「意外」だったベテラン長友のサプライズ復帰 森保監督の選手選考に感じた“深層”【コラム】

代表復帰を果たした長友佑都【写真:徳原隆元】
代表復帰を果たした長友佑都【写真:徳原隆元】

日本代表は3月北朝鮮とのホーム&アウェーに臨む

 森保一監督率いる日本代表は3月14日、2026年の北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選で戦う北朝鮮との2連戦(21日=国立/26日=平壌)に向けたメンバー26人を発表した。悔しい8強止まりだったアジアカップから新たなスタートとなるなか、リスタートとなるホーム&アウェーの北朝鮮戦では結果が求められる。その2試合に臨むメンバーの中で最大のサプライズは、37歳ベテランDF長友佑都(FC東京)の招集だろう。森保監督がカタールW杯以来のサプライズ復帰の決断に至った深層を探る。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小杉舞)

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 リストに載った名前に驚かざるを得なかった。「長友佑都」の名を見た瞬間に期待、安堵、さまざまな感情が押し寄せてきた。何よりも森保監督が下した決断が意外だった。アジアカップは無念のベスト8に終わり、国内で多くの議論が巻き起こった。“解任論”も出たなかで、絶対に負けられないホームの北朝鮮戦を迎える。さらにアウェーは13年ぶりの平壌開催で“未知”。長友1人の存在は不安要素をかき消すくらい大きいと言ってもいいだろう。

 カタールW杯を終え、2023年にスタートした森保ジャパン第2次政権。昭和生まれはいなくなり、最年長は平成3年生まれの谷口彰悟。パリ五輪世代も招集して、世代交代が一気に進んだ。

「ベテランを呼ばない」と言ったわけではないが、森保監督が強調してきたのは「積み上げ」。例えば昨年9月、欧州遠征でドイツ、トルコと対戦する際のメンバー発表会見ではJ1ヴィッセル神戸で好調だったFW大迫勇也や新天地のASモナコでスタートダッシュを切っていたMF南野拓実が選外となった。森保監督はこの時、招集に至らなかった理由をこう話している。

「まずはいいプレーをしていることは、選考の段階でもプレーを確認しているので、その判断の中でということ。判断基準は1つではないが、これまでの活動と今回と、というのを含めて。W杯予選とアジアカップへという未来も総合的に考えて決めた」

 その後、南野は10月に代表復帰を果たす。だが、昨シーズンのJ1得点王&MVPとタイトルを総なめした大迫はいまだ招集されていない。史上初のW杯ベスト8を越えて、優勝を目指すと目標を上方修正した新・森保ジャパンでベテランの復帰は難しいのではないかと考えていた。

 それでも、今回長友が招集された。その理由とは何なのか。アジアカップではグループリーグ第2戦のイラク戦で敗れ、翌々日の練習前にミーティングが行われた。ここまで第2次政権で10連勝を記録するなど、敗戦の壁にぶち当たることはなかった。だからこそ、手を抜いていたわけではなくともミーティングも活発にはならなかった。この敗戦を受けて、選手からも多くの意見が飛び出し、実りある時間となった。負けから学んだこともあるなかで、こうなる前に発信する人材がいても良かったとも感じる。

 結局イラン戦ではロングボールで狙われ、“完敗”。2失点した後半は「何もできなかった」と言える。ただこの悪い流れを断ち切るためベンチからの声は多くなかった。大会中、ベンチスタートだった試合ではMF堂安律(フライブルク)が声を張り上げていた。ハーフタイムにはベンチ外のMF三笘薫(ブライトン)が助言を送るシーンもあった。それでも、ロシアW杯でMF本田圭佑が徹底したようにチームが1つになって力を見せつける、という迫力を感じることがなかった。これは試合後にDF冨安健洋(アーセナル)が話した「正直、熱量を感じられなかった」という言葉にも通ずるものがある。

森保監督が明かした選考理由の1つ…前向きさが「突き抜けている」

 この状況を打破するには――。さらに、今回はアウェー平壌開催という多くのストレスがかかる決戦も控えている。百戦錬磨の長友という存在はムードメーカーなだけではなく、経験値も大いに還元してくれるはず。森保監督も「まずは何よりもピッチ内で高いレベルでプレーできることをほかの選手たちに示してほしい。そして、ピッチ外、プレー外のところで言えば、彼がどんな時にも反省を怠らず、でも、ポジティブに前向きに振る舞ってくれる。現在のチームでも選手が意識してやってくれているが、彼が突き抜けているところがある。これからより厳しい戦いになっていくなかで、彼がもたらしてくれるエネルギーに期待したいと思う」と選考理由を明かしている。

 もちろん、これまで戦ってきた選手が「できない」というわけではない。アジアカップでもそれぞれがリーダーシップを発揮しようと懸命に努力し、試行錯誤していた。だからこそ、ほかの選手たちも長友が招集されたからと言って「やらなくていい」とは絶対にならない。指揮官も「長友がいないなかでもチームは成長していたと思うし、何かが欠けているから彼に頼るとは考えていない。さらなるパワーアップのために長友を招集する」と話している。

 森保監督が下したこの決断は意外だったが納得の人選。そして、まだまだベテランと若手の融合は続いていく。W杯で勝つ。これはピッチに立っている選手だけではなく、日本代表に関わってきた人、日本サッカーに関わってきた人「全員」で掴みに行く勝利ということ。そういう指揮官のメッセージだと感じた。

(FOOTBALL ZONE編集部・小杉 舞 / Mai Kosugi)

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