからはチームスタイルがより研究され、長所を消されるような展開へと持ち込まれることも考えられる。
リーグ戦も15試合を消化し、各チームの立ち位置も鮮明になってきた。そうしたなかでリーグを牽引するのが町田に加え、昨年の覇者であるヴィッセル神戸と、常勝軍団への復活を目指す鹿島アントラーズだ。そして、名門のガンバ大阪と名古屋グランパスが続く。
町田がそうであるように、ここにきてリーグ上位に位置するチームは、実戦をこなすことによって問題点を修正していき、集合体としての完成度を上げてきた試合巧者たちだ。こうした相手とのリーグ後半での再戦は、町田のここまでの強さがフロックなどではなく、本物であることを証明する絶好の機会となる。
新たにJ1の主役の座を狙う町田は、リーグ上位チームとの再びの対戦でも自分たちが信じるスタイルを貫き通すことができるのか。その対戦が楽しみだ。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。