シーズン移行への“現場のリアル” 降雪地域の山形社長が語るメリットと課題「上手くやっている業界はある」【インタビュー】
山形の相田社長はシーズン移行に「不安はあまり感じていない」
Jリーグは昨年12月、2026-27シーズンから現在の「春秋制」から「秋春制」に変更することを正式に決定した。残された課題もあるなかで、Jリーグクラブはシーズン移行をどのように受け止めているのか。現場の“リアル”な声を届けるため、降雪地域を本拠地とするJ2モンテディオ山形の相田健太郎社長に話を訊いた。(取材・文=石川遼)
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春秋制の現在はリーグ戦が2月第3週頃に開幕し、12月第1週頃に閉幕というスケジュールとなっている。これが秋春制になると、8月第1週頃に開幕し、5月最終週頃に閉幕となる。これによって欧州リーグやAFCチャンピオンズリーグ(ACL)とのシーズンのズレが解消され、暑さの厳しい夏場の試合数が減少するなどのメリットが生まれる。
一方で、Jリーグには降雪地域を本拠地とするクラブが一定数存在するなかで、冬場がシーズンに重なることを懸念する声もある。しかし、これまでシーズンオフだった12月から2月の時期には約2か月間のウインターブレイクが設けられるため、冬場に開催される試合数は現在から大きく変わらないのが実情だ。
Jリーグはこのシーズン移行を1つのきっかけとして、新しく生まれ変わろうとしている。こうした大きな変化の前には不安を覚える人も多いかもしれないが、そうしたなかで山形の相田社長はシーズン移行による「不安は感じていない」と語る。
――シーズン移行が正式に決定しました。初めに、クラブとしてこの決定をどのように受け止めているのか教えてください。
相田健太郎社長(以下、相田)「我々は降雪地域のクラブとしてはおそらくかなり早い段階から(シーズン移行に対して)賛同してきました。移行によって現シーズンと冬場の試合の開催の日程は大きく変わらないということがまず1つと、夏の開幕になることでホームでスタートできるという点は大きなメリットだと感じています。これまではどうしてもキャンプ地から開幕を迎えるというのが通例になっていましたから(2024年シーズンは千葉県内でのキャンプ中に開幕を迎えた)。シーズンの最後も自分たちのところで迎えられる可能性もありますし、そういった部分はメリットとして受け止めています。
もう1つ挙げられるメリットとしては、指定管理事業をやっているクラブとして(夏から秋にかけての)グリーンシーズンにオフがくることによって、そこでもしっかりと売上を作れることです。これまでのように冬場がオフだと、雪が積もって施設が止まってしまい、売り上げが作れないという課題がありました」
メディアにも真正面から事実を書いてほしい
――逆に、デメリットについてはいかがでしょう。練習環境や日程調整に関する問題、また試合の平日開催が増えることなどを懸念する声もあるようです。
相田「練習環境については、現在とさほど大きく変わらないので、あまり影響はないと考えています。各クラブにそれぞれの事情はあることは理解していますが、あくまで我々のケースをお話すると、天然芝の専有グラウンドが2面、雪が降った際にも利用できる屋内施設などが我々が指定管理者となっている運動公園の中にあり、それらを活用することで対応できるだろうというのが正直なところです。
試合の平日開催に関して言うと、リーグ側にも平日の日程は集客がしやすいように調整してほしいと思っています。例えば、学校が始まったばかりの時期や春休みの時期の平日に試合が入ると、学校単位で動員を作ることはできません。昨年、私たちが平日にデーゲームを開催しましたが、遠足や課外授業のタイミングに試合を開催し、今までサッカーの試合を見たことがなかったお子様が多く来場しており、後日ご家族で試合にいらしていただいたケースもあります。しっかりと意味づけた形で開催できるような日程を調整していただけるのであれば、平日開催が多少増えることもそれほど問題にはならないと考えています。
施設の日程調整についても行政との兼ね合いが課題としても挙がっていましたが、これについてはバスケットボール(Bリーグ)などがすでに秋春制のシーズンでしっかりと回ってるのを拝見していると、もちろん交渉にもよりますが、比較的問題は少ないのではなかと考えています。すでに上手くやっている業界があり、売り上げも動員も業績も伸ばしているなかでは、あまりネガティブに捉える事象ではないかもしれません」
――シーズン移行に関して、大きな不安は感じていないということですね。
相田「高校や大学の新卒の選手の加入のタイミングをどうするのかという点は気になりますが、今でも特別指定選手制度を活用していますし、それもあまり問題にはならないのではないかと考えています。シーズン移行をするのならば、準備をする時間が長いほうがいいので、あまり結論を長引かさずに決めてほしかったという思いはありました」
――冬場の試合数の増加について、現在と比較してもほとんど変わらないとリーグ側から発表されていますが、ファン・サポーターの中にはそういった事実がしっかりと周知されていないことに不安に感じている部分があったようですね。
