なぜ“昇格組”の町田は首位なのか 新加入の文武両道DFが見た緻密な原理原則【インタビュー】

横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:(C) FCMZ】
横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:(C) FCMZ】

横浜FCから新加入のDF林幸多郎、開幕戦から4試合連続フル出場

 2023年シーズンにJ2リーグ初優勝を果たし、J1に昇格したFC町田ゼルビアは、日本のトップリーグでも快進撃を見せている。開幕戦でガンバ大阪に1-1で引き分けたあと、名古屋グランパス(1-0)、鹿島アントラーズ(1-0)、北海道コンサドーレ札幌(2-1)を相手に3連勝を収め、リーグ戦でトップに立ったのだ。まだ4節を終えた早い段階とはいえ、外から見れば「驚きの躍進」だ。では、中からはどのように見えているのか。今シーズン、横浜FCから加入したプロ2年目のDF林幸多郎を直撃した。(取材・文=河合 拓)

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 J1で首位に立っていることについて、林は「自分たちの実力、能力が圧倒していて、この順位にいるというわけではないと自分たちは感じています。それぞれが『走る』『戦う』という基本的な部分を、みんなでサボらずにやっているというところで、結果がついてきているのかなという感じです」と言い、「本当に誰一人として甘さを許さず、嫌がるようなそのハードワークといいますか、キツイことも文句を言わずに、実直にやれるところはすごくチームの強みかなというふうに思います」と、結果が出たことで、自分たちのストロングポイントを確認できたことを口にした。

 J1でどれだけ戦えるか。それを計る場ともなった開幕戦のG大阪戦では、自信とともにJ1の怖さを感じられたという。この試合、町田は前半17分に先制ゴールを挙げたものの後半15分にMF仙頭啓矢が2枚目のイエローカードを受けて退場となる。その後も粘りを見せていたが、後半39分に元日本代表FW宇佐美貴史に直接フリーキックを決められて、同点に追いつかれた。

 林は「後半、10人になる時間がちょっと早かったので、そこはすごくアクシデント的な部分でしたけど、そこまでの時間帯に関してはすごく自分たちの思うようなサッカーができていた部分が大いにあったので、手応えは感じていた部分がありました」と収穫を語る。

 そして、「ただ、やっぱりああいうふうに早い時間で10人になって、宇佐美選手のフリーキック1本で仕留められるっていうところは、やっぱりJ1のクオリティーの高さを感じました。それでも、そこで勝ち点ゼロになるよりは、引き分けで終われたことは本当にポジティブだったかなと思います」と、J優勝経験もある名門から勝ち点を取れたことが、その後の自信につながったという。

横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:(C) FCMZ】
横浜FCから新加入の林幸多郎【写真:(C) FCMZ】

町田の強さを下支えする計38選手による激しい競争

 町田の躍進を支えているのは、4試合を終えてサンフレッチェ広島に次ぐリーグ2位タイの2失点に抑えている堅守だ。昨季J2を制したクラブに加入した林は、この守備の堅さについて、「ハードワークはもちろん前提にあるんですけど、やっぱり監督が求める守備のディテールへのこだわりですね。ゴール前で走らせない、打たせない、クロスを上げさせない。そういうところを多分どこのチームよりもこだわっていらっしゃるので、そこに対する全員の危機感がすごく強いのかなと思います」と、黒田剛監督の求める基準の高さにあると分析した。

 監督やコーチングスタッフに求められることは、決して難しいことではないという。林は「小学校くらいからでも全然使えるというか、当たり前のように言われること。選手個人として、すごく大切なものになると思う」と、原理原則が再認識できているという。具体的には、「ゴール前の局面で最後は人というところをベースにしていて、そこの個人の責任をはっきりさせている。なんとなく守るのではなくて、本当に1対1に負けないっていうところを極めていった感じ」と、求められていることについて説明した。

 そして、「そうしたことをプロだからって動かさずに伝え続けてくれる監督とかコーチングスタッフの方々は本当に凄いなと思います。みなさんが一定の基準を共有して、同じ基準でしっかりと見てくださっているので、1つ1つのこだわりはすごく感じます」と、徹底した指導をする町田のコーチ陣について語った。

