- HOME
- 今日のピックアップ記事
- 日本代表の胃袋支えた西シェフ明かす食事秘話 三笘は“グルテンフリー”…本田は流行の先駆け?【インタビュー】
日本代表の胃袋支えた西シェフ明かす食事秘話 三笘は“グルテンフリー”…本田は流行の先駆け?【インタビュー】
1997年からスポーツ業界へ―27年間の“原点”
最近のサッカー選手、アスリートは「食」に大きなこだわりを持っている。日本代表の遠征などにも同行して胃袋を長年支えてきた西芳照シェフにインタビュー取材を実施した。積極的に食事の発信をしてきた元日本代表DF長友佑都をはじめ、MF本田圭佑、DF吉田麻也や現役日本代表のMF三笘薫らトップアスリートの「食」について語ってもらった。(取材=河合拓/全3回の1回目)
◇ ◇ ◇
――長くスポーツ業界に携わっていますが、どのようにして関わるようになったのでしょうか?
西 僕はJヴィレッジから北に40キロぐらいに行った福島県の南相馬町が田舎なのですが、そこに1997年の1月に帰った時に「新しくJヴィレッジというホテルのようなものができる」と聞きました。当時はどういうスポーツ施設かも全然わからなかったのですが、小学5年生と3年生の子供も2人いて、産まれてから東京でずっと育っていたんです。福島には自然や山もあり、目の前も海だったので福島の実家の方で育てるのもいいかなと感じていました。そこで役場に行って「こういうのができるんですが、どこに行けばいいんですか?」と訪ねたら、「開設事務所が東京にあるから、そこに連絡して下さい」とエームサービス株式会社を紹介してもらい、連絡したらとんとん拍子で和食の料理長という形で採用になりました。それでJヴィレッジで働くようになったんです。Jヴィレッジはホテルもあったのですが、日本代表が来ると貸し切りになって誰も入れないようになっていて、そこから管理栄養士さんと一緒に代表の合宿などに関わるようになったのがきっかけですね。
――そうすると、もう27年になるんですね。
西 もう27年ですか……。そんな感じで今もこうして日本代表やクラブチーム、今年は日本女子代表や男子のオリンピック代表、ラグビー日本代表にも声をかけていただいていますね。だから全然、福島にいないんです。お店をやっているのですが、ずっと閉めっぱなしで家賃だけ払っています(笑)。お店にいないと、どうしても「なんでいないんだ」と言われてしまうので「閉めます」と張り紙をしています。
――長い期間トップアスリートと接してきていますが、昔と今の選手では、食事や栄養学に関しての意識の違いというのは感じられますか。
西 今のほうがストイックな人が多いですかね。JヴィレッジでもJリーグの研修を2、3時間くらい、Jリーガーになった時に講習会があって、そこで管理栄養士さんが2人くらいでお話しされています。クラブチームでも、結婚している人には奥様に向けて「こういうものを作ったらいいよ」というメニューの紹介をしたりしています。若い子は身体が動きますからね、何を食べても。あまり気にしていないように感じます。あとはクラブによって違いますね。川崎フロンターレさんとかは、選手の皆さんがしっかり考えて食べているように見受けます。
――クラブによって差はありますか。
西 ほかのクラブがダメというわけではありませんが、川崎フロンターレさんの場合は、力の入れ方が違う感じがします。管理栄養士さんがいいのか、一度見させてもらったのですが、選手たちへの接し方もやんわりとしていて、食事の方法やなぜこれがいいのかというものを伝えていました。選手からも聞いてくるというのがありましたね。
――最近は海外でプレーしている選手が多いので、「グルテンフリーに」など、いろんな要望も増えているのではありませんか。
西 そうですね。海外組が多いですかね。例えば、吉田(麻也)さんとか、長友(佑都)さんとかは、年齢的なものもあると思いますけど身体が動かなくなってきて、どうしたらもう少し選手生命を長くできるかを考えた場合、トレーニングもあるでしょうけど、行きつくのは食事になると思います。そこで著名な選手、野球の工藤(公康)さんとかが50歳近くまでプレーしていた時に和食中心の食事に変えたとか、テニスのジョコビッチ選手がグルテンフリーだったとか、そういうところに耳は行っちゃいますね。
三笘や俊輔、本田の食事方法は?「サラダから」
――ジョコビッチさんの影響は大きかったですか。
西 そういう時代の流れもあると思います。年齢以外でいえば、三笘(薫)さんなんかは、今からもうグルテンフリーはやっていますけど、ちょっと彼は特別。年齢が上になった人、中村俊輔さんは海外に行ってビュッフェに並んでサラダから食べる。お皿にサラダをよそり始めて、塩と胡椒とオリーブオイルをかけて食べ始めると、ほかの人も真似しますね。本田(圭佑)さんが「野菜サラダのところに、赤と黄色のパプリカを出して下さい」なんて言うと、今まで出していてもみんな食べなかったのが、本田さんが食べるとみんな食べるようになるんです。「明日から本田圭佑だ」と思って、食べているんだと思うんですけど(笑)。そういうふうに見本となる選手がいるから、参考にする。
――ビーツというのはいかがですか。
西 ビーツは、本田さんが取り入れていましたね。
――どういう料理で提供されているのですか。
西 海外では普通にスープなどにしますよね。ロシアのボルシチになる材料ですが、ボルシチは刻んで炒めて色出ししてスープの中に入れたりしますし、サラダにも茹でてゴロゴロと切って出したりしますね。日本ではまだそんなにメジャーではありませんが海外では普通に食べられていますし、これからブームになるでしょうね。あと、ビーガンなんかもありますね。
――日本人選手ですか。
西 はい。なんちゃってじゃなくて、大豆バターを持参したり、こだわってやっている方もいらっしゃいました。今はやっていないですけど。長友さんもロシアW杯前のベルギー遠征の時までは、「グルテンフリーのパスタを用意しておきますか?」なんて言うと「お願いします!」なんて言っていたんですが、実際ロシアに行って「パスタどうしますか? グルテンフリーにしますか?」と聞いたら「あ、西さん(グルテンフリー)やめた!」と言われてね(笑)。やめた?って。
長友さんは結構、グルテンフリーをやっていることで有名でしたし、みなさん参考にしていたので当時はパスタも2種類作ったりしていました。結局、例えばFWの選手だったら何かを始めて点を決めたり、体の調子がちょっと良くなったように感じられたら、それを続けるのだと思います。何かしら始めて、その後にスランプに陥って「じゃあ、ちょっとやめてみよう」と、今度はやめたら調子が良くなったから、やめると。多分、そういうことだと思うんですよね。日本人だからかもしれませんが、和食を中心にする選手が多いですね。見ていても、それがいいのかなと思います。油脂が少ないですしね。
※第2回に続く
[プロフィール]
西芳照(にし・よしてる)/1962年1月23日生まれ、福島県出身。1980年に京懐石よこいに入社。97年にエームサービス株式会社に入社して、Jヴィレッジ事業所に勤務する。99年に同事業所の総料理長に就任。04年からJFAからの依頼で日本代表への同行シェフへ。ドイツW杯、南アフリカW杯、ブラジルW杯、ロシアW杯、カタールW杯の過去5大会をはじめ、200回以上の海外遠征でも専属シェフとして食でチームを支える。23年にはラグビー日本代表のフランスW杯に同行した。
(河合 拓 / Taku Kawai)