完勝の浦和に垣間見たチームの方向性 選手の戸惑い消え蘇った大音響のエール【コラム】
【カメラマンの目】鳥栖とのホームゲームで3-0の完勝
J1リーグ第7節、ホームにサガン鳥栖を迎えた浦和レッズは、試合開始早々にチアゴ・サンタナが先制点を挙げると、そこからさらに攻勢を強めていった。前半終了間際には、そのサンタナがバックスタンドで大音響のエールを送り続けていた浦和サポーターたちに向かって、これまで以上の声援を望むことをジェスチャーで示す。4月7日、浦和が3-0で鳥栖を下した。
ピッチで躍動する選手たちに、サポーターのさらなる声援の注入を願うブラジル人FWの行動は、ホームで勝利を目指す戦う姿勢を強く感じさせた。サンタナに代表されるように、この日の浦和は鳥栖を相手にどの選手も自信に満ち溢れ、力強いプレーをピッチで見せることになる。
浦和は3得点という結果を出した攻撃はもちろん、守備面での健闘も光った。威力を発揮した守備はなにもボールを挟んでの攻防だけでなく、前線から鳥栖の動きを封じる素早いマークも強く印象に残った。
試合開始から浦和の攻撃陣は、鳥栖のボールを持った選手に対して、果敢にプレッシャーをかけていく。この素早いチェックは功を奏し、鳥栖の選手を彼らが守るゴール付近へと押し込み、攻撃への流れを作らせない。
戦術が重視される現代サッカーで劣勢の展開となれば、周囲と比較して特出した才能を持った選手がいない限り、個人技で状況を打開するのは困難だ。そこは戦術的な動きで挽回するのが望ましい。
パスの出しどころを塞いでいく浦和のプレーによって、苦しい展開が続いた鳥栖としては、目指すサッカーがあるにしても状況から判断して、カウンターによる素早い攻撃から突破口を開くというのが定石と思えた。だが、浦和の攻撃を防ぎGKからの反撃となった時に、ボールを受ける前線の選手からは、カウンターのチャンスをモノにしようとする、共通意識による戦術的な動き出しはあまり見られなかった。
そのため鳥栖GKの朴一圭は、近くのDF陣にボールを渡すことを選択せざるを得なくなる。改めて言うまでもないがボールをつないでも、浦和のハイプレスを受けて横に逃げたり、バックパスが増えれば攻撃の起点とはならず、ポゼッション率で相手を上回ったとしても、それが意味を持つことはない。
対して前線からのチェックが機能した浦和は、チームにリズムが生まれることになる。ボールキープから前線へとつなぐパスが、同じホームゲームだった第5節対アビスパ福岡戦(2-1/3月30日)と比べて格段に増え、攻撃が活性化される好循環を生む。
浦和にとっては、相手がリーグ戦で低空飛行が続く鳥栖だったことを考慮すると、手放しでは喜べないだろう。しかし、ペア・マティアス・ヘグモを新監督に迎え、開幕から試行錯誤が続いていた戦い方やメンバー構成もここにきて形作られつつある。
これまでは勝ち点を挙げても、チームにはどこか閉塞感が漂っていた。だが、この勝利は前線からの守備で相手の動きを封じ、攻撃では鮮やかに3得点を奪取する、胸を張って誇れる完勝となった。
チーム2点目を決めた松尾佑介をサンタナが肩車してゴールを祝福した珍しい光景からも、この日の浦和の選手たちには戸惑いや戦い方への不安はなく、秘めた能力を存分に発揮した。結果だけでなく内容的にも満足のいく試合であり、その思いが表れたのが2点目の歓喜だったのではないだろうか。
上位チームとの対決でこの対鳥栖戦で見せたようなサッカーを実行できれば、浦和の強さは強固なものになっていくだろう。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。