ドイツ5部から飛躍「プロ何年目でも関係ない」 24歳日本人MF…苦難克服の秘訣「やれることは全部やる」【インタビュー】
ドイツ5部から3部まで這い上がった水多海斗、焦りの時期をいかに乗り越えたのか
ドイツ3部アルミニア・ビーレフェルトでプレーする日本人MF水多海斗は、今季リーグ戦(第35節終了時)で5ゴール5アシストの結果を残している。ドイツ5部から着実にステップアップを遂げている24歳は、茨の道をどのように這い上がってきたのか。焦りの時期を乗り越え、「プロ何年目でも関係なく、やれることは全部やる」と、さらなる飛躍に闘志を燃やしている。(取材・文=中野吉之伴/全5回の5回目)
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今季ドイツ3部に挑戦している水多海斗は第35節終了時で5ゴール5アシスト。ゴールだけではなく、パスを引き出すスペースへの抜け出し、攻撃の起点を作るプレーで評価を高めている。ビーレフェルトの指揮官から「攻撃陣で一番目立った活躍をしているのが水多だ」と名指しで称えられることもあった。
とはいえ最初から順調だったわけではない。大きな期待とともに臨んだ3部リーグでの戦い。高い自己肯定感と自信をもって取り組むことは大切だ。ただ、その思いが強くなりすぎると上手くいかない時期には、焦りやプレッシャーというマイナスの影響が出かねない。
「それはすごいありました。『なんであいつは出てるのに、俺は出られないんだ』とか思ってしまったり。特に同年代の選手が出てると……プレッシャーになってましたね」
頭の中では分かっていても、心が追い付かない。何かをしなければと思っても、具体的な取り組みが見えてこないと、その焦りはさらに深まる。水多はどのように乗り越えたのだろうか。
「奥川雅也くん(現ハンブルガーSV)にメンタルトレーナーの方を教えてもらいました。ビーレフェルトの元選手で、脳と視覚のトレーニングをやってる人がいるんです。上手くいってなかった時期にその人にお願いして、俺もやってみようと。メンタルトレーニングをして、目のトレーニングをして。出れてないことやミスをした時の対処法をトレーニングしましたね。そこからずっといい感じでできてます。あれは結構大きいと思います」
メンタル=根性ではない。心理状態を最適化し、自身のパフォーマンスを最大限に引き出すためには準備や対処法が必要だ。適切な解釈の仕方を知り、やるべきことにフォーカスすることで身体と心と思考のバランスは上手く取れていく。
「これまでは自分でなんとか解決できてたんですけど、今回ばかりは自分で解決できなくて。いろいろ学ぶことができました。例えばミスをしたら、もうそれは取り返せないけど、ミスしたあとに『次は絶対同じミスしないでいいプレーしてやろう』とリセットしてプレーした場合、80%は上手くいくっていう統計があったりするんです。そうしたことを知って、トレーニングをすることで自分のマインドも変わってきたと感じています」
着実に駆け上がる水多の強み「大事なところで決め切ったり、結果を残せている」
さまざまな取り組みの成果もあり、吹っ切れた気持ちで臨むことができたという水多。次のチャンスをもらえた試合でゴールやアシストという結果を残し、そこからまた出場機会が増えてきたのだ。
「使ってもらって、すぐ結果を残すことがやっぱり大事なんで。それができたのが今につながっているかなと。結構僕は、大事なところで決め切ったり、結果を残せているんです。それは自分の強みだと思っている。だからここまで来られているし、ここからさらに上がっていけるっていう自信は持っています」
初参戦となるプロの世界は想像どおりに大変な場所だった。上手くいかないことが多いのは当然ながら、実際、苦労も焦りもストレスも迷いも多かった。だからといって、「まだプロ1年目だから」という言葉に逃げるつもりもない。この壁をなんとしてでも打ち破り、さらに駆け上がっていくためには、自身の最大限で勇敢にチャレンジしていく心構えがなければならない。
「プロ1年目なんですけど、1年目だろうが何年目でも関係なく、ピッチに立ったら当たり前にやらないといけないと毎試合思いながらやっていますし、やれることは全部やる。できるだけいい位置にいようとしたり、シュートのこぼれ球に対して常に詰めたり、味方が競ったあとのセカンドボールを狙ったり、そうしたところを予測して、たとえボールが来なくても何回も走ったりする。そうしたことに貪欲に取り組んでいるのが、得点につながっていると思っています」
下部リーグから着実にステップアップをしながら、自身のキャリアを積み上げている水多の取り組みには、人が成長するためにどうしたらいいのかのヒントが多く隠されている。
[プロフィール]
水多海斗(みずた・かいと)/2000年4月8日生まれ、東京都出身。中野島FC―FC東京U-15むさし―前橋育英高―SVシュトラーレン(以降ドイツ)―マインツII―アルミニア・ビーレフェルト。高校卒業後の2019年にドイツへ渡り、当時5部のシュトラーレンに加入。21年にマインツへ移籍し、1部でベンチ入りしたものの出場機会はなかった一方、22-23シーズンにはセカンドチーム(4部)でリーグ戦31試合出場10得点10アシスト。23年夏、かつて尾崎加寿夫、堂安律、奥川雅也らが在籍したビーレフェルト(3部)へ移籍し、今季リーグ戦25試合に出場し、5ゴール5アシスト(第35節終了時)の活躍を見せている。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。