電撃引退の長谷部誠が説く…プロ選手の正しい心構えと使命 ファンの応援より先に見せるべきものとは?【現地発コラム】

現役引退を発表した長谷部誠【写真:Getty Images】
現役引退を発表した長谷部誠【写真:Getty Images】

ファンも含めていかに一致団結するか? 引退会見で長谷部が回答「僕ら選手がまず…」

 4月17日、フランクフルトでプレーする元日本代表キャプテンの長谷部誠が今季限りで引退を表明した。クラブの記者会見場でドイツ語だけで対応した長谷部は、引退を決意した理由を説明した。

「いろんな理由があります。フィジカル的にも回復に時間がより必要になってきまし、メンタルも、頭の中も、少しずつ次のステップをしようかなというふうになってきました。40歳になって、今もサッカーをするのはすごく楽しいです。でもサッカーをするのは、子供たちともできるかなって(笑)。フィジカル的なことも、メンタル的なことも含めて、家族ともいっぱい話をして。すべてがあっての決断かなと」

 自身の引退表明記者会見だが、自分のことだけを話すわけではないのが、長谷部らしいところだろう。所属するフランクフルトは現在ブンデスリーガで6位も、直近4試合連続で勝てていない。来季もヨーロッパカップ戦に出場するためには、これ以上の負けは許されない状態だ。雑音を可能な限りなくして、みんなで集中してラストスパートに取り組みたいというのは長谷部の切なる願いなのだろう。

「僕はこれまでこうした状況を何度も体験してきました。そしてここから抜け出すために何よりも大事なことを知っています。それは一致団結すること。でもチームだけではダメ。スタジアムのファン、街のみなさん。すべてが1つにならないといけない」

 1つになるためにはどうしたらいいのか。長谷部は情熱的なトーンでメッセージを送っていた。メディアの先にはチームメイトやファンの姿も見えていたはずだ。

「そのために大事なのは、僕ら選手がまずピッチで気持ちを見せなければならないということ。それが第一歩。それがあって初めてファンの反応が起こるんです。チームがピッチで示さなければならない。スタジアムはそこから燃え上がる」

 ファンの応援があるから頑張るというのはプロ選手として正しい心構えではないと長谷部は鋭く切り込む。ファンの心を熱くする戦いを見せることが自分たちの使命ではないかと。記者たちのメモを取る手が動く。パソコンを叩く音が聞こえる。みんなが長谷部の話に聞き入り、次の話を待っている。

 金曜日にはアウグスブルクとのホームゲームが待っている。6位フランクフルトと7位アウクスブルクとの勝ち点差はわずかに3。残り試合数を考えると、この試合の結果がシーズン終了時の順位に大きな影響を及ぼすのは間違いない。

「僕個人としてはいつもプレーする準備はできていますけど、金曜日に大事なのはチーム。誰がピッチに立っても、最初からボールの奪い合いに飛び込んで、情熱的にプレーをして、妥協なき集中力を見せなきゃダメ。この金曜日の試合の意味をみんなよく分かっています。だから、どうしても勝ちたい」

 レジェンドの言葉に奮い立たないわけがない。フランクフルトは長谷部、そして同じく今季限りで引退表明をしているセバスティアン・ローデに最高の花道を送るために、魂が震える試合をしてほしい。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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