板倉滉、「弱いじゃないですか」発言の背景 ポテンシャル論に「その考え方は止めたほうがいい」【現地発コラム】
「ポテンシャルがある」のプラス面とマイナス面、板倉も言及「今はもうそこじゃない」
果たしてボルシアMGには「ポテンシャル」があるのか。
所属している日本代表DF板倉滉も、事あるごとにに「チームにはポテンシャルがある」という言葉を口にしている。実際、ボルシアMGのメンバーそれぞれが持つクオリティーやこれまでの経歴を見ると、中位以上を狙える戦力はある。
上手くいかない時に、「自分たちにはポテンシャルがある」という言葉がポジティブな影響をもたらすことはある。自分たちへの信頼を失わずに、決意を持って辛抱強くチームとしての成熟さを高めることが、プラスに作用する例は少なくはない。
一方で「ポテンシャルがある」と思うことがマイナスに影響する時もある。それは多分に「ポテンシャル」という言葉を誤って解釈してしまう時に起こりやすい。そしてやる気や集中というものが、それぞれボールを持った時のスキルやアイデアへと向いてしまう傾向が強くなってしまうと、自然と90分間を通して汚れ仕事をやり通すところへエネルギーが向きにくくなる。
本来チームとしてのポテンシャルがある・なしに関係なく、チームとしてやるべきことにいかに全員が徹底して取り組めるかはチームパフォーマンスを大きく作用する重要なキーとなる。もちろん選手にしても、チームとしての役割や仕事をやらないわけではないし、やりたくないわけでもないが、集中やエネルギーを向けるバランスで変な偏りが生まれてしまうと、どうしてもどこかにずれや隙が出てきてしまう。
フライブルク戦後のミックスゾーン。板倉も思い当たることがあったのだろうか。チーム事情についていろんな話が行き来するなかで、ポテンシャルと頑張りに関する質問が日本人ジャーナリストから飛んだ時に、一瞬考えたあと、あっさりとそのことを認めた。
「だから、その(ポテンシャルがあるという)考え方はもう止めたほうがいいですよね。実質勝ってないし、弱いじゃないですか。上手いプレーとか、上手い崩しとかもちろんしたいし、やりたいけど、今はもうそこじゃないというか」
中途半端なチームの立ち位置が覚悟を決め切れない要因?
試合には「たら、れば」がある。この日にしても、前半からゴールチャンスがなかったわけではない。決めていれば違う展開もあり得た。それでも、90分を通して見たら、フライブルクの勝利は順当なものだったと評価せざるを得ない。
対戦したフライブルクのクリスティアン・シュトライヒ監督は「高めにポジショニングを取って、勇気を持ってプレーができたと思う。前からのプレスがすべてハマったわけではないが、ボルシアMGは問題を抱えていたし、ファンからの雰囲気も不安定なものになっていった」と勝因を分析し、日本代表MF堂安律も「相手の状態がそれほど良くないというのは分かっていましたし、ちょっと良くなくなってくるとサポーターからのブーイングが出てくるのも予想はできていた。そういうのも含めて、上手く試合運びができました」と振り返っていた。
第27節終了時で降格プレーオフ圏の16位マインツとの勝ち点差はまだ「8」ある。現時点では残留を脅かされるような事態になるとは考えにくい。とはいえ、ヨーロッパカップ戦出場を狙えるような位置につけているわけでもない。ある意味、中途半端な立ち位置にいることが、覚悟を決め切れない要因になっているのかもしれない。
「(そうした面も)あると思います。去年もそうでしたけど、ラストの代表ウィーク明けは本当に何にもなかったから。それがこう、試合に出ちゃってるなぁというのは見ててありましたけど。でもそうは言ってもね、ファンもいるわけだし。自分勝手なことはできないと思ってるんで。まずは勝たないといけないかなと思います」
どこかで割り切ることも必要なのかもしれない。そして割り切るだけの状況にも陥っている。ファンが無条件で見たいのは必ずしも美しいサッカーではない。前提条件として、クラブのために全力で戦い、走り、気持ちを前面に押し出してプレーすることなのだから。
「とにかく1勝だし、とにかく戦うところだと思う。まずは守備のところ。そこができてないと、キツいかなってなる」
今季も平均集客5万821人でリーグ5位につけているボルシアMGのファンの期待と愛に応えるためにも、ここからの試合で確かなリアクションを見せていきたい。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。