森保ジャパンはアジア杯から改善されたのか ベテラン長友が指摘した「意識の問題」【コラム】
アジア杯からの改善ポイントは「セットプレー」「ロングボール」
森保一監督率いる日本代表は2026年の北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選で朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と国立競技場で対戦し、1-0の勝利を収めた。
試合は前半2分、ペナルティーエリアのポケットに入り込んだ堂安律からの折り返しを田中碧がダイレクトで蹴り込んで先制。その後何度か決定機を迎えたが追加点が奪えない。後半に入ると逆に攻め込まれ、同2分にはハン・グァンソンのシュートがポストに当たる場面も。それでも1点を守り切り、日本が最少得点ながら勝利を収めた。
日本が無失点で試合を終えたのは1月1日のタイ戦以来。2024年に入ってからはアジアカップ直前の練習試合、ヨルダン戦まで含めて6試合で9失点と守備に課題を抱えていた。
今回の試合のメンバー発表の際、森保一監督はアジアカップからの改善ポイントとして「セットプレー」「ロングボール」を挙げていた。
「セットプレーにしてもオープンプレーにしても、相手がシンプルにボールを入れてきたときどうやって守備の対処するのか、どうやって攻撃につなげていくのかは、もう一度チームとして確認していきたい」
この試合でも、相手がロングスローやロングボールで攻め込んでくる場面があった。例えば後半2分のピンチでは、相手GKからのパントキックをヘディングで落とされ、そこに走り込んだハン・グァンソンをフリーにしてしまっている。
ロングボールへの対処のために全体のバランスがうしろに下がり、前線が孤立しやすいことについて、試合前日に上田綺世は「そこが僕らの今のその課題であることは間違いないです。セットプレーもそうだし、守備のところはもっと組織的に合わせていかなければ」と語っていた。
一方で、「ただ、この短期間でも話したからできるわけでもない。ゲームの中で自分たちが感じているところも、しっかりコミュニケーションをとって合わせていくのが、課題がどこかというよりも必要になるんじゃないかと思います」と、練習時間の短さから来る難しさも語っている。
長友は北朝鮮戦後に「うしろにズルズル下がることはやめようと言っていた」と証言
たしかに今回も練習時間は短かった。試合前々日に合流した選手だけでも、南野拓実、中村敬斗、堂安律、遠藤航、鈴木彩艶、渡辺剛、町田浩樹、守田英正、相馬勇紀、菅原由勢、小川航基、そして上田の12人だ。
戻ってきた火曜日は軽く身体をほぐして終わり、全体練習に合流したのは試合前日の公式練習1時間だけなのだ。そしてそのうち、南野、堂安、鈴木、町田、守田、菅原、上田の7人が先発としてプレーしている。
これではここまで何度か一緒にプレーしていたとしても、細かいコンビネーションを合わせるのは難しい。組織が必要な守備においてはさらにその難易度は上がる。相手が1年中一緒に活動しているチームだったら、なおさら難しさはあっただろう。
苦しくなった後半29分、森保監督は谷口彰悟、橋本大樹、浅野拓磨を投入して3バックに変更し、残り15分を守り切るという選択に出た。それまでに見えていた選手の疲労を考えるとやむを得ない変更であったことだろう。監督は交代の意図を「守備を安定させて、そのうえでカウンター攻撃を仕掛ける」と説明した。
そして、試合を無失点で終えた。結果だけを見れば改善は進んだと言える。森保監督はセットプレーの改善点について「何を改善したかっていうところは説明なしで」と言葉を濁したが、かなりの微調整が加えられているのが見て取れた。
これはアジアカップの際に集めたデータが役立っていると推測できる。山本昌邦ナショナルチームダイレクターは、誰がどんな時間帯のどんなプレーでどれくらいの勝率があったかなど、個人に関する細かいデータも含めて「すべてのデータが集まった」と語っていた。その内容が生かされていると言っていいだろう。それでもやはり前後のバランスが崩れることで、後半の攻撃が活性化しなかったという反省点はあるはずだ。
試合後、長友佑都は「うしろにズルズル下がることはやめようと言っていました」と明かした。そして改善すべき点についてこう語っている。
「疲労もあると思いますが、意識の問題でもあると思うんです。ちょっとでも相手がバックパスした時にラインを上げるとか、チームとして全体を押し上げるとか、そういった細かいところをもうちょっと詰めていければ、ああいう時間帯も減るんじゃないかと思います」
長友が「厳しい環境こそ僕の存在を見せられるんじゃないかと楽しみにしていた」26日のアウェー戦は、残念ながら相手国の都合で開催されないことになった。
森保監督は「昨日(21日)の試合において気になった点や改善点を修正する機会がなくなったことと、次の試合でより多くの選手を起用できなくなったことは残念に思います」とコメントを発表。悔しさを滲ませる。
日本が計算していた「W杯本大会まであと何試合あるか」という、大切な強化の予定が1試合減ってしまった。そのため修正は6月まで持ち越される。労せずして勝点を獲得できることはプラスだが、チーム作りの観点から言えばマイナスになってしまったことは否めないだろう。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。