レアル×マンC、異次元の攻防…「定番」との違いは? 流れを呼び込んだ両者の変化【コラム】
CL準々決勝第1戦で3-3ドロー、典型的なトップレベル同士の一戦
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)の準々決勝が始まった。ここからは、これまでとは違うレベルの試合になる。3-3のドローとなったレアル・マドリード対マンチェスター・シティは、典型的なトップレベル同士の一戦だった。
それまでとの違いの1つが、ビルドアップVSハイプレスという試合序盤に定番となっている攻防がほとんどないことである。
どちらのハイプレスも効かない。それを外せる技術が双方にあるので、無理にプレスするとかえってカウンターされてしまって危ない。そこでどちらもミドルゾーンに守備ブロックを置く守り方がメインになり、そこをどう崩していくかが焦点になっていた。
開始2分、ベルナルド・シルバの味方に合わせると見せて意表を突くシュートが決まり、シティが先制。しかし前半12分にカマヴィンガのミドルでレアルが追い付く。さらに2分後にカウンターからロドリゴが決めて逆転。その後しばらくはレアルがやや優勢の流れになっていく。
守備で4-4-2、攻撃では前線の5レーンを埋めて自由度の高いポジション交換を行うのはどちらも同じ。ただ、レアルは鋭いカウンターでより多くのチャンスを作っていた。
レアルは左にロドリゴ、いつもは左サイドのヴィニシウスを中央左寄りに配していて、2点目はヴィニシウスからロドリゴへつないで取っていた。国内リーグでヴィニシウス欠場時にロドリゴが左で活躍していて、それを活用したのだろうが、シティにとっては意表を突かれる配置だったかもしれない。この2人にベリンガムが絡むカウンターは3人で完結できる威力があった。
ただ、そうなったのはシティのボールの失い方が良くなかったから。ハーランドがリュディガーに抑え込まれ、その手前で手数をかけようとしてボックスへ侵入する前に奪われていた。どちらもカウンターには弱い攻撃時の配置だが、シティのほうにそれが顕在化していた。
後半もその流れが続いていたが、シティの攻撃には変化が見られている。ハーランドへのラストパスを狙うのではなく、ボックスの手前からミドルシュートを何度も試みる。レアルとは違う形で攻撃を完結するようになり、カウンターされなくなった。そしてフォーデンとグバルディオルのミドルが決まって3-2と逆転する。
押し込まれてローブロック化したレアルは疲労しているクロース、ロドリゴに代えてモドリッチとブラヒム・ディアスをピッチへ送る。これで息を吹き返すと、バルベルデの強烈なボレーで3-3。長年レアルを支えてきたクロースとモドリッチの同時起用は難しくなったものの、2人のリレーでチームの頭脳を維持する采配が当たった。
決着はマンチェスターでの第2戦に持ち越された。互いに流れを呼び込む変化を見せ、その背景にハイレベルな個の能力がある。これまでとは次元の違うゲームだった。
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。