鎌田大地に退団説…夏移籍時の“最適解”は? 恩師率いるプレミアクラブが「最有力」の可能性も【コラム】
ラツィオ鎌田が1年で退団の可能性、夏移籍時の新天地候補を考察
日本代表MF鎌田大地は昨夏、イタリア1部ラツィオへ加入したものの、出番が限られる現状からわずか1年で退団の可能性が浮上している。ドイツ1部フランクフルト時代にそのポテンシャルを高く評価された27歳MFが仮に、新天地を求めるならばどのクラブが適切か、その最適解を探る。
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鎌田はいまだ苦しんでいる。ドイツ1部フランクフルトを退団し、セリエAの名門ラツィオに移籍した今シーズンも終盤戦に差し掛かるなか、リーグ戦では20試合に出場。そのうちスタメンは8試合だ。開幕4試合スタメンだったことを考えれば、いかに厳しい状況かが分かる。
これまで得点とアシストを合わせた“ゴールポイント”を指標としてきた鎌田にとって1得点1アシストという数字も到底、満足いくものではないだろう。ポジションは4-3-3のインサイドハーフだが、攻守のバランスや戦術タスクも“点を取れるMF”として評価を高めたフランクフルト時代とは異なるため、当時と単純比較することはできない。
例えば中盤では近い距離感で少ないタッチのボール回しをしながら、チャンスの起点は左右のウイングが担う。そこからインサイドハーフが前にアクションを起こしていければ、鎌田のような選手が得点に絡むには理想だが、相手の守備にはめられてしまうと長いボールを背後に蹴って、前の3人で攻め切るようなシーンが多くなる。そうなると、中盤からの関与が難しくなり、トランジションでもアスリート的な要素も求められる。
チームとしては鎌田が前目の位置で直接チャンスやゴールに絡む代わりに、その仕事を十分に果たせている選手も見当たらないのも問題だ。中盤では左インサイドハーフの主力を担うルイス・アルベルトが4得点4アシスト。チーム内の最多ゴールポイントはウイングのフェリペ・アンデルソンで3得点6アシストとなっており、7シーズン連続で二桁得点を記録してきたエースのFWチーロ・インモービレも今シーズンは6得点にとどまっている。
現在9位で、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場権が与えられる4位から勝ち点11差に。第28節のウディネーゼ戦で1-2の敗北を喫したあとにはマウリツィオ・サッリ監督の辞任が発表された。イタリア現地メディア上ではイーゴル・トゥドル氏が新監督に就任する可能性が報じられ、新指揮官の下でフィットすれば逆転で契約延長の芽もあるが、鎌田の状況が好転するかどうかは不透明だ。
現在、日本代表からも遠ざかっている27歳の鎌田にとって、移籍は現実的な選択と見るべきだろう。フリーでラツィオに加入した鎌田はシーズン終了までの単年契約が伝えられる。双方合意の延長オプションを行使しなければ、夏に再びフリーで移籍先を探すことができる。鎌田が第一に希望するのはCLに出られるレベルのクラブと見られるが、環境的に難しい状況だったことを差し引いても、メガクラブでの評価が昨年夏と同じであることはないだろう。
そのなかで、鎌田の特長と価値を理解しているクラブ、あるいは関係者のいるクラブが候補に浮上しそうだ。例えば“アタッキングフットボール”を掲げるアンジェ・ポステコグルー監督が率いるプレミアリーグのトッテナム、慣れ親しんだブンデスリーガであれば、エディン・テルジッチ監督が率いるドイツ1部ボルシア・ドルトムントから声がかかれば、現在のラツィオよりも攻撃的な役割で、輝きを取り戻すかもしれない。もちろん、そうしたビッグクラブで主力の地位が確約されることはないが、少なくとも得意な持ち場で勝負できる。
代表復帰を最優先するなら、古巣フランクフルトで再出発もゼロではない
代表復帰や再来年の北中米ワールドカップのことを最優先とするなら、古巣のフランクフルトで再出発するという選択肢もゼロではないだろう。ディノ・トップメラー監督は3-4-2-1のシステムで、2シャドーがチャンスやフィニッシュに多く絡むスタイルを取っている。来季も続投であれば、2021-22ヨーロッパリーグ制覇の立役者でもある鎌田に、うってつけの役割が与えられるかもしれない。ただ、キャリアのピークに差し掛かる年齢で、古巣で再出発という決断は簡単ではないだろう。
王者バイエルン・ミュンヘンを抜き、ブンデスリーガの首位を走るレバークーゼンも、元スペイン代表MFのシャビ・アロンソ監督が3-4-2-1をベースにしており、しっかりとボールを握りながらゴール前に厚みをかけるスタイルは鎌田にマッチする。日本代表DF伊藤洋輝が所属するシュツットガルトもセバスティアン・ヘーネス監督の下、CL出場圏内争いを繰り広げている。原口元気の退団も噂されるなか、中盤のプラスアルファとして鎌田が活躍の場を見出す余地は十分にある。
しかし、何処よりも可能性があるのはフランクフルト時代の恩師であるオリバー・グラスナー監督が今年2月に就任したプレミアリーグのクリスタル・パレスではないだろうか。誰よりも鎌田の特長を知る指揮官であり、UEFAヨーロッパリーグ制覇やCLベスト16進出を果たしたグラスナー監督は体調を崩して退任したロイ・ホジソン前監督に代わり、就任時に16位だったパレスを14位まで引き上げており、プレミアリーグ残留は濃厚と見られる。ビッグクラブにこだわるなら優先順位は下がるかもしれないが、気心の知れた恩師と新たな環境で躍動する。代表復帰を見据えても、悪い選択ではないだろう。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。