サーの真の後継者 モウリーニョが貫く勝者の哲学

アンチ・マンUファンがうなされた悪夢

 誰もが思うことがある。アレックス・ファーガソンは、後継者に指名したかった意中の男がほかにいたのではないかと。その彼といれば、誰もが勝者となれる。勝利の至福と、敗北の絶望をチームに伝播させる。その激情に守られ、ブルーズは再び頂点へと向かう。ジョゼ・モウリーニョだけが持つ資質とは―。
 デイビッド・モイーズのマンチェスター・ユナイテッド(マンU)監督就任のニュースに、無数のアンチ・マンUファンが胸をなで下ろし、うなされる夜から解放された。2013年5月8日、アレックス・ファーガソン監督が突如として勇退を発表した。マンUを敵視する大勢の男たちが悪夢のごとく恐れたのは、モウリーニョが、その後継者の椅子に座ることだった。
 それはなぜか。無論、ポルトガル人の業績が素晴らしいこともある。しかし、最大の理由は、現存する監督の中で、モウリーニョだけがサー・アレックスに近いプレゼンスを持っていたからだろう。
 この二人が放つオーラの中核にあるもの。それは鬼と呼ぶべき、すさまじい勝利への執念だ。もちろんグアルディオラやクロップ、またベンゲルやアンチェロッティにも欧州最強を勝ち取る資質はある。しかし、そのカテゴリーではモウリーニョにかなわない。唯一、サー・アレックスだけが同様の資質を持つ監督だったのだ。
 そのモウリーニョの勝利に対する執着は、今年の冬、ベンゲルとの舌戦でまた明らかになった。
 5年ぶりにチェルシーへと復帰したモウリーニョは昨季、プレミアの優勝争いに関し、「スペシャルワン」と自らを名付けた第一次政権当時とは打って変わり、常に謙虚な姿勢を貫いた。開幕から「いい選手がそろってはいるが、今季は優勝する力がない」と言い続けた。その態度は、タイトルレースの折り返し地点を過ぎた2月の時点で、堂々首位に立っても、頑として変わることはなかった。
 そんな時、強気で知られるポルトガル人の似合わぬ低姿勢に、名将ベンゲルがひとつの見解を示した。いわく「失敗に対する恐れがあるのではないか」と。
 するとモウリーニョは、突如として仮面を投げ捨てた。心底大切にしている信仰を踏みにじられたかのように、強い表現でベンゲルに猛然と牙をむいたのだ。
「もしもベンゲルが正しいとして、私が失敗を恐れているとしたら、それは私があまり失敗をしないからだろう。彼は“失敗のスペシャリスト”だから、失敗を恐れる必要がない。実際に8年間もタイトルから遠ざかっている。もしも私がチェルシーで同じ成績なら、ロンドンを追われて、二度と戻って来ることはないだろう」
 『a specialist in failure(失敗のスペシャリスト)』とは、苛烈な言葉だった。先輩監督であるベンゲルに対し、ここまで言ったことに批判も生まれた。

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