横浜FMアジア制覇に「現実味」 ACL初戴冠へ…カメラが捉えた突破口となり得る瞬間【コラム】
【カメラマンの目】蔚山現代との準決勝第2戦、死闘で見せた頼もしさ
横浜F・マリノスのアジアチャンピオンの称号を懸けた戦いが近づいてきている。ライバルたちがアジア王者への戴冠を成し遂げるなかで、Jリーグ誕生から日本最高峰のサッカーリーグを支えてきた横浜FMは、その栄冠をこれまで手にすることができず後塵を拝してきた。
だが、いよいよライバルたちと肩を並べられるチャンスが巡ってきた。アジアの頂に到達するまで、残すは決勝戦のみのところまで勝ち上がってきたのだ。
横浜FMにとってはAFCチャンピオンズリーグ決勝の舞台を懸けた蔚山現代との準決勝は、まさに薄氷を踏む勝利だった。アウェーとなった第1戦を0-1で落として迎えたホーム第2戦。前半で次々と得点を重ね3-0とリードを広げた時は、これで勝負はあったかに思われた。
しかし、ホン・ミョンボ監督が率いる蔚山は手強く、そしてどこまでも冷静だった。1点を返された横浜FMは前半39分にペナルティーエリア内のハンドでPKを献上。このPKも決められスコアは3-2となり、さらにハンドを犯した選手が退場処分となったため、横浜FMはここから数的不利の状態での戦いを余儀なくされた。
蔚山は数的優位となっても焦るようなことはしなかった。横浜FMのゴール前まで進出しても強引に攻め落すようなプレーは見せず、マークに来る相手を交わしてパスをつないだ。そして、人数が少ない横浜FMの対応が遅れたところを見逃さず、プレッシャーを受けない状態を作り出してシュートを放ち、ゴールを目指した。ピッチコンディションが悪いなかでも冷静にプレーする姿からは、チームとしての完成度の高さが伺えた。
それでも横浜FMは蔚山の攻撃に耐え抜いた。試合は第1戦の0-1の結果と合わせて3-3となり延長戦に突入する。しかし、30分を戦っても決着がつかず、勝敗の行方はPK戦へと委ねられ、この激闘を横浜FMが制したのだった。
当然だが、横浜FMは10人で戦うことになってからは、守勢に回る時間が長くなった。しかし、苦境に立たされても、チーム力の高さは蔚山に引けを取らなかった。ゴール裏からカメラのファインダーを通して見た試合で、横浜FMの強さを感じたのは、劣勢の展開を強いられながらも守備陣が崩れることなく失点を許さなかっただけでなく、攻勢に転じる時間帯を作り出したところだ。
それは後半15分過ぎからわずか10分間ほどだったが、この時間帯の横浜FMには守勢になりながらもゴールを狙う姿勢が強く表れていた。実際に後半18分にはオフサイドとなったが、ヤン・マテウスのヘディングシュートが蔚山ゴールのネットを揺らしている。
勝負どころを見極めて一気にパワーを使う巧妙策
10人で戦う横浜FMの立場から試合を考えれば、3-2の現状をキープしてPK戦で勝負というのが定石のところを、チームを鼓舞するサポーターの絶大な声援を受けるホームということもあってか、トリコロールの選手たちはなによりゴールを挙げてこの戦いに決着をつけようとしているのが見て取れた。その戦う姿に頼もしさを感じた。
後半、延長戦と数的不利となった展開で、戦術的に守り抜くことに成功し、そして勝ち越しゴールこそ記録できなかったが、勝負どころで攻勢をかけられた準決勝第2戦は、戦略的部分においてもチームにとって大きな経験となり、収穫にもなったことだろう。
アジア西地区との対決となる決勝の第2戦は、スタジアムの雰囲気を含めてタフな戦いとなることが予想される。だが、準決勝第2戦での10人で冷静に戦い、なおかつ反撃にも出た後半の10分間ほどのプレーに、横浜FMがタイトルを奪取するための突破口を見た。厳しい状況に置かれても試合の流れを読み取り、勝負どころを見極めて一気にパワーを使う巧妙で、強かなサッカーを決勝の舞台でも見せられれば、横浜FMのアジア制覇は現実味を帯びてくる。
まずはホームとなる第1戦の戦いぶりに注目したい。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。