アンチフットボール議論の火付けの過去 城福監督×黒田監督の因縁とライバル関係【コラム】
2023年に城福監督の「時間を分断する」発言が話題に
始まりは2023年5月13日、J2リーグ第15節、東京ヴェルディ対FC町田ゼルビアだった。試合後、東京Vの城福浩監督が町田ベンチに行くと何か怒ったように話をしている。黒田剛監督は戸惑ったように対応していた。
続いて第25節、国立競技場で行われた町田対東京V。試合は町田が2点を先行するが、東京Vが終盤の粘りで同点に追いつき、そのまま終わった。その試合後の記者会見で城福監督は悔しさを滲ませながら語った。
「相手はとにかく倒れて、やれないかと思っていたあとにまたプレーする。それに対して、選手は辛抱強く、我慢強く、それで追い付いたからこそ、サッカーで勝ちたかった」
「時間を分断する行為がものすごく多いというのは、J2を戦ったうえで感じている。自分たちのリードで極端にそれが出てくるチームと、自分たちがリードしてもほとんど変わらないチームがあり、我々は後者だと思っている」
これが圧倒的な強さでJ2リーグを独走していた町田への非難に結び付いた。「町田はコロコロ倒れる」「町田はロングスローで露骨に時間稼ぎをする」「町田はアンチフットボール」というのは、SNS上で町田を揶揄した声だった。
のちに城福監督は「時間を分断する」と言ったのが町田に対してではなく、J2チーム全般に対しての意見だと説明した。だが、その時にはすでに町田のイメージ付けになってしまっていた。
お互いのクラブハウスの位置はほかのどのクラブよりも近い。ともに「東京」を本拠地としており、2023年には同時にJ1昇格を果たしたチーム同士。意識し合わないほうが不自然というものだろう。実際、昇格を決めたあとだったにもかかわらず、黒田監督は東京Vと清水エスパルスとのJ1昇格決定戦を見に来ていた。
5月19日に町田と東京Vが激突
城福監督は63歳、黒田監督は53歳。城福監督は2008年からプロチームの監督生活をスタートし、2012年にはJ2のヴァンフォーレ甲府を率いて優勝してJ1昇格を果たした。黒田監督は2023年、町田の監督に就任するとすぐにJ2リーグを制し、今年はJ1リーグで上位争いを繰り広げている。
城福監督とすれば、年下のまだキャリアの浅い監督に負けるわけにはいかないだろう。しかも町田の「勝利のため」にすべてを集中させるサッカーは、自身の理想のサッカーとは違うはずだ。
今シーズン、東京Vが後半44分以降に追いつかれたり、決勝点を決められたりした試合は4試合。町田ならためらわずボールキープなどで時間を使い、その4試合で勝ち点8を積み上げようとしたのは間違いない。
5月19日に行われるJ1第15節の対戦を前に、城福監督は町田と黒田監督についてコメントした。
町田は「先制点を取ると本当に勝負強いチームですし、もちろんいろんな手段を使って時間を進めてくるという意味では、それが町田さんの徹底したやり方でもあるし、武器でもある」とチクリと刺しながらも褒めた。
だが、「我々はゴール前で待って、パワープレーのようにボールをロングフィードして、絶対ヘディングで勝つ選手がいて、そのこぼれを狙う」とも表現し、それに対抗するには「モビリティー」だと分析する。
そして、黒田監督の印象について聞かれると「リスペクトしていますよ」とニヤリ。去年の初対戦で試合後に詰め寄ったように見えたことに関しては、「まぁゲームが終わった直後なので」と熱くなっていたことを認めつつも、「同じ東京同士なので、遺恨というかエモーショナルな部分を含めて盛り上がる要素」とお茶を濁した。
そして、「我々はチャレンジャーでしかないですし、(町田は)あとから出てくる選手も含めて、やり方の徹底もそうですし、各ポジションの選手層もそうですし、バジェットと編成とそれを生かす戦術って意味では、今の順位にふさわしいんじゃないですか」と冷静に語る。
さらに、「チームの戦術から逆算した正しいお金の使い方をしたら、昇格1年目でもこういう成績が残せる。その指向は僕とはまるで違います。だけど、それはサッカーから見て正しいかどうかは別問題。資金力と編成力が合致すれば何年J1でいたかなんて関係ない。これはJリーグとしたらものすごく刺激的なことだし、刺激に思わなければいけないクラブがたくさんある」と、自分とはサッカーの考え方は違うものの、町田がJリーグに与えたインパクトは大きいと説明していた。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。