相田「そういった問題も実際の日程がはっきりと出た時点で解消されると考えています。僕がサポーターのみなさんと直接お話した時(2023年7月にシーズン移行検討意見交換会を実施)はまだ情報が足りない時期でした。あの時とはもう状況が変わっています。たしかに、今年は山形でも3月に入ってからもすごく雪が続いたりと想定外の状況もありましたが、それがシーズン移行の不安につながるかと言えば、そんなことはないだろうと感じています。
そのなかで、今年も我々は練習の時などに雪かきのボランティアをお願いしますとSNS上で呼びかけをしたことがあったのですが、その時に『シーズン移行に賛成したくせに人の力ばかり頼っている』というようなネガティブな発言をあたかも多くのご意見のような形でネットニュースに取り上げられてしまうことがありました。当たり前のように『雪かきのお手伝いをお願いします』というような発信をクラブがしてしまったことも落ち度はあったと思います。ただ、実際は一部の声なはずですが、それが大多数の意見であるかのような書き方をされてしまうことはあまりいいことだとは思いませんでした。あまりネガティブな部分だけをクローズアップするのではなく、メディアの方々にも真正面から事実を書いていただきたいというのが正直な思いです」
細部の内容にあまり進捗がないことが懸念材料
――12月から2月にかけては新たに約2か月間のウインターブレイクが設けられ、シーズン途中に大きな中断が挟まることになります。
相田「各クラブ、その時期(12月第2週頃から2月第3週頃)は今と同様にキャンプを行うことに思いますが、今とはキャンプの目的が変わってくるはずです。ただ、気がかりなのは、2か月近くシーズンが止まってしまうということで、Jリーグに対する世間の関心が損なわれてしまうんじゃないかという点です。ウインターブレイクが明けて、いざリーグが再開するという時にプロモーション不足になったり、野球などほかのスポーツにのまれてしまうんじゃないかという意見は議論の中でも挙がっていました。
個人的には、多くのクラブが西日本の雪が降らない地域でキャンプを張っている期間にカップ戦を開催するなど、話題を作りやすい新しい取り組みがあってもいいのではないか思っています。もちろんその場合に試合の売上をどのように分配するのかなどの新しい課題も出てくると思いますが、上手く仕組みを作り、リーグ戦の中断期間にもJリーグの話題を提供していけるような取り組みが必要なんじゃないかと考えています」
――一方で、暑さの厳しい夏場の試合数は減ります。この点についてはどのように感じていますか。
相田「やはり6、7月でも本当に暑いですからね。2月に開幕して半年後に夏を迎えるのと、開幕に向けて調整してきたなかで夏を迎えるのとでは、身体の状況が大きく異なります。そういう意味ではやはりポジティブな部分のほうが大きいと思います。
毎年夏の手前、6月頃から選手たちのコンディションは明らかに落ちていました。そこで筋肉系のトラブルが出始めると治りにくく、治っても身体が重い状況は続いている。あの時期に連戦が入ってくると相当しんどいはずですから、これは選手たちの負担を考えれば必要な変化だと思っています」
――2025年シーズンの終了後、新しい2026-27シーズンへと移る移行期をどのように調整するのかという問題もあります。
相田「そうですね。実際のリーグの進行についてはほとんど不安は感じていませんが、(2025年から2026年の)切り替えのタイミングでスポンサー企業との契約に関するスタートラインをどこで引くのかというところの調整については、下手をするともう今年の年末くらいには作業に取り掛からなければいけない部分です。まだまだ調整しなければいけないところが多いと思うので大変だと思いますが、リーグには決められることをテンポよく決めていただけるとクラブはやりやすくなると思います。私としてはシーズン移行が正式に決まってから、まだ内容がそれほど進捗されないことが少し気になっています」
――最後に改めて、ファン・サポーターのみなさまに向けてコメントをお願いします。
相田「我々は、試合を観ていただいている方たちがいるから成立している事業であり、ファンやサポーターのみなさまに支えられています。シーズン移行に関しては、それぞれが住んでいる場所や環境によって意見もさまざまに変わってくるものだと思いますが、全60クラブが一生懸命に考えて出した答えだと私は思っています。やると決まった以上、我々はそこに向けてしっかりとした準備を進めています。そのなかで、みなさまにもこれまで以上にご協力いただくこともあるかもしれません。Jリーグの成長はもちろん、私たちは試合を観ていただくためのよりいい環境を整えるために尽力してまいります。引き続きクラブへの応援よろしくお願いいたします」
[プロフィール]
相田健太郎(あいた・けんたろう)/1974年生まれ、山形県出身。4~9歳と中学3年間をアルゼンチンで過ごし、帰国後、東洋大学経営学部を卒業。不動産会社勤務を経て2003年、J2水戸の運営会社に入社した。07年にプロ野球・東北楽天ゴールデンイーグルスを運営する株式会社楽天野球団に移り、新規営業を担当。17年にJ1神戸を運営する楽天ヴィッセル神戸に出向し、強化部長などを歴任。19年1月1日から山形の代表取締役社長を務める。