堂安律「ボコボコにやられたのを覚えている」 リベンジの“バチバチ攻防”が物語る自信と好調ぶり【現地発コラム】
圧巻の反応速度を見せたフライブルク、堂安も証言「監督が口酸っぱく言っている」
「グループステージで(すでに)戦っているというのは正直、自分たちにアドバンテージがあった」
ウェストハムをホームに迎えたUEFAヨーロッパリーグ(EL)決勝トーナメント・ラウンド16の第1戦(3月7日)で1-0と勝利したフライブルク。好調をキープしている日本代表MF堂安律が、試合後にそう口にしていた。
今季ELグループステージで2度対戦しており、相手チームの特徴は掴みやすい。ただ、その条件は相手も同じだ。ウェストハムもフライブルクの特徴を掴んでいるはず。堂安はそこに異を唱える。
「いや、戦術的に落とし込んでくるチームじゃないかなっていうのは感覚的にあって。フライブルクに対してこういうのをやろうっていうよりも、自分たちのやりたいサッカーをやってくれるほうのチームだと思う。フライブルクは、どちらかというと相手に合わせたサッカーをするので、そういう意味ではグループステージを戦ったっていうのは、こっちにアドバンテージがあったと思います」
対戦相手の強みを封じるため、キープレーヤーに得意のプレーをさせないことを意識したり引いて守るのではなく、フライブルクはマイボール時の時間創出を大切にした。ピッチ上では全選手のイメージが有機的につながっているのが見て取れる。みんながアクティブに関与し、ズレが生じた時の修正も極めて速い。
特徴的だったのはセカンドボールへの反応だろう。こぼれてくるボールに対して、フライブルクの選手が常に網を張っている。チームでボールキープしている時から、次、そのまた次の展開への備えができているから、動き出しがとにかく速い。
「それはすごい監督が口酸っぱく言っている。特にプレミアリーグ(クラブ相手)だと、やっぱりFWに良い選手がいるのもあって、意図もないボールからチャンスを作られているのがグループステージでもあった。そのなかのリスク管理だったり、中盤の選手が下がるというのを意識しました」(堂安)
ピンチの場面で見せた堂安のファインプレー、相手キーマンに「やらせないようにした」
堂安による圧巻のプレーの1つが、後半7分のクリアシーンだろう。ウェストハムの右サイドから仕掛けられ、そこからファーポスト際へとクロスが送られる。そこにはシュート体勢のブラジル代表MFルーカス・パケタが走り込んでいた。だが、猛ダッシュで戻った堂安がパケタの前に飛び込んでクリアしたのだ。一瞬でも足を止めて、様子を窺う時間があったならば届かなかっただろう。危機を察知し、すぐに走り出していたからこそ間に合ったファインプレーと言える。
パケタとは同サイドで何度もバチバチにマッチアップを繰り広げたなか、堂安が口を開く。
「彼がキープレーヤーというのは分かっていたし、グループステージでボコボコにやられたのを覚えている。自分がマッチアップでやる時はやらせないようにしましたし、個人的にもいいゲームができたと思います」
その言葉どおり、ウェストハムの中心選手を仲間とともに試合の流れから消し去ることに成功。とはいえ、周りのサポートがない状況からでもパケタや右サイドのガーナ代表MFモハメド・クドゥスはシュートまで持ち込める選手だ。この日もシュート数ではどちらも15本と互角の展開となった。
“シュートまで持ち込む力”というのは、堂安が常日頃から取り組んでいるテーマだ。
「個人的にはもっとゴールを目指したいです。今日みたいにシュートチャンスを作っていけば、必ず結果は出ると思っています。もちろんシュートのクオリティーが最近低いのでそこは練習してます。練習あるのみですね」
反省の弁を口にするが、やっていることへの自信が滲む。だからこそ上を向いて取り組み続ける。続くブンデスリーガのボーフム戦(2-1)では惜しいシュートシーンもあり、決勝ゴールを極上のクロスでアシスト。フライブルクにとってリーグ戦7試合ぶりとなる勝ち点3獲得に大きな貢献をして見せた。この調子をキープし続ければ、ゴールやアシストも増えていくはずだ。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。