岡崎慎司が現役引退…“俺ならもっとできる”第2の人生への野望「選手だった時を壊す」【コラム】
シント=トロイデンで現役ラストマッチ、輝かしいキャリアに幕
元日本代表FW岡崎慎司が、その輝かしいキャリアの最後を迎えた。
清水エスパルスからブンデスリーガのシュツットガルトへ移籍したのが2011年。ドイツ時代の取材記録を見直していたら、海外挑戦3年目にこんなことを話していた。
「ふと気づいたらもう3年目。もっと海外でやりたいなって思っています。世界を目指すならやっぱりこっちで長くやりたい。今そこまで点を取れなくても、まだ自分が爆発するところではないかもしれない。内容が良ければ絶対結果につながると信じている」
海外生活は13年にも及んだ。マインツでは日本人最多記録となるシーズン15ゴールをマークし、2年連続二桁得点も達成。プレミアリーグのレスター・シティでは“ミラクルレスター”のリーグ優勝に貢献した。スペインのウエスカでは2部から1部へ昇格し、カルタヘナを経て辿り着いたベルギーのシント=トロイデンではインサイドハーフとしての挑戦もあった。
数々の記録と記憶を残した岡崎。現役ラストマッチとなったルーヴェン戦ではスタメン出場し、後半8分までプレー。この試合を最後に引退すると決意して、己のすべてを懸けてこの試合に臨んだ。
「『あぁ、終わりかぁ』って感じですね。前半45分できて、監督からあと5分だなって言われた部分もあったんで予測はできていたというか。交代選手がいるのを見て、『本当に終わりだな』って」
何もかもが最高の形で引退できる選手というのはそうはいない。みんなどこかで何かを飲み込みながら、最後の決断をする。幾多の「ひょっとしたら」「もしかしたら」と向き合って、あがいて、もがいて、それでも届かなくて。そうやって折り合いをつけていく。
「本当にもうしょうがないって感じですね。今シーズン、上に行けるって思ってたからやれてたところがなくなってしまった。今日やってても、もっと上に行けるようなプレーができてないなって思った。はっきりともう、終わりだなって思いますね」
選手時代が終わることに寂しさがないはずがない。特別だという思いがないはずがない。どれだけ必死にここまで走り続けてきたことか。もう駄目かもしれないという限界を何度乗り越えてきたことか。自分でもあきれるほどに、向上心が強かった。どれだけのことを成し遂げても、「俺ならもっとできるはず」と視点を上に向けてきた。そんな岡崎だからこそ選手時代の終わりは、人生の終わりではなく、新しいチャレンジのスタートなのだ。
「寂しい気持ちは自分にもあります。けどそれよりも選手では辿り着けなかったところに、次のキャリアで辿り着きたいっていう思いのほうが強い。ほっとしてるというよりは、もっと上に行きたいっていうほうが強いですね」
海外でキャリアを終えたいかと尋ねたことがある。「いやぁ、そこまでは」とその時は答えていた。人生何があるか分からない。自分がどこまで歩み続けられるのか、どこまで辿り着けるのかは分からない。だから今自分がどこにいるかも定められないし、定める必要もない。まだまだ岡崎のキャリアはここからなのだ。
「選手だった時を壊して、またいちから作り直したいという気持ちが大きいですね。自分からしたら悔しい出来事のことしか記憶に残ってなくて、だからみんなに自分を証明したいという思いが強いんです。次は違うことで達成したい」
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。