ドイツで評価急上昇…24歳日本人MFが衝撃「本当に熱い」 3部で2万9000人入場の熱狂…プロ初年度で成長実感【インタビュー】
ドイツ3部ビーレフェルト所属の水多海斗、ファンの熱量に驚き「今を楽しんでます」
ドイツ3部アルミニア・ビーレフェルトでプレーする日本人MF水多海斗は、今季リーグ戦25試合(第35節終了時)に出場し、5ゴール5アシストの活躍を見せている。クラブの1試合平均入場者が1万8000人近くを記録するなか、24歳のMFは「本当に熱い」と3部リーグの熱狂ぶりに驚きを露わにする一方、「試合を重ねるごとに良くなっているという実感があります」と自身の成長に手応えを掴んでいる。(取材・文=中野吉之伴/全5回の3回目)
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ドイツ3部リーグにどんなイメージがあるだろうか。
例えば日本のJ3リーグでは、2023年の1試合平均入場者数が3003人(Jリーグ公式発表)。過去最多入場者記録は、2019年9月7日のJ3リーグ第22節、えがお健康スタジアムで行われたロアッソ熊本対ガンバ大阪U-23の1万6027人となっている。
一方ドイツのブンデスリーガ3部の過去最多記録は、2008-09シーズンの最終節デュッセルドルフ対ブレーメンU-23の一戦で、5万95人という数字を叩き出している。今季の3部リーグは観客動員が非常に好調で、4節を残した段階で過去最高の331万人。クラブ別平均動員数だとドレスデンが2万8633人でトップ、水多がプレーするビーレフェルトが1万8160人で2位となっている。3部リーグ初参戦の水多にとっても、これほどまでの熱量があることは驚きであったようだ。
「うちのキャパシティーは2万7000人なんですけど、ファンは本当に多いですね。去年の2部の時に比べたら、若干落ちてはいるんです。でも年間チケット売り上げは3部の中で一番。1万枚ぐらい売れているんです。初めての試合がドレスデン戦で、それが2万9000人入りまして。僕は退場しちゃったんですけど(苦笑)。たくさんのファンの前でプレーできる今を楽しんでます。点を決めた時の声援は凄いですね。ホームだけじゃなくて、アウェーでも凄いんですよ。デュイスブルクとのアウェー戦で、ビーレフェルトのサポーターが3000人も来てくれて。ビーレフェルトのホームかと思うくらい、ファンの声が大きかったのが印象深く思い出に残っています。本当に熱いです」
ビーレフェルトは、2021-22シーズンにまだ1部リーグに所属していたクラブだ。20-21シーズンには堂安律(現フライブルク)がPSVからレンタルで加入し、奥川雅也(現ハンブルガーSV)がザルツブルクから移籍でともにプレー。11年ぶりに1部昇格したクラブを見事残留に導いている。だが21-22シーズンは1部17位で終わり、2部へと降格。1部再昇格を狙った22-23シーズンだったが、序盤戦から噛み合わないまま16位で終えた。さらに3部3位のビースバーデンとの入れ替え戦でも完敗を喫し、2年で1部から3部まで転がり落ちてしまっていた。
3部3位との入れ替え戦の試合後、スタンドのファンからは「過去から何も学んでいない!」「新しいスタート。すべての次元で!」と書かれた大きなプラカードが掲げられていた。痛烈なメッセージだ。
古豪という名前だけになってしまうクラブは少なくない。浮上するきっかけを掴むことができないまま、下部リーグを定位置としているかつてのブンデスリーガクラブも少なくない。ビーレフェルトは健全経営と明確なコンセプトで復活を遂げるための道を歩み出している。
「ファンも選手を一度大胆に入れ替えてほしいと思っていたと思うんです。キャプテンのファビアン・クロス以外、主力選手はみんな出ていって、新しく若い選手がたくさん来ています。だからいろいろ難しさもあります。でもここで変えちゃったら意味がないから。今シーズンのチームとしてはまずは3部に残って、来年以降にというビジョンかなと。ポテンシャルは十分あると思います」(水多)
プロ初年度で結果を残す水多「『攻撃はお前の自由にやっていい』って言ってもらえた」
1部から2部、2部から3部へ落ちても、多くのファンは変わらない忠誠心を示し、アイデンティティーとしている。選手として奮起しないわけにはいかない。水多はここまで3部リーグで35試合中25試合に出場。15試合でスタメン出場し、5得点5アシストをマークしている。プロリーグ初年度と考えれば上々の成績だ。
「すごく多い観客の前でやるのも初めてですし、プロサッカーも初めて。やっぱりプロサッカーって、U-23とは違って、常に勝ち点3を求めて試合やるわけで、まずはそういう場所に足を踏み入れられたのが、すごく自分の経験値として大きい。順応するまでに少し時間がかかりましたけど、試合を重ねるごとに良くなっているという実感があります」
4部と3部は大きく違うとみんなが口を揃えて言う。フィジカルコンタクトが強くなり、1部、2部の経験を持つ手練れの選手との駆け引きにも打ち勝たなければならない。自分の特徴を出すだけではなかなか起用はされず、守備へのハードワークが当たり前にできないと監督の信頼も勝ち取れない。水多も実感を込めて話してくれた。
「守備が大きいですね。立ち位置が2メートル違うだけで指摘されます。常に1対1で勝つ、高い位置でのボール奪取を狙うので、最初はそこが厳しかったですね。自分の間合いに持ち込めたら勝率は高いんですけど、ちゃんと寄せ切れているか、スペースを埋め切れているかと結構言われたりする。監督の指示をしっかり理解したうえで、攻撃でちょっと活躍してからは『攻撃はお前の自由にやっていい』って言ってもらえました」
ビーレフェルトは第35節終了時で15位。20チームで構成されている3部では17位から20位までの4チームが降格となるなか、残り3試合で17位ハレッシャーFCとの勝ち点差は4となっている。第34節のザントハウゼン戦(2-1)で途中出場の水多が値千金の決勝ゴールをマーク。シーズン終盤、日本人MFが存在感を放ち、評価は高まり続けている。
※第4回へ続く
[プロフィール]
水多海斗(みずた・かいと)/2000年4月8日生まれ、東京都出身。中野島FC―FC東京U-15むさし―前橋育英高―SVシュトラーレン(以降ドイツ)―マインツII―アルミニア・ビーレフェルト。高校卒業後の2019年にドイツへ渡り、当時5部のシュトラーレンに加入。21年にマインツへ移籍し、1部でベンチ入りしたものの出場機会はなかった一方、22-23シーズンにはセカンドチーム(4部)でリーグ戦31試合出場10得点10アシスト。23年夏、かつて尾崎加寿夫、堂安律、奥川雅也らが在籍したビーレフェルト(3部)へ移籍し、今季リーグ戦25試合に出場し、5ゴール5アシスト(第35節終了時)の活躍を見せている。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。