劣勢挽回の好判断…ボルシアMG板倉滉の柔軟対応 巧みに作った“数的優位”「相手も嫌がった」【現地発コラム】
プレスの餌食になったマインツ戦の前半、後半にテコ入れたボルシアMGが変貌
ブンデスリーガ第24節マインツ(1-1)とのアウェー戦の前半、日本代表DF板倉滉がプレーするボルシアMGはまるでいいところがないままハーフタイムを迎えた。17位マインツは監督交代が好影響をもたらし、調子をだいぶ取り戻している。この日も立ち上がりからハイインテンシティーでの連続プレスでボルシアMGを自陣に追い込んでいた。
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ボールを持ってもパスの出口を見つけられず、相手にすぐ渡してしまう。ゴールキックからもビルドアップでつなごうとするが、逆にプレスの餌食になってしまう。板倉はこの前半を次のように分析している。
「相手がすごい勢い良くきていたなかで、それを剥がせれば良かったんですけど、逆にトライしすぎなところもあったかなっていう印象がある。試合の入りは僕たちも悪くなかった。相手のサイドで、余裕を持ってボールを回せる時間がありましたから。ただその後、やっぱりファウルも多かったし、コーナーキックも多くて相手にリズムを掴まれた。そこで自分たちがトライするビルドアップをやるのはいいんですけど、もうちょっと臨機応変にね、前に強い選手もいたので、もう1個前でトライするっていうのは、チームの中でもっとできて良かったのかなという印象はあります」
その言葉どおり、ハーフタイムにボルシアMGはまずシステムを変更。4バックから3バックに変え、誰が誰に当たるのかを明確化し、マインツは攻めあぐねるようになった。守備が安定しただけではなく、ボールを持った時の出口の作り方で確かな糸口を作り出していたのが印象深い。
巧みだった板倉のポジショニング「もう素直に1個前に行って…」
特に板倉のポジショニングが巧みだった。うしろでの起点作りを仲間に任せ、スルスルと中盤まで移動する。ボランチの高さではなく、そこよりもう少し高い位置のスペースにまで上がり、数的有利な状況を生み、パスの出口を作り出していたのだ。
「もう素直に1個前に行ってね、そこで数的優位を作れるなって感じていた。そこに立つことに意味があったと思います。1、2回あそこでボールを触って相手も嫌がったなっていうのを感じていた。あとは自分が真ん中にいなくてもキーパーが真ん中にいるので、そこを上手く使いながらというのを意識しながらやってました」
GKと残りのセンターバック2人が最初の起点を作り、そこからのパスを中盤に上がっていた板倉がもらい、前線へと運ぶという流れは、試合展開に小さくない影響をもたらした。
「相手を見てですけど、特に低いラインだったので、自分まで下がる必要はない。より一層うしろが重たくなると思うんで。キーパーがいて3対2を作れていたというのは感じていたので前に行きました」
同点ゴールでチームが歓喜するなか、板倉と指揮官がやり取りした内容は?
ボルシアMGは後半10分に中盤でのボール奪取から素早い攻撃へと転じ、ナタン・ングムがフロリアン・ノイハウスのクロスに頭で合わせて同点に追い付く。チームが喜びに沸くなか、セオアネ監督は板倉を呼んで細かい調整をしていた。
「守備というよりは攻撃の時の話でしたね。自分たちがいい状況でボールを奪えるシーンも増えて、前向きでボールを持ちながら勢い良く前に運ぶシーンが増えたなかで、もうちょっと前に人数かけてもいいんじゃないかという話でしたね」
終盤の後半39分、マインツはドミニク・コールが2枚目のイエローカードで退場となり、ボルシアMGが数的有利な状況となっていただけに、勝ち切れなかったのは残念ではある。アウェーでの戦績で今季まだ1勝というのは物足りないのも確か。それでも前半まったくリズムが掴めないなか、「失点1で抑えて、後半盛り返したというのはポジティブに捉えるしかないかなと思います」と板倉も話していた。
現在12位のボルシアMGと、2部・3位との入れ替え戦に挑む16位との勝ち点差は「9」(第24節終了時点)。降格の危険性はまだ低いとはいえ、ゼロなわけではない。残り試合で勝ち点を積み重ね、少しでも良い順位で来季へとつなげるために、ここから残りの試合は重要になる。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。