サーの真の後継者 モウリーニョが貫く勝者の哲学

脱ぎ捨てた仮面の下にあったものとは

 しかし、この発言は、モウリーニョの本当の心情を反映したものではないだろうか。失敗、つまり敗北。それに対する嫌悪と恐怖。勝利を渇望するあまり、その対極にある敗北は我慢ならないもので、決して受け入れられない。
 そういう意味で、ベンゲルの示唆は真実に触れたものだったのかもしれない。とすれば、モウリーニョの過剰な反応は、痛いところを突かれたゆえのリアクションだったと分かる。そして、負けを恐れると分かれば、彼が本質的に守備的な戦術を重視する監督であることも容易に理解できるのだ。
 モウリーニョの表に見える個性は、誤解を恐れず思ったことをずばりという率直さや、論議を恐れず歯に衣着せぬ批判を展開する強さというものが目立つ。だから、彼のイメージは“豪胆で攻撃的な男”というものだ。しかし、この闘将のサッカーは、規律の高い守備が基本にある。
 モウリーニョの第一次政権時代、ヨーロッパリーグ出場を果たしたボルトンの躍進に『小型チェルシー』という呼び名がついた。監督は、中田英寿を獲得したことで日本でも良く知られるサム・アラダイス。現役時代は老かいなDFで、自らのサッカーで最も大切なワードは「クリーンシート」と公言する男だ。このことからも、モウリーニョのサッカーが堅い守りを基盤としていることが周知の事実となっていることが分かる。
 また、点を取られることを何より嫌う闘将は、攻撃の中核になる選手にも「守備もしっかりやれ」と注文を出すことで有名だ。

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