破竹の7連勝清水を止めた横浜FC、1年でJ1復帰なるか “上昇気流”が期待できる「3つのポイント」【コラム】
横浜FCは7連勝していた清水を止め、調子を上げている
2023年J1で最下位に沈み、1年でJ2降格の憂き目に遭った横浜FC。そういったケースだと指揮官交代に踏み切るクラブが多いが、2022年に就任して1年でJ1昇格へと導き、2023年も最後の最後まで粘り抜いた四方田修平監督の手腕をクラブ側は高く評価。あえて続投を決断し、J1復帰を目指して2024年シーズンを戦っている。
「ここ数年、昇格と降格を繰り返している我々にとって、J1定着は直面している一番の課題。J1定着できるような基盤をしっかり作ることも現場として考えていく」と指揮官も宣言。チーム作りを進め、今季を迎えた。2年前のようなロケットスタートを期待する声も大きかったが、序盤5戦は2勝1分1敗の勝ち点8。8位とやや出遅れる形になった。
「2年前がうまく行き過ぎただけ。まあこんなもんです」と四方田監督は3月末に冷静に語っていたが、そこから清水エスパルスが破竹の勢いで勝ち始め、トップとの差が開いてしまった。15節終了時点では、勝ち点37の首位・清水に対し、横浜FCは同25の4位。5月18日の直接対決で差を詰めておくことは、今後の浮上を考えても必要不可欠だったのだ。
「個人的には今年一番大事な試合だと思っている。勝ち点1を与えても負けに等しい。何が何でも勝ち点3を取らないと上位についていけない。そういう気持ちでのぞみたい」と北海道コンサドーレ札幌から移籍してきた福森晃斗も珍しく感情を露にしていたが、凄まじい闘志をチーム全員が抱いていたのだ。
それが試合序盤から色濃く出た。この日の横浜FCは球際や寄せ、気迫といった部分で相手を上回り、主導権を握った。そして前半17分には右コーナーキック(CK)をゲット。左足の名手・福森はシンプルに蹴り込むのではなく、井上潮音と意思疎通を図り、ショートコーナーを選択。相手マークを剥がし、リターンを受けて、ファーサイドに精度の高いクロスを送った。そこに飛び込んだのがガブリエウ。2022年カタール・ワールドカップ(W杯)日本代表の守護神・権田修一も反応しきれず、待望の1点をもぎ取ることに成功したのだ。
後半は清水がギアを上げてきて受ける形になったが、相手の4バックから3バック、そして4バックと猫の目のように変えてくるシステムにもしっかり対応。高度な守備組織を90分間継続した。そのうえで、最後の最後には巧みなカウンターからベテランFW伊藤翔がダメ押し点を挙げるのだから、笑いが止まらない。2-0の完勝で横浜FCは勝ち点を28に伸ばし、4位をキープ。1位・清水との差は9、2位のV・ファーレン長崎とも5差あるが、浮上の兆しが見えてきたのは確かだ。
前向きなポイントの1つは福森、中野嘉大ら四方田チルドレンの活躍。彼らは札幌で指揮官が指導していた時の教え子。「2015年に39試合出て、ちょっと有頂天になっていたのを見透かされて、2016年の開幕戦でいきなりベンチ外にされた。ヨモさんは優しい顔してやることは結構エグいですから」と福森が苦笑すれば、中野も「札幌で通用するかどうかの確証が持てなかった自分を認めてくれた恩師」と強調する。強固な絆のある2人が今季の横浜FCで献身的なプレーを見せ、周りを鼓舞してくれるのは、四方田監督にとって非常に力強い材料だろう。
特に福森はリスタートのキッカーとして強烈なインパクトを残している。清水戦でも得点シーンのみならず、CKやフリーキック(FK)のほとんどがチャンスになっていた。
「キックの部分は自分の持ち味だと思っていますし、そこでチャンスを作れなければ、自分がピッチに立っている意味がないと思う」と本人も自覚を口にする。桐光学園高校の大先輩に当たる中村俊輔コーチからのアドバイスもあり、ボールの蹴り方や足の当てるポイントまで見直した効果も大きいという。この男がいることによって、得点確率がアップしているのは大きな強みと言っていい。
2つ目のポイントは、3月に浦和レッズからレンタル移籍してきた髙橋利樹の存在。昨季の浦和では左サイドを主戦場にしていた髙橋だが、ロアッソ熊本時代のように最前線にいる時の方が異彩を放つ。四方田監督も最初は2シャドウの一角で使ったりしていたが、清水戦では彼がターゲットマンとしてしっかりボールを収めたことで、攻撃がスムーズに回っていた。その背後で走れる小川慶治朗とカプリーニが躍動し、清水守備陣も相当に手を焼いていた。
「レッズでサイドハーフをやって、FWが受けてほしいタイミングだとかを考えることが多かったので、自分が改めてFWに入ればよりよい動き出しができるようになると思う。自分のゴールや献身性など持っている力を100%このチームに注ぎたい」と本人も加入当初に語っていたが、それがピッチ上で形になりつつあるようだ。
四方田イズムでハードワーク「ここ一番で力の発揮できるチーム」
3つ目はブラジル人選手を含めたハードワークだろう。今季の横浜FCには最終ラインに陣取るカブリエウ、ボランチのユーリ・ララ、アタッカーのカプリーニら複数の外国人選手がいるが、彼らが総じて献身的にプレーできるのだ。
「清水戦はブラジル人選手含めて守備の意思統一が90分間できていた。みんな最後まで体を張ってゼロに抑えることができたし、ピンチもあったけど粘り強く戦えた」と福森もポジティブな発言をしていたが、これだけの一体感が持続できれば、自ずと結果もついてくるはず。総失点9というリーグ最少失点の守備は最大のストロングに違いない。
「自分は『このサッカーしかやらない』という監督ではなく、『目の前にいる選手の良さを引き出していこう』と考えるタイプ。チームの一体感や戦う姿勢を非常に大事にしていますし、ここ一番で力を発揮できるようなチームを目指しています。昨季の戦い方から『守備的なサッカー』のイメージが強いかもしれませんが、守備で重視しているのは、いかに組織的にボールを奪うか、いい守りをするか。そのうえで、素早く攻めることをテーマにしていて、奪った後の速攻は特に大事にしています」
四方田監督も今季開幕前に自身のポリシーをこう語っていたが、そのコンセプトが浸透しつつあるのは確か。清水戦では堅守速攻が大いに光っていた。それを研ぎ澄ませ、どういった相手に対してもしっかり守って鋭く一刺しができるようになれば、清水や長崎に肩を並べる日も近そうだ。期待を持っていいだろう。
今後の横浜FCは、5月22日のYBCルヴァンカップ・名古屋グランパス戦を挟んで、ヴァンフォーレ甲府、愛媛FC、徳島ヴォルティスといった負けられない相手との試合が続く。ここで連勝し、6月末の22節終了時点でJ1昇格圏の2位以内に到達している状況が理想的。彼らの中盤戦以降の動向から目が離せない。
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。