名古屋グランパス「最新序列」考察 連敗スタートの裏で…大卒ルーキーが期待以上の働き【コラム】
積極補強の名古屋グランパス、各ポジションの序列は?
今季の名古屋グランパスは、積極補強により潤沢な人材を抱えることになった。コアメンバーもまた豊富で、序列は存在しても選択肢は多いという贅沢な悩みを抱えてのシーズンインになった。
ただし、沖縄での2次キャンプから開幕直前にかけて軸となる選手たちに負傷者が続出。その影響が序列、および、起用法にかなり出てきているのが現状でもある。そういった状況も鑑みたうえで、3-1-4-2(3-5-2)の4ライン5ポジションについて、少し考察してみたい。
まずは3バックだ。開幕前までの思惑は野上結貴、ハ・チャンレ、河面旺成が基本的な構成になっていた。序列という意味ではこれがファーストチョイスに思えるが、河面はいまだ全体練習に戻れておらず、差し当たっては左センターバックのポジションが激戦区だ。
三國ケネディエブスと井上詩音がその座を争い、若い吉田温紀と行德瑛も虎視眈々とアピールの機会をうかがっている。2月10日のプレシーズンマッチで右ふくらはぎを負傷したハ・チャンレもまだ万全とは言えないが、第2節のFC町田ゼルビア戦のパフォーマンスを見れば今後はむしろコンディションを上げてくる期待感のほうが大きい。
右の野上は攻撃面でもチームに欠かせない能力があり、ハ・チャンレ同様に現状では鉄板の選択肢。ビルドアップに課題を抱える今、そこに特徴のある河面の復帰が待たれている部分もあるため、左センターバックのポジション争いは選択の基準に変動の余地がまだまだあると言える。
アンカーは米本拓司、稲垣祥、椎橋慧也、そして吉田温紀の4人の名が候補として挙がる。キャンプ序盤では吉田が猛アピールを見せたが、練習試合などで満足のいくパフォーマンスが出し切れず、その後は椎橋が務めていたのだが、前述したDFの負傷者続出によって、より守備力が高く最終ラインのフォローができる稲垣が開幕スタメンに選ばれている。
このあたりの“玉突き”についてはインサイドハーフの話題とも大きく絡んでくる。そもそも稲垣は右インサイドハーフのファーストチョイスで、和泉竜司は左インサイドか山岸祐也の穴を埋めるFW起用として考えられていた。
だが、稲垣をアンカーに充てることで状況は一変。和泉はインサイドのスタメンに収まった。さらに言うと、倍井謙がバックアッパーとして公算が立ったことも見逃せない。最前線の永井謙佑、パトリックを含め、攻撃陣の層はより厚みを増すことに。翻って、椎橋と米本は攻撃的な役割も担うアンカーの上位候補にあったものの、より守備的なチョイスに様変わりし、米本と稲垣が上位になるという逆転現象が起きている。
森島司はインサイドハーフの軸に、代役の人材不足は不安要素の1つ
一方で、インサイドハーフは森島司が鉄板であり、彼中心のチームを今季は構築しているといっても過言ではない。可変システムにもチャレンジしている中では森島のゲームメイク力を頼みにしている部分が大きい。
ただし開幕からのマイナーチェンジの最中においては現状、森島には攻撃時にはボランチ的な役割が託されることが増えている。この役回りがこなせる人材がほかに見当たらないのが不安要素の1つ。彼に代わる選手を見出すか、あるいはもう1つの型を準備することが中期的な今季の課題には違いない。
当初は森島と和泉、稲垣と椎橋がポジションを争っていたので、この変化を一時的なものとするか、それで固めていくかでもこのポジションの序列はいかようにも変容すると思われる。
右で作って左で仕掛ける攻撃を狙いとするうえで、左インサイドハーフで頭角を現した倍井はとりわけ序列争いを変え得る存在だ。この大卒ルーキーが今後どのような成長と活躍を見せるかで、中盤の構成はさらに変化を伴っていく可能性がある。
ウイングバックは今季の肝であり、そのためにチームは三者三様のワイドの担い手を獲得し、昨夏に獲得した久保藤次郎と合わせてチャンスメイクに多彩さを求めた。このポジションに関しては、対戦相手や他ポジションの起用動向に応じて起用法を定めている。
開幕までは右が中山克広、左が山中亮輔である程度固定されていたが、故障者発生が絡んだスクランブル起用の中で長谷川健太監督は久保をスタメン起用。第2節の町田戦では中山を起用しており、シチュエーションごとに使い分けをする。
もっとも、左サイドはやや特殊だ。山中はセットプレーやクロスの精度が売りで、小野雅史はいわゆる偽サイドバックの動きが巧み。倍井の突破を促したり、ボランチのサポートに入って森島の位置を上げたりという役割が担えるオールラウンダー。チーム戦術は山中ありきのところもあり、小野はビルドアップの上手さを活かすべく、アンカーなど中盤での起用も今後は視野に入ってきそうだ。
新加入の山岸祐也、ユンカーの2トップは期待十分
ストライカーは昨季のチーム得点王ユンカーが軸。山岸祐也が2トップの相棒を務めるはずだったが、開幕前の練習試合で負傷。町田戦で実戦復帰を果たしたばかりだ。キャンプでの動きを見る限り、彼がいるチームの攻撃はスムーズで、ユンカーとの連係ではクオリティーの高さを見せた。
ユンカーと山岸のコンビをファーストチョイスとし、永井謙佑の快足、パトリックの高さや強さを、コンディションや対戦相手によってチョイスしていくだろう。攻守両面での貢献度に期待が懸かる酒井宣福もポジション争いに加わってくれば、戦い方の幅もゴールへの道筋もまた広がっていくに違いない。
32名の大所帯となった今季の名古屋は、積極補強に反して、リーグ開幕2連敗スタートとスタートに躓いた。ポテンシャルを大いに秘めているのは確かなだけに、まずは戦い方を整理し誰に何を求めるかを明確にすることで、正しく実力を発揮できるようになっていくのではないか。
今井雄一朗
いまい・ゆういちろう/1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。Jリーグの名古屋グランパスや愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする。現在はタグマ!にて『赤鯱新報』(名古屋グランパス応援メディア)を運営し、”現場発”の情報を元にしたコンテンツを届けている。