小川航基が4年3か月ぶりに日本代表へ復帰できた訳 蘭で見せた「ちょっとうるさい!」の反骨心【コラム】
加入1年目のオランダ1部NECで公式戦12ゴールをマーク
小川航基の日本代表キャップは1。2019年12月、E-1選手権の香港戦でハットトリックしたときのものだ。当時のメンバーからGK大迫敬介、MF田中碧、FW上田綺世が日本代表の常連に駆け上がった一方、「A代表はあの大会だけ」もしくは「あの大会が最後」といった選手も多い。
1月のアジアカップでようやく渡辺剛は2キャップ目を記録した。来たる北朝鮮との2連戦で、きっと小川も渡辺に続くことだろう。
「みんなが活躍していく中で、少なからず悔しい気持ちはあった。『俺もできるのに』という思いもあり、もどかしい時期を過ごしていました。ただ、『自分は自分』と言い聞かせながら、自分のペースで成長していこうと思っていました。もちろん、まだ自分は十分ではないし、もっとやれる、もっと点を取れると思っています。ただ、みんなが活躍している間も、僕は自分ができることをコツコツとやり続けた結果、オランダに来ることができて、それが一つの結果につながった。それは大きいと思います」
未完の大器は横浜FC時代の2022年、J2で26ゴールを量産し、翌季、J1でもやれることを証明してことで昨夏、26歳の誕生日を目前にしてオランダリーグでの挑戦権を得た。そしてNECナイメヘンで公式戦12ゴールを積み重ねたことで、今回の代表復帰につなげた。
「高卒でJリーグのクラブに入って、20歳過ぎですぐに代表選ばれて海外行って――そういうイメージでプロの世界に入ったので、自分のイメージとかけ離れたプロサッカー生活になった。それが5年先になったのは自分自身のせい。ただ、ここまでなんとか来ることができたのは自分を信じてやってきたから。やっとスタートラインに立てました。ここからです」
そんな小川の根底に流れるのは反骨心。
「年代別代表で自分は呼ばれ続けましたが、チーム(ジュビロ磐田)ではまったく結果を出していなかった。ずっと20歳のときから『なんでやれないんだろう』『なんで使われないんだろう』と文句ではないですが、そういう反骨心を持っていました。『使われれば、自分は結果を出すことができる』ことを最近証明しているのは、僕自身が成長してきた部分。そういった意味では代表に選ばれたと同時に『(今まで)何やっていたんだろう!?』という思いも強くあります」
その「反骨心」は小川が自ら意図して作ることもあるのでは? 2月、KNVBカップの準決勝、対カンブールでは「相手の左サイドのセンターバック(CB)でポストして、前線で作ってくれ」と指示を受けたが、前半はそれがうまくできなかった。ハーフタイムでコーチに何度も同じことを言われたので、「ちょっとうるさい!」という感じになったところを、ナイティンク主将が「お前、大事なことだからちゃんと聞け」ととりなしてくれた。
「だけど、僕はコーチの言う事をちゃんと聞いていました。彼はすごく経験のある指導者なので。(後半から)実際に左のCBのところで攻撃を作り、ポストもできました。頭からコーチの言う事を聞かないのではなく、しっかり聞いて実践できたのは自分の成長の一つです」(カンブール戦後の小川)
そしてゴールを決めたのは小川。半分、意図して反骨心を作って自らを奮い立たせ、劣勢だったチームに同点ゴールをもたらした。延長戦にもつれこんだ熱戦は佐野航大の決勝ゴールでNECのものとなった。試合後の小川にはハーフタイムのときの高ぶりは静まり、KNVBカップ決勝進出の喜びが表情に表れていた。
名門・桐光学園で過ごした高校時代には「言い返すこともたくさんあった」
代表招集直後の小川に改めて「こういう反骨心は大事?」と訊いてみた。
「成長する選手の共通点は『聞く力』だと思っている。一回、指導者の話を受け入れてみて、それを飲み込む選手が成長できます。指導者からガアっと言われると、自分が熱量高いときには『うるせえよ!』と態度で出しちゃうときもありますが、僕自身はしっかりと耳を傾けて受け入れているつもり。そこは意識していますね」
反骨心を表に出しつつ、指導者の話を受け止めるということ。それは今も連絡を取り合っているという高校時代(桐光学園)の恩人、鈴木勝大監督に対してもそうだったのだろうか?
「カツさんとは結構……。僕もホントに青二才というか、もうすごく若かったので、やっぱり監督に言い返すこともたくさんあった。監督だけでなく、コーチともそういうことがしょっちゅうありました。それでも、しっかりと聞く耳を持ってました」
小川のマネジメント会社のホームページに「逆境に陥ったとき、それを乗り越える方法は?」という問いがあった。その答えの冒頭はやはり「反骨心を持つことが大事だと思います」というもの。しかし、そのメラメラとしたパワーの底には「聞く力」と「学ぶ力」が宿っている。
(中田 徹 / Toru Nakata)
中田 徹
なかた・とおる/1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグなどを現地取材、リポートしている。