磐田ジャーメイン良“ロス”解消に目途?…苦境で救世主が出現「サッカーの神様っている」【コラム】
ホームの浦和レッズ戦でドロー決着も、エース不在から待望の初ゴール
ジュビロ磐田は5月19日、エコパスタジアムで浦和レッズと対戦し、1-1で引き分けた。磐田は3節前の東京ヴェルディ戦を2-3で落としてから3連敗を喫していたが、3連勝中だった浦和を相手に勝ち点1を掴み取った。しかも、途中出場のMF金子翔太による同点弾はエースのFWジャーメイン良を欠いてから3試合目で初のゴールだった。
試合は前半の途中までボール保持率が10%になる展開で、左右のインサイドハーフとウイングを起点に多くのチャンスを作られ、最も危険なパスの出どころと見られたアンカーのMF安居海渡をFWマテウス・ペイショット、トップ下に起用されたキャプテンのMF山田大記で消し、決定的なシーンに持ち込ませない。
ハイラインを敷く浦和のDFアレクサンダー・ショルツの持ち上がりは危険だったが、中締めを徹底させながらハーフスペースを狙ってくる選手にはセンターバックのDFリカルド・グラッサが前に出て、そこをボランチのMFレオ・ゴメスかMF上原力也が埋めるなど、状況に応じた柔軟なローテーションも機能していた。
外目には浦和が圧倒しているような内容でも、磐田の選手たちは右センターバックのDF鈴木海音が「割り切ってブロック敷くところは敷こうと話していた」と振り返るように、冷静に厳しく守りながら、シンプルに裏返す攻撃を繰り出すことで、浦和のチャンスを連続させないようにできていた。
浦和戦前までの14試合で前半の得点が4、後半の得点が14と大きな差があり、一方で失点は前半が10、後半が11だった。横内昭展監督が「本当にうまくインパクトを与えるスタートを切りたいんですけれども、できないことはもちろんあるので。そうなった時に我慢強くやるのは重要かなと思います」と語るように、ここまで押し込まれた試合展開は想定外だったかもしれない。しかし、浦和がうしろから広くボールを動かしてくるなかで、最低でも前半は失点せずに乗り切り、後半に攻撃のギアを入れていくプランは見て取れた。
実際に後半は入りから磐田も前半よりはボールを握って点を取りに行く姿勢が見られたが、逆に浦和にとっても攻守の切り替わりから縦にボールを運びやすくなり、FW前田直輝の右クロスに左からFWチアゴ・サンタナがヘッドで合わせて、惜しくもゴール左に外れるビッグチャンスも生まれた。そこから後半23分に、左のコーナーキックを獲得した浦和がFW中島翔哉のキックに、DFマリウス・ホイブラーテンがファーでバウンドしたボールを右足で押し込む形から待望の先制ゴールを奪った。
その直前にボックス内で浦和のMF伊藤敦樹がMF植村洋斗を抱え込んで、結果的に植村がボールをクリアできなかったことで、ファウルの可能性があったのか、ゴール確認に少し時間を要した。その切れ目に横内監督はDF西久保俊輔と開幕以来のリーグ戦出場となった金子を送り出す。そこから磐田ボールで再開されたファーストプレーから、まるでサポーターの歌う「磐田の反撃」を象徴するようなゴールが決まる。
「勝点1以上のものがあった」と横内監督も前向き
リカルド・グラッサのロングボールを巡り、MF松本昌也が浦和の安居と競り合うと、セカンドボールは中島に拾われるが、そこからMF渡邊凌磨との速攻を仕掛けようとしたところで、植村と西久保が挟んでマイボールに。そこからペイショットがキープする間に、松本が外側を追い越してクロスに持ち込み、ファーでMF平川怜がインに落としたボールを上原がシュート。GK西川周作が反応していたが、ショルツとホイブラーテンの合間に忍び込んだ金子がワンタッチでコースを変えて、西川を破った。
「イレギュラーシュートの練習をほぼ毎日、自分で分析して、綺麗な形のシュートよりかは予測してないシュート練習をやりこみました。今日もそう言った形だったですけど、それがファーストタッチのあのタイミングでパッと出るというのは本当、サッカーの神様っているんだなと」
2か月ぶりのリーグ戦で、いきなり救世主的な働きを見せた金子はそう振り返る。結果的に同点ゴールをアシストする形となった上原は浦和戦を前に「ジャメくん(ジャーメインの愛称)を多く利用したサッカーで、ジャメくんとペイショットをうまく使うサッカーをしていたなかで、その選手がいなくなったので。サッカーを多少変えないといけない」と語っていた、まさに有言実行のアシストだった。
そこからペイショットの渾身のヘッドがGK西川にセーブされるシーンもあったが、後半アディショナルタイムにはDF大畑歩夢のシュートを川島がビッグセーブで救い、1-1の引き分けとなった。怪我から3試合ぶりの復帰となった守護神は「あれだけみんながハードワークしてくれたので。本当にフィールドプレーヤーはきつかったと思うし、それをどこかで結果につなげられなければいけないので。そういう意味では仕事ができたことは良かった」と振り返る。
もちろんホームで勝ち点3を獲得できれば理想だが、エースの離脱、3連敗、2試合無得点と厳しい状況だった磐田にとって、この勝ち点1、そしてなによりチームが自信を取り戻すゲームになったことは大きい。横内監督も「勝点1しか取れませんでしたけど、それ以上のものがこのゲームにはあったと思っています」と前向きに語った。
さらに1か月は要すると見られるエースの復帰まで、磐田にとって苦しい戦いが続いていくが、こうした時期を乗り越えることで得られるものも少なからずあるはず。この勝ち点1をより意味のあるものにするために「今日以上に魂のぶつかり合いというか。順位の関係性もそうですけど、勝ちたいと思う」と金子も意気込んでおり、次節の湘南ベルマーレ戦が重要性を帯びてくる。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。