久保建英、レアル移籍で「キャリア後退も」 実力称賛のスペイン人記者…「レアルの列車に乗れなかった理由」に見解【現地発コラム】
古巣レアル戦に先発出場のソシエダ久保、幻ゴールや好プレーで存在感も0-1敗戦
久保建英は“古巣”相手にホームで3試合ぶりの先発出場を果たしたが、結果はまたもや残念なものとなった。
6位のレアル・ソシエダは、欧州カップ戦5年連続出場を達成すべく、ラ・リーガ第33節で首位レアル・マドリード(以下レアル)をホームに迎えた。この試合は、レアルがUEFAチャンピオンズリーグ(CL)準決勝第1戦バイエルン・ミュンヘン戦に向けて、より多く休暇を取れるようラ・リーガに試合日程の変更を要請したことで、1日繰り上げて26日開催となった経緯がある。
今対戦前、レアルの公式戦成績は46試合35勝9分2敗で、同じ街のライバルのアトレティコ・マドリードに2回敗れたのみ。ラ・リーガでは2位FCバルセロナに勝ち点11差をつけ断トツの首位を走り、残り6節で勝ち点7を獲得すれば自力での2季ぶりの優勝が決定する状況だった。そしてCLではマンチェスター・シティとの激闘を制し、ここ14年で12回準決勝に進出するという驚異的な成績を誇っていた。
ティボー・クルトワ、ダビド・アラバ、フェルラン・メンディを怪我、ロドリゴ・ゴエスをインフルエンザで欠くなか、カルロ・アンチェロッティ監督は逆転勝利を収めた前節のクラシコから、9人を入れ替える大幅なターンオーバーを実施。控え組中心でスタメンを組んだことを試合後に指摘された際、「我々がここに散歩に来たとみんなに思われていることは理解している」と、このあとに控えるバイエルン戦をかなり意識した人選だったことを認めていた。
久保は3月31日のアラベス戦で右足ハムストリングを負傷後、アルメリア戦、ヘタフェ戦の2試合連続でベンチスタート。その間、久保の定位置である右ウイングで先発を務めたシェラルド・ベッカーは、1得点2アシストと調子の良さをアピールした。そんな状況ながらも久保は古巣相手に先発復帰した。
昨夏引退を発表したソシエダのレジェンド、ダビド・シルバがキックオフセレモニーを行い、大雨が降り始めるなかで試合がスタート。当然のことながら、序盤から主導権を握ったのはできる限りのベストメンバーで臨んだホームのソシエダだった。
チームが前線から激しいプレスをかけて60%以上ボールをキープするなか、久保も立ち上がりからプレーによく絡み、前半15分にはペナルティーエリア内からシュートを打つが、やや角度なくGKにファインセーブされてしまう。
その後もソシエダは優位にゲームを進めていたが、一瞬の守備陣の乱れを突かれ、前半29分に19歳のアルダ・ギュレルに先制点を許してしまう。
しかし、久保はパフォーマンスを落とすことなく、前半33分にペナルティーエリア手前でルーズボールを拾い、切れ味鋭いフェイントでエデル・ミリトンをかわし、しっかりとGKの状況を判断したうえで、右足から放たれたボールがゴールネットを揺らした。しかし、オンフィールドレビュー後、その前のプレーでアンデル・バレネチェアがオーレリアン・チュアメニにファウルを犯したと判断され、久保のゴールは取り消しとなった。
シーズン前半の対戦でミケル・オヤルサバルのオフサイドでノーゴールとなったのに続き、今シーズンはレアル戦の2試合とも、久保が決めたゴールは“幻”となった。
後半に入り、レアルが調子を上げてきたことで、久保にボールが入らない時間が徐々に増加。それでもフラン・ガルシアのイエローカードを誘発し、右サイドから度々クロスを上げ、後半35分にはオヤルサバルの決定機をお膳立てしたが、最後までゴールは遠かった。チームは決定力不足を露呈して0-1で敗れ、ここ3戦連続未勝利。来季のUEFAヨーロッパリーグ(EL)出場権獲得争いで足踏みすることとなった。
