森保監督が漏らした「これが現実」の言葉の意味 五輪代表の“最強布陣”が実現困難な訳【コラム】

森保一監督が五輪での海外組招集の難しさに言及【写真:徳原隆元】
森保一監督が五輪での海外組招集の難しさに言及【写真:徳原隆元】

五輪はインターナショナル・ウィンドーではないため海外組の招集が困難

 森保一監督が五輪代表への海外組招集の難しさについて、「現実」を語る一幕があった。

 森保監督は5月3日、J1リーグ第11節FC町田ゼルビアvs柏レイソルを視察し、試合後取材に応じた。「町田の狙いどおりの試合で、柏はなかなか自分たちの形を作らせてもらえなかったという展開だった」と感想を述べ、その後はロングスローについて「戦術として取り入れることは考えているところ」だと明かした。

 最後に「パリ五輪出場が決まったが、海外組の招集は非常に難しそうだ。東京五輪の時はどうしたのか」という質問が出た。東京五輪には吉田麻也(サンプドリア/イタリア)、中山雄太(ズヴォレ/オランダ)、板倉滉(マンチェスター・シティ/イングランド)、冨安健洋(ボローニャ/イタリア)、橋岡大樹(シント=トロイデン/ベルギー)、遠藤航(シュツットガルト/ドイツ)、久保建英(レアル・マドリード/スペイン)、三好康児(アントワープ/ベルギー)、堂安律(PSV/オランダ)、田中碧(デュッセルドルフ/ドイツ)と10人のヨーロッパでプレーしていた選手が招集されたのだ。

「(大会の)1年前、2年前から、前もって選手たちの移籍等々の動きを聞き、常にチェックしながら、早め早めに所属クラブや、移籍するであろうというクラブ、代理人さんと連携を取りながら五輪に出られるような状況作りを早めに動き出せたことで、五輪本大会に思った選手を招集できたと思います」

「我々がラッキーだったところは、東京五輪という日本で開催される大会だったので、クラブもそこは自国開催の五輪であれば選手も出たいだろうということをより理解をしてくれたところはあるかとは思います」

 試合と関係ない質問だったのであっさりした返答になるかと思われたが、どうやら森保監督の胸の中には溜まっていたものがあったようだ。そこからさらに監督の熱弁が始まった。

「オリンピックは『IW(インターナショナル・ウィンドー)』の開催とは違うので、選手の招集はかなり難しくなってくると思います。特に移籍が絡む時には、予想が立っていれば移籍先のクラブとも話し合いで招集という方向に交渉ができるかと思いますけど、なかなか移籍先も分かる状態ではないと思います。今後、大岩(剛)監督は海外組、オーバーエイジも含めて、最強のチームを作っていくことを考えられると思いますけど、そこの交渉は簡単ではないかと思いますし、日本の総力を上げて交渉が必要かと思います」

2016年のリオ五輪では久保裕也がクラブの派遣拒否で参加できず

 2003年、各国代表チームと所属クラブチームとの活動調整のためにFIFA(国際サッカー連盟)カレンダーが生まれた。3月、5月または6月、8月または9月、10月、11月、および各大陸連盟主催の公式戦(アジアカップ、ユーロなど)に定められている「IW」期間内は、クラブは招集された選手をリリースしなければならない。逆に言えば、この「IW」期間外に行われる試合には、クラブは選手をリリースする義務がない。

 過去、日本にも実際に招集を拒否された例があった。2016年リオ五輪のメンバーに選ばれていた久保裕也(当時ヤングボーイズ/スイス、現シンシナティ/アメリカ)は、クラブがほかの選手の負傷離脱を埋めるため大会直前に招集を拒否し、出場辞退することになったのだ。

 森保監督は「『IW』以外では海外のクラブはやはり自チーム優先で、なかなか選手の派遣には応じてもらえないが、グローバルスタンダードの中でこれは当たり前」だと言いつつ、それでもJクラブは理解して選手の招集に応じてくれていることに感謝を述べた。

 そして、東京五輪前の2020年のU-23アジアカップにも海外組は1人(食野亮太郎:当時ハーツ/スコットランド)しか招集できなかったと振り返りつつ、「これが現実なんで」とつぶやいた。

 森保監督は海外視察に出かけた時、日本代表選手の所属するクラブの監督や関係者に会って招集に応じた礼などを伝え、次回の招集をスムーズに運ぶように気を遣っている。さらに移籍の噂がある選手、移籍したばかりの選手は招集しないなど、選手やクラブに最大限の配慮もしている。

 その森保監督が「現実なんで」と言うのは、表に出てこない招集の苦悩があるということなのだろう。「『IW』外での試合の時、招集できないのを認知していただいて、(メンバー発表記者会見で言う)『その時のベスト』というところを分かっていただけるようになれば」とも漏らした。

 日本代表であってもこういう事態に直面する。ということは、「IW」に大会が組まれていない五輪に海外クラブ所属の選手はほぼ招集できないということだ。Jクラブは協力的と言っても、五輪期間中にもリーグ戦は開催される。そのため選べる人数は1クラブ2人までになりそうだ。華やかな代表チームや国際大会の裏で、こういう「現実」があるのが垣間見られた。

(森雅史 / Masafumi Mori)

page 1/1

森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング