「もう前の選手は無理かもな」 宇佐美貴史が“復活”を遂げた本当の理由…減量5キロに隠された真実【独占インタビュー】
G大阪FW宇佐美貴史は22年に右アキレス腱断裂の大怪我を負った
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ガンバ大阪FW宇佐美貴史が戻ってきた――。今季、開幕3試合連続ゴールを決めたエースが好調を維持している。昨季はチームも16位、7番を背負っての主将1年目で29試合5得点と納得いくパフォーマンスを出せなかった。なぜ、32歳を迎える今年状態を上げることができたのか。「FOOTBALL ZONE」の独占インタビューでその理由を明かした。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞/1回目)
【独占インタビュー後編】宇佐美貴史、主将続投を決意させたファンからの“言葉”「ほかの選手は無理や」
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「もう前の選手としては無理かもな、って……。去年はずっと思っていた。1歩……。1歩が届かん」
2022年3月6日、J1リーグ第3節ガンバ大阪対川崎フロンターレ。この試合の後半10分、浮き球を処理しステップした際に宇佐美は右足を負傷。右アキレス腱断裂だった。そしてこの年の10月に約7か月のリハビリを経て復帰。残留争いの渦中だったチームを救い、23年のシーズンを迎えた。
だが、本当の“試練”はここからだった。
「大きい怪我したあとと言うのは、怪我したあと、数年後とかに気付くことがある。一昨年は7か月かけて4試合のために身体を作れば良かったから(4試合は)大丈夫やったけど、そこで作り上げたものが4試合終わった瞬間に一気にシュワーと筋肉がしぼんだ。痛みがあるわけではないねんけど、アキレス腱の上にある筋肉がなくなってしまった」
左足と差は2センチ。右足の筋肉を維持することができず、スプリントする際に大きな支障が出た。
「アキレス腱の上、ふくらはぎの部位がどう頑張っても、2センチぐらい全然戻らなくて。ギアを出すときにつま先でグッと蹴り上げるけど、右足は踵が地面までバタンッと落ちてしまう。筋肉がないことで、つま先のまま耐えきれない。踵が地面まで落ちてしまうことで時間的なロスが出てくる。これに去年1年間はずっと悩まされていた」
オフも返上して、右足の筋力増強に時間を割いた。1日も欠かさず、元に戻そうと尽力した。でも、無理だった。鍛えても、刺激を入れても筋肉がしぼんでしまう。「自分の身体ではないような」そんな簡単な言葉では済ませられないぐらい、繊細に違いを感じていた。
「結構自分で分かってしまう。だからもう前の選手としては無理かもな、って。去年はずっと思っていた。1歩が届かん。ファーストタッチ、スルーパスが出たとき、自分が思っている速度と、実際に出ている速度が違いすぎて、うしろから追いかけてくる相手DFにぶち抜かれたりする。これ、どうしていこうというのがずっとあった」
チームとしても低迷して16位。思うようなパフォーマンスを発揮できなかった宇佐美には厳しい声も飛んだ。突入したオフシーズン。辿り着いた結論は「身体を絞る」ということだった。
「身体を絞ったというのが(報道として)先行しているけど、単純に重いもの、体重をちょっと減らすことによって、ふくらはぎへの負担を軽くして、つま先で保てるようにしたほうがいいのかな、と。シーズン終わった次の日から、リーグ町田戦の開幕までという約3か月で大体4キロから5キロ落とした。プラス、筋トレももちろん継続して、練習をやり続けて、筋力は落とさず、余分なものも落とされた。そうすると、ふくらはぎの筋肉もまだまだ細さはあるんやけど、ちょっと戻ったという感覚になった。こうしたら良くなるかなと思って蒔いた種が今は上手くリンクしている」
まずはふくらはぎに対しての負担を減らす、そのために自身の身体を軽くした。だが、これまで何度か減量に挑戦してきた宇佐美にとって「あまり自分としてはいいイメージがなかった。コンディションが落ちたり……。だから、ある種『賭け』やった」という。
プレシーズン広島戦のスプリント2回が示した“正解”
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それでも、現状を打破するために自らの足に問いかけ、声を聞いて、挑戦を決意した。食事量を変えずに運動などでコントロール。1か月で1キロちょっと、というペースを保ちながら、筋肉量は減らさず、丁寧に、丁寧に作り上げてきた。3か月で約5キロの減量に成功。迎えたプレシーズン、2月10日にサンフレッチェ広島の新本拠地・エディオンピースウイング広島のこけら落としで宇佐美は途中出場した。約15分の出場時間で2度、スプリントする機会があった。
「ちょっとずつオフからグーッと上がってきていて、広島戦で一瞬のギアが戻ったなという感覚があった。最後の15分、2回(相手DFの)裏にスプリントしたことでちょっと怪我前の感覚が戻っていた。人より速く走る感覚というのは、もうそれは絶対無理やったから。一瞬、人より前に出る感覚が掴めて。『これ絶対間違っていない、今の作り方』と。スプリントができたことで(ふくらはぎ内部の)コアのところに刺激が入りだした。これで、スプリントをするときのギアになっていく。そのギアに付いていくために、次々に刺激が入る感覚になって……。もう1つ上の回転数を出さないと、スプリントできないからまた刺激が入る。スプリント1つできたことで相乗効果が得られた感じがした」
味方からも「足速くなった?」と聞かれるようになったという。昨年、ずっと悩まされていた「あと1歩」が届く。もちろん、気持ちも晴れた。
「シンプルにできひんかったことができるようになってきたという感覚。1個アドバンテージを得た状態。元に戻っただけやねんけど。マイナスやったから、そこが正常値に戻っただけでも、個人的にはポジティブな要素」
まだまだ筋肉がしぼむ感覚には毎日悩まされる。ただこれは現役終了するその時まで、向き合わなければいけない問題。今でもオフを返上して必ず右ふくらはぎの筋肉アップに力を注いでいる。
宇佐美にキレが戻ってきた。一文で書けるこの言葉の裏には昨年1年間、宇佐美が戦ってきた辛く苦しい壮絶な時間がある。そして自ら乗り越えたからこそ、今この輝きがあるのだ。
[プロフィール]
宇佐美貴史(うさみ・たかし)/1992年生まれ、京都府長岡京市出身。兄と同学年の家長昭博が在籍していた長岡京サッカースポーツ少年団(長岡京SS)からガンバ大阪ジュニアユースに入団。中学3年でユースに飛び級昇格し、レギュラーに定着した。クラブ史上初めてとなる高校2年生でトップチームに昇格。2011年にはバイエルン・ミュンヘンへ移籍した。翌シーズンはホッフェンハイムで過ごし、13年途中にG大阪へ復帰。同年のJ1昇格、翌14年の三冠獲得にエースとして貢献した。16年途中から2度目の海外挑戦へ。19年6月から再びG大阪に復帰している。各年代別代表で活躍し、ロンドン五輪に出場。18年ロシアW杯メンバーにも選出された。
(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)