あえて首位・町田に釘を刺す J1で「連敗未経験」で懸念される“大崩れ”のリスク【コラム】
初昇格のスケールを超えている町田の快進撃
FC町田ゼルビアの快進撃が続いている。
12試合を終えて1試合の平均得点が1.50点でリーグ4位、平均失点は0.83点でリーグ2位、シュート数113本はリーグ10位、被シュート数102本はリーグ4位。シュート決定率は15.93%でリーグ4位、被シュート決定率は9.80%パーセントでこちらも4位だ。
先制点を奪ったのはリーグトップの12試合中9試合、しかも8勝1分と先制点を奪えば負けることはない。また、前半終了時点でリードした試合は7試合あり、それも6勝1分とリーグトップの勝率を誇っている。
第12節を終えて勝ち点25で首位と、「5位以内、ACL出場圏内」という目標に確実に近づいているように見える。U-23アジアカップから平河悠、藤尾翔太という攻撃の2枚看板が返ってきたのに加え、2023年J2リーグMVPのエリキも復帰。またバスケス・バイロンも負傷からピッチに戻ってきて、外国人枠の関係でベンチに入れない選手まで出てきた。
ただし、まだ「新参者」に対する情報不足と捉える向きもある。複数のJクラブ関係者が「一巡してからはこうはいかない」と息巻いているのを聞いた。一度対戦すれば分析は進むというのだ。
過去、J1に初昇格したチームが前半戦と後半戦でどれくらい勝点が違ったか。1999年のJ2リーグ発足以降、初昇格したーチームは13チームある。そのうち前半戦のほうが勝ち点をより挙げたのは8チームだ。
後半戦のほうが多かったのは、2000年の川崎フロンターレ(10→11)、2004年のアルビレックス新潟(14→23)、2006年のヴァンフォーレ甲府(18→24)、2009年のモンテディオ山形(19→20)、2012年のサガン鳥栖(24→29)。このうち川崎と山形はほぼ変わらないと考えていいだろう。
もっとも、どの初昇格のチームも前半戦(16または17試合)で今の町田の勝ち点25には届いていない。まだ12試合しか消化していないということで、町田が初昇格のスケールを超えていることが分かるだろう。
層が厚いがゆえの不満は問題ないと黒田監督は自信
こうなると、初昇格チームというレッテルではなく、過去のデータを調べたほうが良さそうだ。12節で首位にいたチームが、5位より下に落ちることはあるのだろうか。2005年以降の12試合消化時点で考えると、1位だったチームがそのまま優勝した例が5回、2位と3位が4回ずつ、4位と5位が1回ずつある。
例外は2008年の浦和レッズ(7位)、2010年の清水エスパルス(6位)、2013年の大宮アルディージャ(14位)、2017年のガンバ大阪(10位)。19シーズンのうち15シーズンでは目標の5位以内をクリアしているのだから、初昇格ということを外してもこのまま上位に食い込む確率は高そうだ。
この町田のサッカーに対して、今年も聞いたのが「あれだけ走っていたら夏場はバテる」という対戦相手からの声だった。だが、実は去年も同じことを言われていて、それでも乗り切っている。
選手層も、FWが藤尾、オ・セフン、ナ・サンホ、ミッチェル・デューク、エリキ、そして昨シーズンは全試合で起用された荒木俊太と6人揃っているなど、コンディションを考えながら使い回すことができるように揃っている。
また、今季初黒星を喫した第6節サンフレッチェ広島戦のあとに原靖フットボールダイレクターが「これで分析して手が打てる」とさらなる補強を示唆した。昨季も開幕後に6人を補強するなど戦力充実に余念はなかったことを考えると、今年も追加登録はありそうだ。
問題点になりそうなのが、この選手層だろう。今挙げたFWだけでもほかのチームならレギュラーだ。ところが町田では外国人枠の関係でベンチにも入れなかったりする。だがこれに対して黒田剛監督は「コミュニケーションを増やし、出られない理由を説明している」と自信を見せた。
そんな町田で一番懸念されることは何か。それは黒田監督の就任以来、連敗したことがないということだ。
一見強みに見えるが、これまで「連敗しない」ことを厳しく守り続けたチームが一度崩れたとき、何が起きるかは分からない。連敗しても監督への信頼をつなぎ止めることができるか、苦しい時にこそ本当の力が見える。レギュラークラスのメンバーで出られない選手がどう気持ちを変化させていくのか、一番気になるところだ。
さらに、これは中長期的な視点になるが、町田が下部組織をどう強化していくのかという点が持続して強いチームを作るためには必要になる。町田にとって今難しいのは、ホームグロウンの選手が少ないこと。これだけ即戦力クラスを外部から獲得している状態では、下部組織で育ってもトップでの出番を獲得するのは難しい。
そうなると、いい人材はほかのクラブに流れてしまう。その点をどう解決していくのか。現在調子が良くて注目を集めている今こそ、下部組織の充実を考えなければいけないだろう。
リーグ戦の優勝こそがプロチームにとって一番の栄冠である。だが、クラブとしての栄冠はどれだけ強いチームを長く続けることができるか。町田はそこにも目を向ける段階まで来たと言えるだろう。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。