 もう1つ、町田の強さを下支えしているのは選手間の競争だ。今シーズンの町田は38選手が所属する大所帯となっている。「移籍するに伴って、そのポジション争いはすごく難しいものになるだろうなという予測はしていました」と言う林。「ただ、そういう監督が求めるものだったり、チームが求めていたりするものをしっかり理解して表現する部分に関しては、僕の長所にもしているというか、得意にしている部分。上手くシーズンに入っていけたかなと思っています」と、開幕から4試合フル出場した手ごたえを口にした。

 そのうえで、「これだけの人数を抱えていて、毎日毎日が勝負というか、1つのプレーでスタメンが変わってくる危機感がすごく毎日の日常の中にあります。日々、そういう緊張感を持ちながらやっている感じです」と、語った。

3月30日の鳥栖戦は「目の前の試合に全力を注ぎたい」

 新加入の町田で林は、左サイドバックを務めている。前所属クラブと現所属クラブでの求められている役割の違いについては「ポジション的なところでいくと、やっぱりウイングバックは、ある程度、攻撃も守備も全部やらなきゃいけない部分があるんですけど、町田の前線には本当に能力ある選手たちが揃っているので、自分はある程度、守備に重きを置きながら、考えながらやっているかなという感じです」と、説明した。

 林も大卒2年目の若手だが、町田にはU-23日本代表にも選ばれているMF平河悠やFW藤尾翔太といった林よりも若い選手たちが多くいる。「若い選手が多い分、本当に活気があるチームですし、ベテランの選手たちもみんながやりやすい雰囲気作りをしっかりやってくださっています。それでみんな、伸び伸びとプレーできる環境にあるのかなと思いますし、すごくいい雰囲気でやれています」と、町田の雰囲気について語った。

 町田に加入後、特に印象に残っている選手を聞くと、左サイドでコンビを組んでいる23歳の平河の名前を挙げた。「小学校の頃から知っていた選手だったんですけど、すごく機動力、馬力があって、技術も兼ね備えている。あれだけの運動量で90分間走り続けられる選手は、なかなかいないので凄いと思いますよね。どの試合を見ても走っているのですが、開幕戦で10人になったあと、悠が最後は1トップになっていたんですけど、最後まで追いかけましてくれたところは助かりました。この前の札幌戦も凄かったですね。最後にスプリントでコーナーを獲得した時も、本当にチームを助けるプレーをしてくれました」と、その理由を述べた。

 3月30日の第5節で対戦する相手は、下部組織時代を過ごしたサガン鳥栖。そして、続く第6節はJ初ゴールを挙げたサンフレッチェ広島との対戦が控えている。

 過去に所属していた相手や初ゴールを挙げた相手との試合にも、「特別な気持ちはない」という林は、「チームとして中断明けなので、フレッシュに入っていきたいなというところはあります。今の順位は関係なく、目の前の1試合1試合に全力で勝ちに行くことがすごく大事なので、どこが相手ということは考えず、目の前の試合に全力を注ぎたいと思います。選手1人1人が色気づかずに、本当に実直にひたむきに頑張る姿はやっぱり見ている人たちにもいろんな影響を与えると思っているので、そういう部分に注目して見てほしいです」と、チームを首位に立たせている原動力となっているハードワークを注目ポイントに挙げていた。

[プロフィール]
林幸多郎(はやし・こうたろう)/2000年11月16日生まれ、佐賀県出身。明治大―横浜FC―町田。J1通算33試合・2得点。90分間ハードワークできる運動量が特徴。サイドバックだけでなく、中盤などもこなせるポリナレント性を兼ね備える。現役生活の中で、司法試験受験を視野に入れる文武両道ぶりでも知られる。

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【試合情報】
開催日:2024年3月30日(土)
カテゴリー:J1リーグ第5節
対戦カード:FC町田ゼルビア vs サガン鳥栖
キックオフ時間:15:00
試合会場:町田GIONスタジアム

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