三好康児が直面する英2部残留争い 今季監督4人…異例の事態で放つ中核の存在感【現地発コラム】
監督交代が相次ぐ非常事態も冷静に受け止める三好
カットを試みた相手選手の足が、届きそうで届かなかったラストパス。4月1日のチャンピオンシップ(英2部)第40節プレストン・ノース・エンド戦、バーミンガムに勝利(1-0)をもたらすゴールを演出した三好康児は、試合後に「アシストをつけてくれてラッキーって感じです」と言って微笑んだ。
たしかに、ジェイ・スタンスフィールドへのパスが“スルー”も同然となった背景には、敵の最終DFが足を滑らせた幸運もある。ワンタッチでドリブルに入ったセンターフォワード(CF)には、約50メートルを走破したあとに相手GKとの1対1が残されてもいた。
とはいえ、2部残留争い渦中のバーミンガムに、昇格を懸けたプレーオフ進出(3~6位)を争うプレストンとのホームゲームで、価値ある勝ち点「3」をもたらしたパスであることに変わりはない。後半も半分を過ぎた23分に、ディフェンシブサードからカウンターに転じる1本が縦に出た事実が大きい。三好の必要性を示す“巧い”お膳立てだった。
イングランドでも株が上がっている日本代表クラスともなれば、たとえ初挑戦であっても、国内2部での主力化は当然という見方はあるかもしれない。だが三好は、移籍1年目で既に3度の監督交代を経験する境遇に置かれてきた。しかも、突然の交代劇が相次いだ。
加入当初のジョン・ユースタス(現ブラックバーン監督/2部)は、野心と同等以上に“名前”を持つ人物を欲したフロントの意向により、ウェイン・ルーニーに監督の座を明け渡すことになった。元イングランド代表FWは、うしろからつないで攻めるスタイルを植え付けようと試みた。しかし、持ち駒の適正とのギャップもあり、6位で受け継いだチームが20位へと順位を下げた約2か月間で解任。結果、あってはならないクラブ史上2度目の3部落ち回避の重責が、今季3人目の正監督となったトニー・モウブレイに託されている。
もっとも、三好自身は淡々としていた。
「海外でやるうえでは、監督が代わったりすると、誰もが知っている選手ではない自分なんか常にアピールしなければいけない。イングランドに来て、新参者というか、新戦力として自分の存在感を常に示していかないと、そんな簡単には使ってもらえないと思っているので。
ただ、そこのステージは1つ超えられたというか、このチームで結果を残すために自分が何をするかっていうところを意識するのが今の状況かなと思っています。使ってもらえば、チャンスメイクのところ、あとはビルドアップのところで、自分にボールを入れてくれる回数がもっと増えれば、チャンスを作る自信はある。今日も、まずは3ポイントを取れたことが、今の僕らに必要なところなので一番大事ですけど、前半からチャンスを作れていましたし、自己評価としても悪くはなかったかなと。監督から信頼される自分のプレーを見せていくしかない」
新加入MF&チーム得点王と見せる抜群の連係
事実、モウブレイには「明晰なサッカー頭脳」の持ち主として高く買われている。早々に、4-2-3-1システムの右ウイングを主戦場とする先発レギュラー格と認められた。
その新監督が病で現場を離れることになったのは、就任2か月目の今年2月。翌月には来季までの完全休養が発表された。その間、代わりに助監督が采配を振るう状態で1ポイント獲得にとどまっていたチームでは、通算2度目の就任となるガリー・ローウェットが今季末までの暫定指揮を執ることになった。
初陣となった前節QPR戦(1-2)では、指揮官が昨年10月までのミルウォール(2部)で頻用していた3バックが採用された。三好は後半28分まで出番なし。スコア上は直前の2試合(ともに0-1)と同じ惜敗だが、今季初採用の3-4-3は機能不全と見受けられた。中2日でスタメンに返り咲いた本人が言っている。
