北朝鮮ドタキャン騒動へ厳罰は妥当か?…英記者が見解「彼らを遠ざけて何が達成されるか」【コラム】
AFCから通知「試合の5日前にこうなることを残念に思った」
日本代表の北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選のアウェー北朝鮮戦が突如中止になった。21日に平壌開催を白紙撤回するという北朝鮮側のドタキャン騒動から異例の事態に発展した一件は、被害を被った日本や海外でも物議に発展。かつてアジアサッカー連盟の機関紙「フットボール・アジア」の編集長やPAスポーツ通信のアジア支局長を務めた英国人記者マイケル・チャーチ氏がこの問題の解決策に言及した。
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パラノイア(偏執症)と猜疑心。金一族による閉ざされた領地と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の中の起こるすべてのことに長らく関連付けられていたお馴染みの特徴だ。
この国の独自の世界観は時折現実と衝突し、火花が散る。それは確立された地域秩序を脅かすような不可解で、困惑させる発言であったり、挑発的な試験飛行で舞い上がるミサイルであったり形はさまざまだ。
だからこそ、彼らの好戦的な行動にスポーツが巻き込まれることは驚くべきことではない。そして、その中でもサッカーがその被害を受けることがしばしばある。
スポーツの国際試合は北朝鮮が行っている最も有意義な国際交流だ。試合はメディアから大きな注目を集めるだけでなく、彼らはこれまでに多くの成功も収めている。
アジア全体を見ても、北朝鮮の2回よりも多くワールドカップ(W杯)に出場しているのは、この大陸の真の強豪国である日本、韓国、イラン、サウジアラビア、そしてオーストラリアだけだ。
女子競技に関しては、エリートとしての地位はさらに確立されたものだ。長きにわたって外の世界から遮断されていた国であるにもかかわらず、北朝鮮は他国が羨むような成績を残してきた。
しかし、だ。北朝鮮サッカー界の成功は賞賛に値するものだが、この国は不快感を与えたり、苛立ちを覚えるような問題を引き起こすことがあるのも紛れもない事実だ。
W杯2次予選において、日本の平壌行きが中止となった土壇場での決定は、北朝鮮が最も基本的な責務を果たすことができないことを意味している。そして、これは長い歴史の新たな一部に過ぎない。
こうした状況は、新型コロナウイルスのパンデミックへの国の対応によっても悪化していた。コロナ以降、北朝鮮の選手団が国を離れて大会に参加するのが認められたのは、昨年9月、中国の杭州で行われたアジア大会が初めてで、実に4年ぶりのことだった。
先月、なでしこジャパンはパリ五輪予選の第1戦を平壌ではなく、サウジアラビアのジッダで戦わなければならなかった。それも今回の出来事の前触れだったと言えるかもしれない。
これら2つの事件は間違いなく、国際サッカー連盟(FIFA)とアジアサッカー連盟(AFC)の両方に対し、北朝鮮のふざけた振る舞いへの処分を求める声につながるだろう。
同じようなことが1か月の間に2度も起こり、没収試合や出場停止などの可能性も十分に考えられる。不戦勝で日本に勝ち点3が与えられれば、森保ジャパンはそのまま予選突破が決まる。
日本の男女代表がドタバタ被害も…最後のチャンスを与えるのも一手
それでも、外の世界と複雑な関係を持つこの国を厳しく罰することには抵抗があるだろう。自分たちではコントロールしようもない一連の問題によって、選手たちに悪影響を及ぼしていいのだろうか。
確かに、これまでも関係当局は北朝鮮に対してできる限りの対応を図ってきた。
2018年W杯予選の最中、北朝鮮とマレーシアは2017年2月に金正恩氏の兄である金正男氏がクアラルンプール国際空港で暗殺された事件の余波に巻き込まれた。
両国の外交は著しい緊張関係となり、サッカーも必然的にその論争に巻き込まれた。
運命に引き寄せされたかのように、この2つの国はアジアカップ2019の最終予選で同じ組となった。
しかし、どちらの政府も相手国に渡航することを許可しなかったため、試合は中立地のタイ・ブリーラムで開催が決まるまで延期となった。
このシナリオは韓国と北朝鮮が3次予選と最終予選で2度も激突した2010年南アフリカW杯予選を思い起こさせる。当時、平壌で行われる予定だった2つの試合はいずれも、中国の上海で行われた。
つまり、こうした過去の経験が判断基準になるのであれば、中止となった日本と北朝鮮のゲームが進行する可能性はあるだろう。問題はW杯予選の残りの日程が決まっているなかで、どこに試合を組み込むのかということだ。
それを実現させるには日本サッカー協会の理解に加え、FIFAとAFCからの寛大なアプローチが必要になるだろう。彼らは過去に北朝鮮に対して、そのような対応を取ることが可能であることを示してきた。
果たして、再びそのような状況になるべきなのだろうか? おそらくはそうなのだろう。あるいは、北朝鮮がAFCとFIFAから長期間の出場停止処分を受ける必要があるのかもしれない。
しかし、彼らをサッカーのメインストリームから遠ざけることで、何が達成されるのかはなかなか見えてこない。一時的な資格停止や出場停止処分が北朝鮮の国際交流における問題が緩和されることはあるのだろうか。おそらくはないだろう。
この問題における本当の犠牲者は、外の世界との最小限での交流から大きな利益を得ているこの国の若いアスリートたちだ。
私の考えでは、6月に中立地で、北朝鮮に厳しい期限を課したなかで試合を行う方法を模索するのが最善だと思う。
北朝鮮はまだ3試合のホームゲームを開催していないため、どこか1つの会場を指定し、そこで7日あるいは8日間で3試合を行う。それができない場合、北朝鮮の勝ち点を剥奪するだけでなく、すべての結果が無効にされるべきだ。
そうなれば、FIFAとAFCにも北朝鮮を厳しく処分する正当な理由を持つことになる。しかし、最後のチャンスを与えることで今回の問題全体が解決される可能性もあるかもしれない。少なくとも、今の段階では。
(マイケル・チャーチ/Michael Church)
マイケル・チャーチ
アジアサッカーを幅広くカバーし、25年以上ジャーナリストとして活動する英国人ジャーナリスト。アジアサッカー連盟の機関紙「フットボール・アジア」の編集長やPAスポーツ通信のアジア支局長を務め、ワールドカップ6大会連続で取材。日本代表や日本サッカー界の動向も長年追っている。現在はコラムニストとしても執筆。