約70億円の広告損失、監督は退任不可避 韓国、U-23アジア杯早期敗退の影響【コラム】
U-23韓国代表のファン・ソンホン監督は退任濃厚「言い訳はできない」
U-23韓国代表はU-23アジアカップ準々決勝のU-23インドネシア戦でPK戦までもつれこみ、PKスコア10-11で敗退が決まった。この結果、1984年ロサンゼルス五輪から続いてきた五輪連続出場記録が「9」でストップすることになった。
韓国は試合の立ち上がりから動きが鈍い。逆に対するインドネシアは活動量豊富で韓国を追い詰める。それでも前半8分、イ・ガンヒがペナルティーエリア外からのシュートを蹴り込み先制したかに思えたが、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)によって取り消された。
すると前半15分、ペナルティーエリア角近くからのミドルシュートを決められて0-1とされてしまう。それでも同45分、クロスをオム・チソンが折り返すと、それがインドネシアDFに当たって入り、同点とした。
追い付きながら、その後も韓国はピリッとしない。前半アディショナルタイム、ロングボールの処理をもたつくところでインドネシアFWにボールを突かれ再度リードを許してしまった。後半に入ると22分には相手を踏みつけたとしてイ・ヨンジョンが退場に。それでも後半39分、カウンターからジョン・サンビンが同点ゴールを決めて意地を見せた。ここで一気に勝負に出たい韓国だったが、インドネシアの前に手を焼く。そして後半アディショナルタイム8分、ファン・ソンホン監督まで退場になってしまった。
結局延長戦でも互角の勝負が続き、ついにはPK戦で勝ち残りを決めることになった。お互いに1人ずつが外してGKまでが蹴る熱戦になったが、韓国は12人目のイ・カンヒが外したのに対してインドネシアはプラタマ・アルハンが決めて、韓国の敗退が決定した。
この敗戦を韓国内ではどう捉えているのか。英サッカー専門誌「Four Four Two」韓国語版の編集長を務めたこともあるホン・ジェミン記者は、五輪という大会そのものをまず冷静に分析した。
「韓国にいるみんなは、韓国サッカーの惨状だと騒いでいますが、オリンピックのサッカーはご存知のとおり正当なサッカーの大会ではありません。オリンピックやアジア大会は、韓国のスポーツや一般のスポーツファンにとって大きな役割を果たしてきましたが、U-23の選手が中心の大会です。ですから、現状では大きな期待をするものではありません。23歳以下のベストプレーヤーはすでにヨーロッパでプレーしています(少なくとも登録はされています)」
韓国サッカーの「惨状」と騒がれているが…
韓国内で騒ぎになっているものの、五輪は期待するものでもないというのだ。日本と同じく韓国でも五輪は、活躍して注目を集めて海外移籍を果たすという役割はもう果たしていない。
だが、一方で韓国代表の監督人事には影響が出るという。アジアカップでの不振を受けてユルゲン・クリンスマン監督を更迭し、暫定的に指揮を執ったのがU-23韓国代表のファン監督だった。ホン・ジェミン記者は大会前、「もしパリ五輪の出場を決めることができたら、ファン監督は韓国代表チームの監督として非常に有利になる」と分析していた。
しかし、U-23アジアカップの敗退で「ファン監督は(韓国代表から)間違いなくアウトでしょう。言い訳はできません。彼が韓国のトップレベルのサッカーの監督の仕事を得るのは、かなり長い間、非常に難しいだろうと思います。彼はとても長い休暇を取るべきです」と厳しい予想をした。
そして、サッカーとそれ以外の部分においての影響の大きさもあるという。
「それでもこの敗退は、韓国のファンやメディアにとっては大きな痛手であることは間違いありません。テレビ放映権者(「Korea Pool」、「KBS」、「MBC」、「SBS」)は、U-23韓国代表の失敗で約70億円の広告損失を予想しているのです」
この大きな損失が今後の韓国サッカー界に与える影響は計り知れない。そしてその矛先が、大会直前に主力のヤン・ヒョンジュン(セルティック)やキム・ジス(ブレントフォード)が次々に辞退したU-23韓国代表チームの監督に向けられてしまうということだろう。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。