パリ五輪メンバー18人、当落線上の“海外組”3人 松木の台頭で影…インパクト欠如MFに危機【コラム】
アジア杯優勝メンバーからの生き残りは
見事なアジア制覇だった。開幕前は死のグループに入ったと言われ、海外組もあまり呼ぶことができなかったことから、アジア制覇どころかパリ五輪の出場権獲得さえ疑問視する声が出ていた。しかし、そんな周りからの声を一蹴するかのように決勝トーナメントでは開催国のカタール、難敵イラクを破り、パリ五輪の出場権を獲得。決勝では2年前に敗れたウズベキスタンを撃破し、アジアの頂点にたどり着いた。
このままアジアを制したメンバーでパリ五輪へ。そう考えたくなるが、現実はそう簡単ではない。決勝戦のウズベキスタン戦は勝利したが、「どちらに転ぶかわからない試合」と松木玖生が振り返ったように決して内容面で上回れた試合ではなかった。パリ五輪には今回のウズベキスタンを上回ってくるような世界の強豪が集まる。そこでメダル獲得を目標とするならば、やはり海外組やオーバーエイジ(OA)の力を加える必要があるのは明らかである。
ここから18人という限られた枠を争うサバイバルが始まる。もちろんアジアカップを制したメンバーが中心となることが予想されるが、逆にアジアカップでなかなか結果を残せなかった選手は、海外組やOAによってメンバーから弾かれてしまう可能性がある。今回は現在、当落線上におり、本大会に向けて奮起が必要な海外組3人に焦点を当てた。
■佐藤恵允(ブレーメン)
これまで何度も結果を残してきた背番号10が、アジアカップで苦杯を嘗めさせられた。パリ五輪世代が発足して以降、佐藤は、チームで細谷真大に次ぐ得点数を記録。ワイドアタッカーの中でも、得点力のあるドリブラーとして攻撃を牽引してきた一人だった。
だが、大きな期待を背に挑んだアジア杯では、6試合すべてに出場するも得点どころかアシストもゼロ。特に印象が悪かったのは、クロスへの入り方やゴール前に侵入する嗅覚こそあったものの、迎えた数多くのチャンスを決め切れず、そこがネガティブな要素として残った。加えて結果へのこだわりか、少しばかりプレー判断を迷ってしまう場面もあり、最後までなかなか自分らしいプレーを披露することができなかった。
一方で、左サイドでは平河悠が攻守に印象的なパフォーマンスを披露。積極的な仕掛けで状況を打開する場面が多く、佐藤にとっては平河の出来も相まって厳しい評価が下されるような大会となってしまった。
本人も大会を通して悔しさを言葉にしていたが、残りの時間でどれだけのアピールできるかがパリ五輪へのポイントになるだろう。クラブではなかなかトップチームの試合に出場できないため、セカンドチームでの“結果”が鍵を握る。大会中、「もうちょっとゴールに直結したプレーというか、ボールを持った動きもそうですし、ボールを持たないところの動きでもゴールから逆算した動きを増やしていけば得点に繋がると思う」と語っていたように、自身の動きを見直すことで、もう一度メンバー入りに絡んでいきたいところだ。
■山本理仁(シント=トロイデン)
OAや海外組が入ることで大きな煽りを受けそうなのが中盤の選手だ。アジア杯で大会MVPに輝いた藤田譲瑠チマのメンバー入りは当確として、それ以外に誰が入ってくるかは要注目なポイントとなる。
その中、アジア杯を通して少し評価を下げることになったのが山本だ。パリ五輪に向けたチームが発足後、藤田に次ぐ出場数を誇ることからもわかるように、山本は長くチームを支えてきた存在だった。インサイドハーフとボランチを巧みにこなすことができ、中盤を落ち着かせる能力は、ポゼッションスタイルを志向するチームにおいても重宝されてきた。
ただ、アジア杯ではアンカーのポジションで藤田が攻守に安定感抜群なパフォーマンスを披露。インサイドハーフでは、得点力だけでなく守備面でも存在感を発揮できる松木玖生が力強いプレーを見せれば、攻撃面で違いを生むことができる荒木遼太郎がゴールやアシストといった“結果”で自身の力を証明することになった。一方、山本はセットプレー絡みで2つのアシストを記録したが、インパクトという点では前述した3人ほどのものを残すことができず。ここをどう評価するかは指揮官の判断になるだろう。
もしOAが中盤に入ってくるとなると、インサイドハーフとボランチの両方をこなせる選手の可能性が高い。そうなるとわかりやすい特徴を持つ松木や荒木と比べ、オールラウンダーな山本が落ちてしまう可能性もある。シーズン終盤、山本は自チームで活躍し、より存在感を高めていくことが必要となってきそうだ。
SBも激戦…OAの人選次第で落選の可能性も
■内野貴史(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)
もう一人、当落線上で追い込まれているのがサイドバック(SB)の内野だ。こちらもポイントになるのがOA枠となる。現在、名前が挙がっている選手で想定されるのは、センターバック(CB)に一人以上入るということ。もし、そこに町田浩樹や伊藤洋輝といった選手が入ってくることになると、左SBで併用することができるため、他の選手の選び方の基準が変わってくる可能性がある。
現在、左SBは大畑歩夢とバングーナガンデ佳史扶が候補となり、右SBは関根大輝と半田陸が候補となる。その中、両サイドバックを器用にこなすことができる内野は、これまでパリ五輪の枠の少なさを考えた時に“選びやすい”選手だった。どちらのポジションでも強度の高い守備を見せられるうえに、今回の選手間ミーティングに携わったように、チーム全体を鼓舞できる選手としても重宝されるような存在だったからだ。
ただ、前述したOAが入ってくることになると、フレキシブルな選手よりそのポジションで強みの出せる選手の優先度が高くなるはず。そうなると、現状どちらのポジションでも一番手ではない内野が厳しい状況に追い込まれる可能性が高い。
実際、アジア杯ではスタメン出場もあったが、決勝トーナメント以降は守備固めの際に起用された程度で信頼度はあまり高くなかった。より強い相手がひしめくパリ五輪では、内野の守備力が重要視されるかもしれないが、やはり残りのシーズンでさらなる活躍を見せないとメンバー入りは難しくなってくるだろう。さらに頼りになる選手になれるか。最終盤のプレーに注目したい。
(林 遼平 / Ryohei Hayashi)
林 遼平
はやし・りょうへい/1987年、埼玉県生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と、憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、サッカー専門新聞『EL GOLAZO』の川崎フロンターレ、湘南ベルマーレ、東京ヴェルディ担当を歴任。現在はフリーランスとして『Number Web』や『GOAL』などに寄稿している。