昇格組・東京V、徹底した“シンプル戦術”に「間違いはない」 勝利逃すも良さを最大限に発揮【コラム】
【カメラマンの目】開幕2試合で勝利を逃すも垣間見た城福監督の目指すスタイル
試合後、埼玉スタジアム2002の一角で声援を送り続けていたサポーターへと挨拶に向かう東京ヴェルディの城福浩監督の表情は険しかった。いや、指揮官だけではない。選手たちの表情も一様に沈んでいた。
東京Vは開幕戦の横浜F・マリノスとの試合で最終盤に逆転を許し、続く第2節の浦和レッズ戦でも後半44分にゴールを奪われ引き分け決着となり、勝ち点3を逃した。安定した戦いぶりを見せていただけに悔しい結果が続く。
結果は出ていないが、東京Vの選手たちはチームが目指すスタイルをしっかりとピッチで遂行している。浦和戦でもスタイルの要となるディフェンスで、圧倒的なサポーターの声援をバックにボールをキープするホームチームに対して威力を発揮した。
浦和は新監督を迎えチームとしての戦い方も新たなスタイルに取り組んでいる。選手たちは新監督の意図を汲み、まずはその戦術を忠実に表現しようとする思いが強かったようだ。
サッカーは自由であり予測不可能なことが多い。だからこそ、どう戦うのかを明確にする必要がある。それが戦術だ。
だが、戦術を確実に遂行する際に陥りがちなのが、ゴールまでの過程にこだわり過ぎてしまうと、敵のGKが守る最深部にボールを運ぶという本来の目的が霞んでしまうことだ。しかも、その過程が予定調和のプレーばかりでは、相手に動きを読まれてしまう。カメラのファインダーに映る浦和の選手たちは、冒険を避けるようにインサイドキックで味方にボールをつなげる姿ばかりが目に付いた。ゴールを目指した意図あるパスが少なく、プレーに意外性がないのも気になった。
後半途中から中島翔哉がピッチに立つと、得意のドリブル突破がアクセントとなってチームは活性化されたが、90分間を通してペア・マティアス・ヘグモ監督は選手を起用するポジションにもまだ試行錯誤しているようで、チームとして機能するにはもう少し時間がかかるようだ。
対して東京Vはボールを奪ってから前線の選手へパスを送る、シンプルな戦術が徹底されていた。得点へのチャンスが少ないことが攻撃への意識をより高め、強力な守備とともに攻守にメリハリがあった。開幕からの2試合を見たが、劣勢の展開となるものの守備への意識が高く大崩れする印象はない。
東京VのJ1復帰となった今シーズンの戦い方に間違いはない。選手たちに派手さはないが、自分たちができることを最大限に発揮している。それだけに勝ち切れない状況によってチームの士気が下がる前に、結果がほしいところだ。
ここまで今シーズンJ1昇格を果たしたFC町田ゼルビア、ジュビロ磐田、そして東京Vの3チームをゴール裏から見たが、どのチームも健闘していると言える。それが第2節を消化した時点で早くも連勝チームがないという混戦を生み出している一因にもなっている。
2024年シーズンはサッカーらしく、多くの予測不可能なことが起こるかもしれない。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。