大岩Jに欠ける明確なリーダー 20歳松木玖生に求められる“南アW杯”長谷部誠キャプテンの姿【コラム】
指揮官は主将についてメンバー発表会見で「現時点では決めていない」と言及
4月16日にU-23中国戦から2024年パリ五輪本大会出場権を懸けた大舞台に挑むU-23日本代表。アジア最終予選を兼ねたU-23アジアカップ(カタール)のメンバーが4日に発表され、中盤は欧州組の山本理仁・藤田譲瑠チマ(ともにシント=トロイデン)、常連組の川﨑颯太(京都サンガF.C.)、3月のUー23ウクライナ戦(北九州)で猛アピールした田中聡(湘南ベルマーレ)らが名を連ねた。
こうしたなか、松木玖生(FC東京)も順当に選出された。彼は2003年4月30日生まれの20歳。今回の23人の中では高井幸大(川崎)、内野航太郎(筑波大)に次ぐ3番目の若さだ。にもかかわらず、FC東京では今季キャプテンの重責を担っており、強靭なメンタリティーは折り紙付きだ。
所属先でのゲームを見ていても、年長の長友佑都や、仲川輝人ら実績・経験に秀でた先輩たちにも動じることなく指示を出し、時には激しい口調で叱咤激励する様子も見受けられる。それだけの確固たる立ち振る舞いができるのも、青森山田高校時代に2年の頃から背番号10をつけ、さまざまな重圧を背負ってきたことが大きいのだろう。
「サッカーに年齢は関係ない」という意識を当時から自分の中に刻み込んでキャリアを積み重ねてきた男だけに、年長者の多いU-23日本代表でも堂々たる一挙手一投足を見せている。そのあたりは大岩剛監督にとっても非常に心強いはずだ。
パリ世代は「絶対的なリーダー不在」が1つの懸念材料と言われる。指揮官もメンバー発表会見でキャプテンについて聞かれ、「現時点では決めていない。各クラブで主将、副主将を務めている選手もいるし、選手全員がキャプテンのできる選手たちだと思っている。グループを引っ張る部分では選手それぞれに才能を発揮してほしい」と決めあぐねていることを明かした。
過去の五輪代表の最終予選時を振り返ると、2000年シドニー五輪の宮本恒靖(JFA会長)、2004年アテネ五輪の鈴木啓太、2008年北京五輪の水本裕貴(SC相模原コーチ)、2016年リオデジャネイロ五輪の遠藤航(リバプール)というように明確なリーダーが存在したことが多かった。そういった看板的プレーヤーがいない今、大岩監督が言うように、全員がチームを引っ張らなければいけないのは確か。特に松木は山本・藤田らとともに傑出した統率力を示すべきだろう。
年長者が数多くいる環境下でのリーダーという意味では、2010年南アフリカ・ワールドカップ(W杯)の長谷部誠(フランクフルト)が1つ、参考になるのかもしれない。
当時の長谷部は26歳。上には34歳の川口能活(ジュビロ磐田GKコーチ)、楢崎正剛(名古屋グランパスGKコーチ)、32歳の中澤佑二、下には血気盛んな23歳の本田圭佑、長友らがいて、まさに「中間管理職」のような位置づけだったのだ。
「自分はキャプテンマークを巻いているだけ。チームのキャプテンは能活さんですし、佑二さんもいますから」と岡田武史監督から突如として重要な役目をムチャブリされた長谷部は、つねに謙虚さを前面に押し出していた。
2学年上の松井大輔(浦和アカデミーロールモデルコーチ)も「最初ハセ(長谷部)がキャプテンだと聞いた時にはビックリした」と言っていたが、いろんな目線を向けてくる周りの面々に挟まれる難しさを感じつつも、何とか周りを生かし、自分も生きる術を必死になって見出そうとしていたのだろう。
実際、ピッチ上での長谷部は勇敢だったし、屈強な相手と激しいバトルを繰り返し、周囲を鼓舞していた。そしてラウンド16でパラグアイにPK負けした後のミックスゾーンでは、大挙して集まった記者が押し合う状況を見かねて「みなさん、大丈夫です。僕が大きな声で話すんで、後ろの方も聞こえますから、押さないでください」と素晴らしい気配りを見せる余裕さえ感じさせたのだ。
松木がそこまでの人間的成長を遂げられるかどうかは未知数だが、彼なりに仲間を尊重し、個性を生かしながら、自らもリーダーとして輝くスタイルを確立させてほしいもの。もちろん得点力、デュエルの強さという強みを前面に押し出すことも重要だ。厳しい戦いの中でこの難題に取り組むことで、彼自身も一皮むけるのではないか。
高校時代からスーパースターであり、世間の注目の的だった松木は、今も鎧を身にまとっているような印象が拭えない。もちろん発言の1つ1つはきちんとしているし、礼儀正しい行動も見せているのだが、どこかで息苦しさを覚えているようにも見受けられる。
パリ五輪切符は厳命…長谷部のようになれるのか
だからこそ、もっともっと素の自分を出していい。10代の頃の久保建英(レアル・ソシエダ)も報道陣など外部の人間に対して警戒心をのぞかせていたが、20代になり、スペインで実績を残した今は本来の明るく賑やかなキャラクターを前面に押し出すようになった。松木もより自然体で振舞えるようになれば、選手としてもステップアップできる可能性が大だ。今回の最終予選をいいきっかけにしてほしいものである。
偉大なキャプテン長谷部も南アフリカW杯の修羅場を乗り越えて、そこからキャリアの大きく花開かせている。2018年ロシアW杯まで8年間も代表キャプテンの重責を担い続け、バヒド・ハリルホジッチ監督のような癖の強い外国人指揮官にも真っ向から意見を言えるくらいの人格者になった。自身が所属先で試合に出られない時も「代表とクラブは別。僕はブレることはないので」とサラッと言えてしまう彼は本当に優れた統率役だった。松木もそういった理想的なリーダーになってくれることを切に祈りたい。
そのためにも、日本の8大会五輪切符獲得は至上命題だ。鈴木唯人(ブレンビー)や斉藤光毅、三戸舜介(ともにスパルタ・ロッテルダム)ら欧州組が不参加となる難局を乗り越え、上位3位以内に入ることができれば、選手たちの人生も前向きな方向に変わるだろう。今夏の欧州移籍が有力視される松木にとってこのハードルを越えられるか否かは今後のサッカー人生を大きく左右する。ピッチ内外で大きな影響力を示し、大岩ジャパンを勝たせる存在になるべきだ。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。