日本→遠征、代表の食材運搬で“悩み事”「超過料金が」 西シェフのメニューの決め方は?【インタビュー】

日本代表を食事の面で長年支えてきた西芳照シェフ【写真:荒川祐史】
日本代表を食事の面で長年支えてきた西芳照シェフ【写真:荒川祐史】

ラグビーW杯の食事で実際にあった“食材制限”…監督や選手の反応は

 最近のサッカー選手、アスリートは「食」に大きなこだわりを持っている。日本代表の遠征などにも同行して胃袋を長年支えてきた西芳照シェフへインタビューを実施。日本代表の“食卓事情”やラグビー・ワールドカップ(W杯)での裏話を明かしている。(取材=河合拓/全3回の2回目)

   ◇   ◇   ◇   

――身体は食べた物からできるので蓄積していくものだと思うのですが、若い頃から意識して良いものを摂取した方がいいんですよね?

西 中学、高校からサッカーやラグビーをやっているスポーツ選手であれば、朝練習をして、授業が終わってからクラブチームや学校での午後の練習をして、体を動かして、走り回るので、食べたもの全部でもカロリーは足りないくらいだと思いますよ。

 ですから練習量と言いますか、どういう練習するかによっても変わると思いますが、あまり関係ないと思います。例えば、即席麺のようなものばかりを食べていたらいけないかもしれませんが、バランス良く、お肉や野菜を摂り、それを普通のパターンにしていれば問題はないと思います。唐揚げだとか、揚げ物も問題ありません。油も身体に必要なものですから。日本代表ですと試合の3日前から油脂を控えて、鶏むね肉にするとか、豚や牛のバラを使わないでロースにするとかは言われますけどね。

――3日前からですか? それ以外は揚げ物も提供していますか。

西 油脂を控えるのは3日前からですね。揚げ物は出しても、ほとんど食べません。試合が終わった後に唐揚げを出したりすれば食べますが、あとは選手の皆さん、自分からは食べないですね。

――ラグビーは別ですよね?

西 別ですね(笑)。今回の(フランス)ラグビーW杯の時の話をすると、最初の合宿が朝練、午前連、午後連と3回練習があったのですが、食べる量は1万カロリーくらいいきます。今回のラグビーW杯では「選手たちが食べるだけ出して」と言われていました。シドニーにいる管理栄養士さんと打ち合わせをして、「油物を控えてください」など日本と同じようなことは言われたんです。それでもイタリア合宿から体重オーバーの人が増え始めて、そこで管理栄養士さんと再び話し合い、最初はパンを朝、昼、晩と出していたのですが、朝と昼に2種類だけ出すようになりました。ほかにもフルーツも朝と昼は2種類だけ、お肉も2種類にしてと言われたので「パスタを作る際にミートソースを使いますが、それはどうなるんですか?」と聞くと「ミートソースも肉ですから1種類に入れてください」と、言われてしまったんです。

 肉はミートソースで1種類を使うので、あとは宗教上の理由もあるのでチキンを必ず出す。魚しか食べられない人も1人いたので、魚も必ず出す。肉2品と魚1品。それがタンパク質の元となっていました。あと野菜は食べない。トマトとブロッコリーは食べてくれましたが、ほかは食べてくれない。コーンの缶詰をちょっと散らしたりしましたけど、それもほんのちょっとですよね。

 そんな感じでやっていたのですが、フランスに行った後にマイケル・リーチさんと食事の話をする機会があって、食材に制限がかかっていることを話したら、「そんなのおかしいだろう」となったんです。朝食は6時半からだったのですが、リーチさんは5時半頃からプールで身体をほぐしたり、ストイックにやっていたので、そういう人が「おかしいだろう」と言われたものですから、その翌日の昼には容器にたくさんケチャップライスを入れておいて、選手たちの目の前でオムレツを調理して乗せたんです。そうしたら今度は監督が来て「美味しいね」と言ってくれたんです。その時に「これね、バターが入るともっと美味しいんですよ」と言ったら、監督に「バターも使っていいよ」と言われたんです。それで最終的に監督がOKなら、OKということで、揚げ物を含め、何を出しても良くなったんです。それまでは1か月半くらい、いろいろと制限があったんですけどね(笑)。試合に負けた時の責任の所在が問題になってくるからだと思いますけど、最後は監督が「いい」と言ったからOKになりました。

日本代表の合宿における食事の決定事項とは?【写真:Getty Images】
日本代表の合宿における食事の決定事項とは?【写真:Getty Images】

A代表の合宿メニューで決定事項は?

――いろいろと制限するよりも、美味しく食べた方がいいんですね。

西 その後は天丼や酢豚も出したのですが、それで試合に負けましたから、僕の責任もあるのかなと。前もって、言われたので作りますよという話はしたんですけどね。

――どういうメニューを食べさせてあげたいと思っているのでしょうか。

西 まずは美味しいものですよね。それが第一ですよね。食べてもらわないとしょうがないので。あとは箸が届くというか、トングが届くように、食欲がわく盛り付けをすること。そこくらいですかね。

――メニューは、栄養士の方がほとんど決めている形なのでしょうか。

西 サッカーの国内合宿では、旅行会社の人がこういう感じというサンプルメニューをホテルに出して、ホテルからこういうものができますと返ってきたものを管理栄養士さんがチェックして、それを出すという感じですね。海外ではメニューを決めても材料が手に入らないことがあるので、決めても仕方がないんですよね。

――日本の食材というのは日本から持っていくのですか。

西 A代表の場合、今は試合の3日前の銀だらのみそ漬けとかは持って行っていますね。お米を持っていくこともありますが、チャーター機の場合は肉以外持っていきます。ただ、今は海外組がほとんどで、日本から行くスタッフと選手は2、3人なので、食材を持って行こうとすると超過料金がかかってしまうんです。ですから、お米なども中東に行った時はエジプトの短粒米を食べてもらったりします。それを食事時間に合わせて仕上げていく感じです。海外遠征で決まっているのは、試合後のカレーと試合前日の夕食のウナギ。前々日のハンバーグと3日前の銀だらのみそ漬け。それだけは決まっていますが、それ以外はシェフと話して冷蔵庫、冷凍庫を見ながら決めますね。和食と中華系、ヨーロッパ系は僕が作って、現地のシェフには「今日はヒレステーキを焼いてください」と、頼むような感じです。なるべく食事前のギリギリにするとか、目の前で焼くとか、そういう風にはしています。

※第3回に続く

[プロフィール]
西芳照(にし・よしてる)/1962年1月23日生まれ、福島県出身。1980年に京懐石よこいに入社。97年にエームサービス株式会社に入社して、Jヴィレッジ事業所に勤務する。99年に同事業所の総料理長に就任。04年からJFAからの依頼で日本代表への同行シェフへ。ドイツW杯、南アフリカW杯、ブラジルW杯、ロシアW杯、カタールW杯の過去5大会をはじめ、200回以上の海外遠征でも専属シェフとして食でチームを支える。23年にはラグビー日本代表のフランスW杯に同行した。

(河合 拓 / Taku Kawai)

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