大迫勇也の抜擢も「面白い策」 大岩J、パリ五輪OA枠3人は各ポジション1人ずつが「順当」【コラム】
最終ラインの若手は「成長」も…頼るべきA代表主力の力
4月29日に行われた2024年AFC・U-23アジアカップ(カタール)準決勝・イラク戦。「この一戦に勝つか負けるかで日本の命運が決まる」と言われた大一番で、大岩剛監督率いるU-23日本代表の面々は底力を見せつけた。
開始早々から主導権を握り、前半28分には藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)のタテパスを受けた細谷真大(柏レイソル)が待望の先制点をゲット。25日の準々決勝・カタール戦で決勝弾を叩き出したエースの完全復活でチーム全体が勢いづいた。
そして前半42分には再び藤田が出したスルーパスをスタメン抜擢された荒木遼太郎(FC東京)が確実に決め、2点リードで前半終了。後半は相手の猛攻にあったが、最後の最後まで粘って零封し、2-0で勝利。「日本サッカー最大の危機」と言われたパリ世代が8大会連続五輪出場権をついに手にしたのである。
1996年アトランタ以降、日本は何度も崖っぷちに立たされながらも、五輪切符は逃さずここまで来た。けれども、今回の2001年生まれ以降の世代は新型コロナの影響で20歳前後の重要な時期に国際経験が積めず、大舞台での戦いが不安視されていた。しかも、久保建英(レアル・ソシエダ)、鈴木彩艶(シント=トロイデン)、鈴木唯人(ブロンビーIF)といった海外組を招集できず、ベストメンバーとは言えない編成を余儀なくされた。
その不安が4月16日の初戦・中国戦から露呈。西尾隆矢(セレッソ大阪)の一発退場や決定力不足に苦しみ、グループリーグは2勝1敗の2位通過。宿敵・韓国に敗れたことで危機感はより強まった。それでも何とかカタールを延長の末、撃破したことで、チームに勢いと自信が生まれた。細谷が別人のように躍動し、高井幸大(川崎フロンターレ)や関根大輝(柏)らも試合をこなすごとに成長しており、この調子なら、5月3日のファイナルでウズベキスタンを倒して頂点に立つことも可能だと思えてくる。
ただ、彼らにとってはここからが本当の戦いになる。というのも、パリ五輪本番のメンバーが18人という狭き門だからだ。
2021年夏の東京五輪はコロナ禍真っ只中で22人まで枠が拡大。当初、サポートメンバーの予定だった林大地(ニュルンベルク)が主力FWに躍り出るサプライズもあったが、今回は今のところ当初の18人登録に戻る見通し。大岩剛監督はオーバーエイジ(OA)3枠をフル活用する方針をすでに表明しており、パリ世代はわずか15人に限られるのだ。
最終予選や欧州での活躍度を踏まえると、GKは鈴木彩艶と小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)でほぼ決まり。DF陣も木村誠二(サガン鳥栖)と高井、関根は確実だろう。MFの藤田、山本理仁(シント=トロイデン)、松木玖生(FC東京)、FWの細谷、久保、鈴木唯人も入るとすれば、残りはわずか4枚ということになる。
そうなると、複数ポジションのできる選手とスペシャルな武器を持つ選手が有利。サイドとFWをこなせる藤尾翔太(FC町田ゼルビア)や山田楓喜(東京ヴェルディ)は外したくない。DF陣も左サイドバック(SB)とセンターバック(CB)に入れる西尾や内野貴史(デュッセルドルフ)のようなマルチ型が望ましいのではないか。東京五輪でもCB以外はすべてこなせる旗手怜央(セルティック)のような人材が有効なピースとなったが、そういう人材が見つかれば、浮上してくるかもしれない。
こうした実情を踏まえOA枠を考えてみると、各ポジションに軸を担える人材を1人ずつは確保しておきたいところ。そこで、まず守備陣に目を向けると、統率力やマルチな能力を備えた冨安健洋(アーセナル)が最有力候補だろう。東京五輪、2022年カタールワールドカップ(W杯)も経験しており、キャリア的にも申し分ない。だが、ご存知の通り、彼は怪我を繰り返しており、近年は年間200日稼働できていないのが実情。そういう選手をアーセナルが快く派遣してくれるとも思えない。
次なる候補は、冨安とともに代表の最終ラインを担っている板倉滉(ボルシアMG)。彼もチームを前向きにできる選手だ。ただ、冨安に比べるとカバーできるポジションが少なくなるうえ、彼自身も今夏のビッグクラブ移籍がささやかれている。そうなると、チーム始動時の7月に開幕する五輪出場は足かせになりかねない。それは同じくステップアップが噂される町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)、伊藤洋輝(シュツットガルト)についても同様だ。大岩監督としては、冨安→板倉→町田→伊藤の順で招集確率を探っていくことになりそう。この4人の最低1人はOA枠として呼ばれるはずだ。
遠藤航がベストチョイスも…リバプールは新監督でキャンプをスタート
次にMFだが、ボランチも2列目アタッカーもパリ五輪世代は豊富ということで、人選が難しい。むしろ、最終ラインを兼務できる遠藤航(リバプール)のような選手がベストチョイスかもしれない。遠藤航は2016年リオ、2021年東京と2度の五輪を経験しており、ハイレベルな基準を若い集団に落とし込める。前回4位という悔しさを晴らしたい思いも強いだろう。
とはいえ、リバプールで主力となっている彼は超過密日程を強いられており、シーズンオフ返上で五輪代表に参戦するのは容易ではない。リバプールの指揮官が交代することも、招集を困難にするかもしれない。遠藤が呼べれば大岩監督も安心だが、物事が果たしてうまく運ぶかどうか。そこが気がかりだ。
彼以外だと、攻撃の切り札としてメンタルの強い堂安律(フライブルク)を呼ぶ手もある。ただ、パリ世代には斉藤光毅、三戸舜介(ともにスパルタ・ロッテルダム)、佐野航大(NEC)など欧州で活躍しているサイドアタッカーが複数いる。彼らを1枚削って堂安を選ぶのが正解なのか否かというのは考えどころ。それでも「大舞台に強い男がいた方がいい」とあえて招集に踏み切る手もないとは言えない。堂安と久保が揃えば攻撃バリエーションが広がるのは間違いない。そのあたりのメリットをどう捉えるが重要ポイントだ。
FWに関しては、五輪とワールドカップを経験しているという点で浅野拓磨(ボーフム)、南野拓実(ASモナコ)、上田綺世(フェイエノールト)の3人が候補。細谷と藤尾とは異なるタイプということなら、前線で起点になれる上田か、先発でもジョーカーでも使える浅野ということになる。
今の代表エースという位置づけを重視するなら上田だが、浅野の大舞台の強さは折り紙付き。その能力も捨てがたい。もちろん国内組の大迫勇也(ヴィッセル神戸)も有力な候補者の1人ではあるが、大岩監督はどういった判断を下すのか。むしろ森保一監督が招集に二の足を踏んでいる大迫を抜擢するというのも面白い策ではある。
いずれにしても、OA枠3人はDF、MF、FWの各ポジションから1枚ずつというのが順当だと言えるのではないか。冨安、遠藤、上田あたりを揃えられれば戦力アップにはつながるはずだが、果たして欧州クラブの理解を取り付けられるのか。今こそ、日本サッカー協会の交渉力が問われると言っていい。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。