スペインメディアは久保に高評価「活気にあふれている」「ラ・レアルの武器」
久保は試合後、「試合を見た人たちは、僕たちが勝利に値したことを分かっているので残念」と主導権を握ったにもかかわらず勝てなかったことを悔しがり、「CLでは間違いなく、あのファウルの笛は吹かれない」と自身のゴールが取り消されたことに不満を述べていた。
結果にはつながらなかったものの、久保はこの日、スペインメディアに高評価される選手となった。
クラブの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」紙は「ヘタフェ戦から新たな輝きを放ち始めた。シーズン開幕時のような突破力はないが、活気にあふれている。ゴールはバレネチェアのファウルで認められず、フラン・ガルシアのイエローカードを誘い、前半15分にはケパ(アリサバラガ)の好セーブに遭った。また、右サイドから好クロスを何本も入れていた」と寸評し、3点(最高5点)をつけた。久保よりも評価が高かったのは4点のベニャト・トゥリエンテスのみだった。
「ノティシアス・デ・ギプスコア」紙は「再び違いを生み出し、ラ・レアルの武器となった。ベストの状態からは程遠かったが、何度もトライし、ニアポストに打ったシュートは惜しかった。決して隠れることなく、最も多くのチャンスを作り出した」と評し、トゥリエンテス、オヤルサバル、バレネチェアと並ぶチームトップタイの6点(最高10点)とした。
一方、全国紙「マルカ」の評価はチープトップタイの2点(最高3点)。「AS」紙はチーム唯一となる最高の3点。その他、レアルのケパと、ルカ・モドリッチが最高点だった。
試合後、スペインの人気デジタル紙の1つ「OKディアリオ」でレアルの番記者を務めるイバン・マルティン氏に話を聞くと、久保のパフォーマンスをポジティブに捉えており、さらに今後に向けて大きな期待を寄せていた。
「久保は今日とても良い試合をやったと思う。ラ・レアルはあのようなプレーをやり、あんなにもチャンスを逃していては勝つことなど不可能だ。ゴールを決めるのに多くのものを欠いている。そんななかで久保は右サイドで一際存在感を発揮し、少なくとも何か違うものを見せていた。今日はチームのベストプレーヤーの1人だったよ」
「このシーズンの終盤はラ・レアルと久保にとって非常に険しいものになると思うが、彼には来シーズンを見据え、今日の試合でも証明したように、ここ最近取り戻してきている調子の良さを最後まで維持してほしい。そうすればさらなる進化を遂げられるはずだ」
久保が「仮にレアルに移籍した場合…」 スペイン人記者の見解は「難しいと思う」
またマルティン氏は、シーズンが終わりに近づいていることで再燃しつつある久保の去就、特にレアルへの移籍の可能性について、次のような見解を示した。
「久保がこれまでレアル(・マドリード)の列車に乗れなかった理由はいくつかあると思うが、特に日本人の彼にとって、絶えず付きまとうEU圏外枠が大きな問題だ。また、今後移籍を考えるうえで、ラ・レアルが彼を通じて日本と多くのビジネスを行っていることが障害になるかもしれない」
「しかしいずれにしても、彼は今ラ・レアルでとても上手くいっている。サン・セバスティアンで自分の居場所を作り上げ、ここで幸せを感じていると思う。仮にレアルに移籍した場合、多くの出場時間を得ることは難しいと思うし、それはキャリアの後退にもなりかねない」
今シーズンも残すところあと5試合となった。ラス・パルマス、バルセロナ、バレンシア、ベティス、そしてアトレティコと、重要な試合をいくつも控えている。ここでの結果がクラブの将来を大きく左右するものとなる。最近復調し始めた久保の活躍が成功の鍵となるだろう。
高橋智行
たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。