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西シェフが実感「FWは敏感」 日本代表の食事会場で見たルーティンの真実【インタビュー】
ハーフタイムには干し芋や羊羹…内田篤人氏の“ミス”指摘「寒天じゃない」
最近のサッカー選手、アスリートは「食」に大きなこだわりを持っている。日本代表の遠征などにも同行して胃袋を長年支えてきた西芳照シェフのインタビューを実施。サッカー選手にとって重要な栄養素となる「炭水化物」を巡っての議論が盛り上がりを見せた。(取材=河合拓/全3回の3回目)
◇ ◇ ◇
――試合の前日は選手たちも意識して炭水化物をたくさん食べていますか。
西 サッカーは食べますね。試合前日だけではなくて、合宿が始まれば朝、昼、晩と炭水化物が中心になります。ご飯も普通の白米と雑穀米、玄米、発芽玄米、十六穀米などを混ぜたり、単独で出したり、いろいろします。
――緊張感で食欲がない選手には何か特別なメニューとか対応されていますか。
西 それはないですね。あまり食べない選手には「あれ、どうしたの?」とか聞くことはありますが、それで特別なメニューを出したりはしていません。目の前で朝はオムレツや目玉焼きを作っていますし、昼や夜はパスタとか焼き肉を必ず目の前で作っていますから、そういう時に選手の食べている様子は見えます。その時に「いつも取りに来ているのに、来ないな」とか感じることはありますね。
――試合前のプレマッチミールはどんなメニューですか。
西 プレマッチミールは、うどん200グラムと、おにぎり。梅、鮭、昆布の3種類のうち、2個ぐらい食べますね。そのほかにサンドウィッチなどパンもあります。あとは鶏胸肉の蒸したものか、焼いたもの。魚も蒸すか焼いたものですね。それにミネストローネ、最近はコーンスープの方が多いですかね。あとはパスタもやっていますね。クラブチームですと外国籍選手がサンドウィッチやパスタを食べることになりますが、日本人選手だけだと、サンドウィッチやパスタしか食べられないことはないので、サンドウィッチも2枚組でカットしたものが、5組ぐらいなのでパンも10枚くらいあればもういいんです。
ただ、誰かが焼きサンドとか、クラブハウスサンドを作った時に「あ、これ美味しい!」なんていうと、みんなが食べ始める(笑)。それでも、選手のみなさんはもう「試合前はこう」というルーティンが決まっているので、そんなに変わらないですね。
――ハーフタイム用には、何かを用意されていますか?
西 おにぎりとバナナです。A代表になると干し芋とか、羊羹ですね。以前、内田篤人さんが吉田さんとの対談で「ハーフタイムにU-20日本代表は寒天を食べる」とか言っていて、ちょっとニュースになっていたのですが、寒天じゃなくて羊羹です(笑)。材料は寒天ですけど、羊羹です。
――それはだいぶ違いますね(笑)。
西 糖質補給の観点から羊羹にしているのですが、それも美味しい羊羹だと食べてもらえる。袋にたくさん入っている1000円くらいで売っているようなものだと、食べませんね。
――五感が鋭いですか。
西 たぶん、それはある程度年齢を重ねて、お金もたくさんあるので美味しいものを食べているからでしょう。イタリアなんか行っていれば、なおさら美味しいのが分かる。僕はどちらかと言うと、FWのほうが敏感かなと思います。細かいところに気が付く。ちょっと場所を変えても「なんで今日変えたの?」と聞かれますね。例えば先ほども話した米を、エジプト米から試合当日くらいは日本米を食べてもらおうと、変えるんです。色や艶が違うので、誰が気付くかなと見ていると、FWの選手ですね。
日本代表が目指すべき「食」の未来
――サッカー選手にとって炭水化物は重要ですか。
西 それ(炭水化物の重要性)が当たり前みたいになってきていますね。小学生、中学生に「試合後、おにぎり何分以内に食べたほうがいいかな?」なんて聞くと「30分以内です」と、普通に答えますからね。ただ、炭水化物、炭水化物と言いますけど、巷では炭水化物ダイエットとかいろいろありますよね。基本的に運動しない人は食べ過ぎていることが太っている元です。普通に昔ながらの食事をしていれば、問題ないと思いますよ。サッカー選手も炭水化物ばかりではなく、普通の人と同じ食事、栄養素であったりカルシウムだったり、鉄分だったり、ミネラルだったりを摂ったうえでの試合前日とか、当日とかのものですから。ほかは一緒です。試合前の軽食や補食は炭水化物ばかりになりますが、普通の食事だと思います。
――最後に「森保ジャパンが世界一を目指すうえで、これからの食に必要なこと」を聞こうと思ったんですけど、それはもう今のルーティンを徹底するという感じですね。
西 そうですね。選手のみなさんの普段の心がけですよね。今は海外組の人がたくさんいて、本当に自分がもっともっと活躍したい、もっともっと自分を高く売りたいっていう選手、野心に燃えた人たちがたくさんいますから、逆に試合の後、勝ったからビールを出しても、ほとんどの人が飲まないですよね。ビール一杯ぐらいなら、どうしてもアドレナリンも出ているので、沈めてリラックスさせる効果があるのかなと思うんですけど、飲まないですね。今回は試合をしに来ていて、活躍するイメージができている。そこでアルコールなんか摂取して、負けてしまったらと考えると飲まないんでしょうね。終わった後に、みんなで ワイワイというのはありますけど、そこの意識は高いです。やっぱり小さいうちから、「日本代表になるんだ」「上手くなるんだ」と人よりも練習して、いろんな誘いも断ってやってきた人たちですから。そこはやっぱり普通の人とは違いますよね。
[プロフィール]
西芳照(にし・よしてる)/1962年1月23日生まれ、福島県出身。1980年に京懐石よこいに入社。97年にエームサービス株式会社に入社して、Jヴィレッジ事業所に勤務する。99年に同事業所の総料理長に就任。04年からJFAからの依頼で日本代表への同行シェフへ。ドイツW杯、南アフリカW杯、ブラジルW杯、ロシアW杯、カタールW杯の過去5大会をはじめ、200回以上の海外遠征でも専属シェフとして食でチームを支える。23年にはラグビー日本代表のフランスW杯に同行した。
(河合 拓 / Taku Kawai)