森保采配、JFAにどう映った? 「全く心配していない」…山本昌邦氏が下した“ジャッジ”【独占インタビュー】

山本昌邦ナショナルチームダイレクターを直撃【写真:森 雅史】
山本昌邦ナショナルチームダイレクターを直撃【写真:森 雅史】

アジアカップの対戦相手はロングスローなど「徹底していた」

 今年カタールで開催されたアジアカップで、日本代表はこれまでにないバックアップ体制に支えられた。分析班が2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)の時の4人から8人に倍増され、対戦相手の研究や日本代表選手のプレーの数値化が図られたのだ。

 これは2026年の北中米W杯の本大会を見据えた体制で、最も重要になるのがグループリーグを突破した直後の試合だ。日本がグループの中で何位になるかに加え、対戦相手になりそうなチームすべての情報を集めなければならない。

 その意味では、アジアカップグループリーグ第2戦でイラクに負けたことで、ベスト16の試合での日本の対戦相手の幅は広がった。W杯のシミュレーションとしては絶好の機会になったと言えるだろう。

 ただし、そこでしっかりとした分析ができたにもかかわらず、日本は準々決勝で敗退してしまった。その敗因は何だったのか。そして負けた原因について、どんな分析ができたのだろうか。山本昌邦ナショナルチームダイレクターを直撃した。(取材・文=森雅史/全2回の2回目)

   ◇   ◇   ◇   

——分析はしっかりできていたはずが、日本はアジアカップ準々決勝で敗れてしまいました。この点についてはどのように考えていますか。

「まず言えるのは、日本も相手を分析していましたが、相手も日本を徹底的に分析していたということです。非常に戦略的に日本を攻略してきました。たぶん対戦相手のチームは、『日本のこの場所にロングボールを入れればどういうことが起きる』ということを考えていたのだと思います。セットプレーでそこを狙って、日本がタッチに出せばロングスローでまた狙ってセカンドボールを拾う準備をする。ロングボールを入れてアタッキングサードに入って追い込み、逃げたらスローインからチャンスを作る。徹底していましたね」

——データ上は日本が上回っているような気がしました。

「日本はパスの本数やパス成功率で言えば全部相手チームを上回っていますが(パス数446対314、パス成功率81.8%対71.7%)、相手はいいサッカーは求めていないから。そんなものは捨てて、コンパクトにしている日本のブロックの横なりうしろをどんどん突いてくる。そして強いフォワードを生かすという戦いです。

『自分のチームのいいところを出そう』という親善試合との違いがはっきり出ていました。その意味ではチームを作るというより、勝負に徹してきたチームが多かったということです。華麗なパスワークのように観客が見ていてどうかということよりも、どうやって勝つかというサッカーでした。今年の残りはすべてW杯アジア予選の真剣勝負ですから、日本も含めてそういうサッカーになっていくと思います」

アジアカップでは失点が目立つ結果に【写真:ロイター】
アジアカップでは失点が目立つ結果に【写真:ロイター】

弱点を突かれた時に「柔軟に対応」できるか

——アジアカップで特に目立ったのは失点数の多さです。今回の5試合で8失点は、過去参加した大会の中では最も多く失点しました(2019年:7試合6失点、2015年:4試合1失点、2011年・2007年・2004年・2000年:6試合6失点、1996年:4試合3失点、1992年:5試合3失点、1988年:4試合6失点)。

「世界のこういう大会の基準のデータを見れば、守備の安定が決勝に行く道というのが見えています。実際、優勝したカタールは7試合で5失点でした。守備の安定感こそが決勝に上がっていくために必要なことだというのは、今回の大会のデータを見ても出ています。
では、日本のどこに問題があったのかというのは、今後各国との対戦がありますからお見せするわけにはいかないのですが、今回の大会で多くのデータが出ています」

——例えば、走行距離はどうだったのですか。

「走行距離などは、ヨーロッパとは気候が違いますから日頃とどれくらい違うか一概に測れない部分ではあるものの、ほかの国、対戦した国と比較をしました。ただデータ的にはほぼ上回る感じです。スプリント回数などは相手が上回ったりしますが、ポゼッション率は日本がおおよそ上になるので、ボールを持っている時間が長い日本の運動量と、守備に走り回る相手とだったら、どうしても相手のほうが多くなります」

——その中で見えた傾向などはどういうものがありましたか。

「相手が日本ボールの時に、どのくらいスプリント回数が多くなって圧力をかけてきているか見えました。そういう相手にどう対処するかは、フィジカルコーチやテクニカルスタッフがしっかりと分析しています。あとはマッチアップのデュエル、空中のデュエル、グラウンダーボールのデュエルなどの勝敗数とかも全部出ています。例えばこのエリアでどれだけ空中戦で負けたか、この選手は何勝何敗だったかなど、分厚い資料になっています。そういうものを精査して今後の強化につなげていくことが今は大切だと思います」

——具体的な例は言えないにしても、どういう部分の問題が見えたと感じていますか。

「ロングボールを入れてセカンドボールを狙ってくるような、相手が勝負に徹して日本の弱点を突いてくる戦い方をしてきた時に、理想とするサッカーではない、自分たちの本来の姿ではない戦いもできるよう、戦い方の幅を広げていくことだと思います。戦術の柔軟性を持ったうえで、選手も相手のやり方に対応できる力を身につけていく、弱点を突かれた時に柔軟に合わせられることが重要だと思います」

「チャレンジャー」の気持ちを大切に

——韓国ではアジアカップ後にユルゲン・クリンスマン監督が解任されました。カタールW杯後からここまでの森保一監督についてはどう考えていますか。

「森保監督の采配がどうだったかというデータもすべてあります。選手交代などについても、その前後がどうだったかなどのデータも揃っています。もちろんすべてが完璧ということはないのですが、基本はこれだけ選手の成長を継続的に行えて、ここまでの世界のトップレベルとの戦いの中での内容と結果を出している手腕に対して信頼が揺らぐものはありません。また、選手だけではなく、周りのスタッフの能力まで最大限引っ張り出せる能力というのも、表立っては見えないかもしれないのですが、素晴らしいものがあります。監督については全く心配していません」

——去年までの好調に比べると今年は停滞したように見えます。

「アジアカップ後に遠藤航キャプテンが『(W杯優勝という)目標は絶対変えない』と言った言葉にチームはみんな反応していました。私も頂点を目指す過程で日本のサッカーの成長があると思っています。高い目標を掲げて、そこにより近づける準備をしていく、選手もそこを目指して成長していく。アジアカップが終わり、ここからは世界の頂点を目指す戦いなので、気持ちもチャレンジャーとしてやっていけると思います。

 今年1年は難しい試合が続くと思います。でも、私は選手の力を信じていますし、これだけの選手が出てきたということは、時代が変わってきたと思っています。この選手たちの力を最大限発揮できるように準備していくかが大切です。そうすれば、勝てない相手は1つもないと思っています」

[プロフィール]
山本昌邦(やまもと・まさくに)/1958年4月4日生まれ、静岡県出身。JSLのヤマハ発動機(ジュビロ磐田の前身)でDFとして奮闘し、87年に29歳の若さで現役引退。指導者の道に進むと。U-20とU-23日本代表コーチ、U-20日本代表監督、日本代表コーチ、U-23日本代表監督などを歴任。2023年2月から日本サッカー協会(JFA)のナショナルチームダイレクターを務める。

(森雅史 / Masafumi Mori)

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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