U-23日本、パリ五輪行きへの勝算は? W杯予選より高難易度…“激戦組”突破後も難敵揃い【コラム】
パリ五輪の切符をかけたU-23アジア杯展望
大岩剛監督が率いるU-23日本代表はアジア王者、そしてパリ五輪の切符をかけて、カタールで開催されるU-23アジアカップに挑む。アジアには3.5枠が与えられており、ファイナル進出か、準決勝で敗れた場合は3位決定戦で勝利すればパリ五輪の出場が決定。4位になった場合はアフリカ4位ギニアと5月に大陸間プレーオフを戦うことになる。
結論から言ってしまえば、おそらくA代表のワールドカップ(W杯)最終予選よりも難易度が高い。枠の少なさもさることながら、セントラル開催で、しかも今回は中東のカタールで行われること、さらにこの世代でも欧州組が一気に増えたことで、本来のベストメンバーが組めない問題に直面しているのだ。そうした困難な状況で、パリ五輪の切符を勝ち取ることができれば、選手たちも大きな自信を付けるはずだ。
U-23アジア杯そのものは2年に1度行われており、ウズベキスタンで行われた2022年の大会で、日本はU-21だったパリ五輪世代で参加。FW細谷真大(柏レイソル)やMF松木玖生(FC東京)、当時は大学生だったFW佐藤恵允(ブレーメン)などが、アジアでの経験を積んだ。その時は準々決勝で韓国と対戦し、FW鈴木唯人(ブレンビー)が2得点、細谷が1得点を挙げて3-0と快勝したが、準決勝では開催国のウズベキスタンに敗れて、最後はオーストラリアに勝利して3位という結果だった。
ただ、やはりパリ五輪の出場権がかかってくると、どこの国も目の色を変えてくることは間違いなく、東京五輪の最終予選を兼ねていた前々回は本大会の開催国だった日本が、まさかのグループリーグ敗退で、悪い意味で話題を集めてしまった。日本の男子サッカーは1996年のアトランタ五輪から8大会連続の五輪出場を目指す。その出場権を逃さないためにも、そして本大会で悲願のメダル獲得につなげるためにも、高いモチベーションで臨むことは間違いない。
日本にとってネックはA代表のアジア杯の時のような拘束力がなく、いわゆる欧州組から従来の主力メンバーを招集できなかったことだ。A代表の主力であるMF久保建英(レアル・ソシエダ)はもちろんだが、オランダ1部のスパルタでプレーするFW斉藤光毅とMF三戸舜介、デンマークのリーグ優勝をかけて戦っている鈴木唯などは大岩監督が呼びたくても呼べなかった選手だろう。そのほか、スコットランドのFW小田裕太郎(ハーツ)、オランダ組のMF佐野航大(NECナイメヘン)などは有力候補だったと見られる。
そうした中でもキャプテンのMF山本理仁とMF藤田譲瑠チマ(ともにシント=トロイデン)や前回大会を経験している佐藤、DF内野貴史(デュッセルドルフ)、GK小久保玲央ブライアン(ベンフィカ)と5人の欧州組を招集できたことは幸いだが、A代表でアジア杯を経験したGK鈴木彩艶(シント=トロイデン)はギリギリで招集断念となったようだ。国内組もJリーグが行われているなかで、原則的には招集に応じる形で決まっていたが、3月の活動に4人が呼ばれていたFC東京からは松木をはじめMF荒木遼太郎、GK野澤大志ブランドンの3人がメンバー入りしたが、左サイドバックのファーストチョイスと見られたDFバングーナガンデ佳史扶が招集外となった。
韓国、UAE、中国…実力国が揃った激戦グループ
日本が挑むグループBは韓国、UAE、中国という激戦区だ。中国は開催国だった2008年の北京大会を最後に、五輪の本大会に出場できていないが、長くアンダー世代を指揮したチェン・ヤオドン監督の下でタレントがまとまっている。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)でベスト8に進出した山東泰山に所属する189センチFWベイヘラム・アブドゥワイリなど、サイズの大きなタレントが多く、サイドアタッカーのシエ・ウェンノン(山東泰山)からのクロスやディフェンス陣の高さも生かすセットプレーはやはり脅威になりそうだ。
もちろん最大のライバルは3戦目の韓国になるが、あえてポジティブに考えれば、五輪出場の関門になる準々決勝で当たる可能性がなくなったとも言える。もともとA代表の主力であるMFイ・ガンイン(パリ・サンジェルマン)を除くベストメンバーでの参加が見込まれていたが、スコットランド1部セルティックがMFヤン・ヒョンジュン、プレミアリーグのブレントフォードが、昨年行われたU-20W杯の主力でもあったDFキム・ジスの招集を拒否するなど、ややスケールダウンしたことは否めない。さらに開幕直前になってFWペ・ジュノ(ストーク・シティ)の不参加がリリースされた。
それでも内野の同僚であるMFキム・ミンウ(デュッセルドルフ)などタレントは多く、五輪出場の有力国であることは変わらない。韓国の10番を背負うMFホン・ユンサン(浦項スティーラーズ)はドイツ1部ヴォルフスブルクに所属していたサイドアタッカーで、ACLで浦和レッズに2-1と勝利した試合での活躍が記憶に新しい。アメリカ1部MLSのミネソタで活躍するFWチョン・サンビンはA代表の経験もある世代屈指のテクニシャンだ。ベントメンバーを組めない状況は日本と同じだが、日本でもお馴染みのファン・ソンホン監督が率いるチームは結束力を発揮してくるかもしれない。
もう1つの対戦国となるUAEは2年前の前回大会でも、同グループで対戦。日本は主にU-23の選手で構成された歳上の相手に2-1で勝利している。それでも10番のMFモハメド・アッバス(アル・アイン)などA代表経験者もおり、アタッカー陣の個人能力も侮れない。まずは初戦で中国に勝利し、このUAE戦でグループリーグ突破に大きく前進する形で、韓国に挑める状況に持って行きたい。
そしてパリ五輪の命運を握る準々決勝はグループAの1位か2位が相手となる。開催国のカタールが本命、東京五輪の出場国であるオーストラリアもおり、順当ならこの2か国のどちらかが相手になるだろう。ただし、A代表がアジア杯で準優勝したヨルダン、成長著しい東南アジアでも躍進が目立つインドネシアが同居する組分けで、どこが勝ち上がっても不思議ではない。できればA代表のアジア杯優勝メンバーでもあるMFジャセム・ガーベル(アル・アラビ)などを擁するカタールは避けたいが、こればっかりは読めないところがある。
もちろんパリ五輪出場が注目されるし、そこを大きな目標になるのは間違いないが、大岩監督や選手たちは優勝を掲げており、リオ五輪の出場を決めた2016年大会も、MF遠藤航(リバプール)やFW浅野拓磨(ボーフム)を擁するチームが、同じカタールで優勝を果たした。そういう意味でも、日本の選手たちにはあまり硬くなることなく、アジアの頂点を目指して戦うなかで、しっかりとパリ五輪の切符を勝ち取ってもらいたい。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。