「監督が代わって少ししか準備期間がなかったなかで、監督のやりたい部分とチームのなかでできる部分のすり合わせを短い時間でやって3バックで挑みましたけど、結果的には負けてしまったというところで、少し改善して今日に挑んだっていう感じです。やっぱりうしろの選手が多いよりも中盤の選手が多いほうが、自分としてもボールを回しやすいし、うしろがビルドアップの得意な選手というわけでもないので、そこも含めて、できるだけ中盤の選手がビルドアップに関われるほうが、このチームとしてはやりやすいのかなと思います」
三好は4-3-3の前線右サイドで、三好らしく攻撃に絡んだ。ペク・スンホとは、1月末に加入したばかりのMFが相手とは思えないほど息が合っている。QPR戦では、記者席で隣同士だった韓国人記者が、「もっと早くミヨシを入れて欲しかった」と言ってもいた。
ペクのいるスタメンに復帰した三好は、立ち上がり5分の時点で韓国代表MFのパスを受けてボックス内に侵入。その10分後には、やはりペクとのコンビから逆サイドで先発したジュニーニョ・バクーナにシュートチャンスを作り出した。
だが、三好との呼吸と言えば、実際にネットを揺らしたスタンスフィールドだ。21歳のチーム得点王に「アシストになったパス、本人は『ラッキー』と言っていたんだけど、狙い通りのスルーパスだったと思う?」と冗談交じりに訊いてみると、笑顔で「もちろん!」と答え、こう続けた。
「コウジとは、シーズンを通してコネクションが確立されていると思うんだ。同じようなパスでのアシストは6回目だと思うけど、僕もアウェーでのストーク戦(第28節2-1)でアシストしてもらったし、ほかにも彼のパスで裏に抜けさせてもらったことが何回かある。コウジとはすごくいい関係ができ上がっているよ。僕のランを感じてくれる。身体の大きさで勝負できるタイプじゃないけど、動き出しの速さがある自分には、突くべきスペースを分かり合える味方が必要なんだ。そうすれば、必ず上手くいく」
前節でも、三好はベンチを出て数分後には、スタンスフィールドにロングパスを届けていた。この日は、後半早々に放ったライン越しのパスを、最前線の相棒がジャンピングトラップでものにする見せ場もあった。
約2万3000人のホーム・サポーターが、スタンドも揺れんばかりの大歓声を上げたのは、その20分後。三好は、今季リーグ戦得点数を10点台に乗せたスタンスフィールドの背中に飛び乗ってゴールを祝い合っていた。
経験がある者としての“自覚”
一方では、フルハムからレンタル移籍中の若きCFが背負う重責を軽減すべき責任が自らにあることも認識している。今季バーミンガムにあって、リーグ戦でチーム2番手の8得点を記録しているジョーダン・ジェイムズも19歳の若さ。27歳の日本人MFには、惜しくも枠外だったジェイムズのミドルをヒールキックで演出する場面もあれば、ジェイムズのパスが正確なら自身がゴール前に抜けられた場面もあった。
「前の選手としてやっている限りはゴール、アシストが絶対的に必要ですし、チームを支えるっていう部分もそうですけど、このチームでは年齢が上のほうなので、結果の部分でチームを引っ張っていくっていうのは絶対的に必要になると思っていて、そこは常に意識しています。ただ、すべて自分で行くっていうだけじゃなく、少し俯瞰してみることで、チームとしての落ち着きの部分だったり、冷静に点を取れるチャンスだったりを狙わないといけないとも思っているので、そこを上手く自分でもコントロールしながらやっています」
三好がリーグ戦で直接関与した得点数は「11」まで伸び、チームは降格圏一歩手前の21位から1つ順位を上げた。ただし、後続4チーム中3チームとの差は3ポイント以下。「もうホント、まずは残留なので1試合1試合に集中して、自分ができることをやるだけです」と、81分間のピッチで重要な仕事をこなした当人は言う。
三好にできること。それが何であるかは、“コウジ”とペクとスタンスフィールドによる「非常にいい連係」を、内容面での収穫として試合後に挙げた暫定監督をはじめ、ファンを含むバーミンガムの誰もが理解している。そして、残るリーグ戦6試合での三好に期待を高めている。
(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)
山中 忍
やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。