引退決断の長谷部誠、ドイツ語会見で言葉に力がこもった瞬間 「僕の決断はいつも正しい」と断言した訳【現地発コラム】

長谷部誠がドイツ語会見で語ったこととは【写真:Getty Images】
長谷部誠がドイツ語会見で語ったこととは【写真:Getty Images】

引退表明会見はドイツ語で受け答え、地元記者の質問に「僕は後悔をしたりはしません」

 4月17日に今季限りで現役プロ選手としての引退を表明した元日本代表キャプテンの長谷部誠。会見ではいくつもの質問がドイツ人同士で話すようなテンポで地元記者から飛んでくる。質問の意図を理解し、聞き返したりすることもなく、1つ1つにじっくり考えて、頭の中を整理して、ドイツ語で伝えていく。培ってきたコミュニケーション能力にはハイクオリティーなものがある。

 長谷部の言葉に力がこもったと思える瞬間があった。1人の地元記者がこんな質問をした時のことだ。

――引退を決断したことを後悔したらどうしようという不安があったりはしますか? あとになって、「まだ身体が動くじゃないか。引退しなきゃ良かった」と思ったりしないかなと考えたりは?

 なんて答えるのだろうとその答えを待っていたら、マイクを手に持った長谷部はゆっくりとはっきりと、「僕は、後悔はしない」と言い切った。

「人生で人は後悔することだってあります。でもそれがあとになって、成功に結び付くこともありますよね。だから僕の決断はいつも正しいと思っている(笑)。ひょっとしたら1か月後には、『さて、何をしたらいいかな?』と思うかもしれません。22年間ずっとプロサッカー選手としてやってきましたからね。シーズン後には家族と旅行に行ったりして、休むつもりです。ちょっと不思議な気持ちはあります。でも、僕は後悔をしたりはしません」(長谷部)

 さすがの回答に頷くしかない。こうした話をする時、「~だと思います」や「~というふうに個人的には考えます」、「いろんな考えがあると思いますが」といった言葉を添えがちではないだろうか。別に逃げ道を作ろうと意図してなくとも、多かれ少なかれそういうことでソフトな印象をもたらしたりする。

 長谷部はビシッと言い切った。

 後悔すること、ミスすること、がっかりすることは誰にだって起こる。でもそれを引きずったり、何かのせいにしたところで何も変わらない。自分の意志で、決断したことをネガティブに振り返るのではなく、受け止めたうえで、その先でよりポジティブに、プラスになることを考えて行動していく。これまでもそうだったから、きっとここまでの道のりを歩んでくることができたのだろう。

もしクラブに難しい時期が来たら? 「電話してください。僕はすぐに来るし…」

 長谷部は社会的な活動への意欲も口にしていた。引退後も精力的にやれることをやるつもりだという。

「これからもユニセフ日本の大使としてやっていくつもりです。アフリカや南アジアやいろんなところに足を運んで、これからも難しい状況にいる子どもたちをサポートしたいと思います」

 自分に何ができて、何ができないかを正確に把握しているのだろう。できることならなんでもする人なのだ。長谷部のほか、ベテラン選手のセバスティアン・ローデも引退を表明している。クラブのアイデンティティーとなっていた選手がいなくなる損失をどうしたらいいのかという質問に、こんなふうに答えていた。

「これから難しい時期が来たら、電話してください。僕はすぐに来るし、選手を熱くしたり、助けたりできます。でもそうした心配をする必要はないと思います。選手、監督、スタッフが去る時は必ず来ます。でも、ファンはいつもいる。それがクラブにとって何より大事なんですよね。クラブのアイデンティティーはファンとともにあるものですから。僕も来季からはファンとして関わりたいです」

 長谷部の言葉にはこれからもファンの心に残り続けるものがたくさんある。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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