U-23日本戦でイラクの「勝利を約束する」 勝ち気だった海外記者、思わぬ結末に態度一変【コラム】
勝ち負けによって180度態度が異なるイラク人記者
今年1月に行われたアジアカップのグループリーグ第2戦で日本代表と対戦したイラクの記者は試合前から強気一辺倒だった。こちらが日本人の記者だと見ると「次の試合はイラクが3-0で勝つ」と豪語。実際に日本に「2-1」で勝利を収めたあとは、試合後のミックスゾーンで大騒ぎという傍若無人な振る舞いを続けた。
その後も会うたびに「ほら、ライオンがやって来た。日本人を差し出せ」と、彼らがよく使うからかいのフレーズを浴びせ続けてきた。国際試合で会う陽気な外国人記者の中には、こういう「ヤンチャ」なタイプもよくいるのだ。
さすがにイラクがラウンド16で負けたあとはしおらしくなり、「これから先は日本を応援するよ」などと言ってきた。こういう勝ち負けによって180度態度が違うというのも国際試合の記者ルームではよくあることだ。
今回、U-23アジアカップの準決勝でイラクと対戦することになったので、インスタグラムで連絡を取った。「元気ですか? またU-23アジアカップで対戦することになりましたね。今度は勝ちたいと願っています」と書いていたら、長文の返事が返ってきた。
「まず、あなたの国の代表チームがこの重要な大会のステージに到達したことを祝福します。楽しい試合であると同時に難しい試合になることは間違いないでしょう。単純な内容で決まると思っています」
1月に勝っているのでいきなり上から目線で語りかけてくる。そしてこのトーンが続く。
「両チームともこのラウンドに進出するに値するけれど、幸いなことに、私たちはあなた方とは年代別グループでよい歴史を築いてきています。試合は非常に難しいけれど、決着をつける時でしょう」
これは2023年U-20アジアカップのことだろう。同年3月15日、日本は準決勝でイラクと対戦し、2-2の末、PK戦で3-5と敗れて次ラウンドへ進めなかった。だが、記録としては引き分け扱いのはず。それなのにすっかり勝った気でいる。そして最後はこう締めくくっていた。
「単純なことですが、勝者が決勝トーナメントに進出するという事実は別として、それ以上に重要なのはパリ五輪に進出し、両チームのファンの野望を達成することです。この試合でU-23イラク代表は(累積警告で)キャプテンを欠くことになりますが、私たちはあなた方との勝利を更新することをお約束します」
U-23アジアカップ準決勝後、日本に敗れたイラク記者の反応は?
Jリーグがスタートしたあと、イラクとは7戦して4勝2分1敗。その1敗がアジアカップだったのにイラク人記者は相変わらず強気だ。試合前の煽りとしては完璧に近いメッセージだった。そして今回は「フラグ」としても完璧だった。
U-23アジアカップ準決勝は、前半28分に細谷真大が鋭いターンからゴールに流し込んで先制点を挙げると、同42分には荒木遼太郎がオフサイドラインをかいくぐって追加点を決める。そしてそのまま試合の主導権を握り続けてイラクを完璧に抑え込んだ。日本の完勝だった。
試合後、すぐにメッセージが来た。
「おめでとう、友よ。傑出したチームだ」
そう短く書いてある。ガッカリしている姿が目に浮かぶ。さっそく返事を書いた。
「ありがとう。今回、日本は自分たちが何者かをちゃんと証明できたと思うよ。次の試合の幸運を祈る。おっと、ライオンがやって来たようだ」
既読は付いた。スルーされている。一緒にいられなかったのが残念だ。でも次に会ったとき、彼が「アジアカップでは勝った」と言ってくるのは間違いないだろう。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。