三笘薫“今季絶望”で移籍どうなる? 「難しいね、夏は」…英記者に訊く忖度なし「リアル事情」【現地発コラム】

三笘薫の今夏移籍に英国人記者が見解【写真:徳原隆元】
三笘薫の今夏移籍に英国人記者が見解【写真:徳原隆元】

怪我でダメージを被った三笘薫のキャリアパス

「今季絶望」——誰にとっても“非情”に辛い宣告だ。ブライトンと三笘薫にとっては、ことさらに残酷だと感じられる。

 初昇格7年目のブライトンは、大物選手こそ不在だが、プレミアリーグで攻撃的な面白いサッカーをするチームと化している。選手層は薄い部類でも、クラブ史上初参戦の欧州(EL)で決勝トーナメントに駒を進めながら、昨季に続いて国内トップ6争いを演じてもいる。しかし、不慣れな二足の草鞋を履く疲れも重なり、故障者の多さもプレミア上位レベル。今季後半戦には、20チーム中最多タイの11人が負傷欠場中の状態で突入することになった。

 その1人であり、本来はチーム最大の武器とも言うべき三笘が、大事な終盤戦で戦列を離れ続けることになってしまった。腰の怪我が公になった翌節に当たる3月2日の第27節、ブライトンは7位から9位に順位を落とした。エネルギーもインテンシティーも足らず、フルハムにカウンターで仕留められての敗戦(0-3)。試合後、「我々はビッグクラブではないから」と繰り返し、「新たな怪我人が出なかったことが、せめてもの救いだ」と語るロベルト・デ・ゼルビ監督の表情は暗かった。

 時を前後して、「今季は怪我が続いて悔しい気持ちが強いですが、必ず強くなって戻ってきます」とした、三笘自身のSNS投稿も痛々しかった。一番の心痛は、終盤戦でチームの力になれないもどかしさに違いない。だが同時に、今夏にはステップアップが見込まれた当人のキャリアパスも、ダメージを被ったと言わざるを得ない。

 クラブとは、昨年10月に2年間の延長に相当する27年夏までの新契約を結んでいる。だがこれは、三笘の引き留め工作というよりは、引き抜きに備えた移籍金収入引き上げ策。無名に近いタレントを安く買って高く売るのが、移籍市場におけるブライトンの“戦術”だ。

 2021年に250万ポンド(約4億7760万円)で獲得した日本代表ウインガーの評価額は、得意のドリブルで旋風を巻き起こし、合計10ゴール8アシストの数字も残した昨季を経て15倍前後に跳ね上がっていた。昨季を終えた時点では、プレミアで最もエキサイティングな26歳。その三笘が、プレミアで実質的な実績が1シーズンのみの27歳として今季を終えることになってしまった。

今シーズン変化したプレミア強豪のウイング事情

「夏に欲しがるビッグクラブがあるかな?」と、タイムズ紙のガリー・ジェイコブ記者は言う。同紙の若手記者だった20年ほど前からの付き合いになる彼は、中堅どころの現在でも移籍を担当分野の1つとする。フルハムのホーム、クレイブン・コテージでの試合前に意見を尋ねると、ガリーはこう続けた。

「1年前なら、興味を持っているビッグクラブが2つか3つはあった。それが今では、移籍金の額も跳ね上がっているし、(5月で27歳の)年齢と、(昨年12月に足首も痛めた)今季の故障歴がクエスチョンマークになっている。長期離脱になる前も、昨季ほどの出来ではなかったしね」

 それでも、10点満点で7点程度の平均点ではあった。フルハム戦の前に、メディア用のラウンジで隣に座ったブライトンのラジオ局で働くスタッフは、「不完全なコンディションでも並の選手より上」と、三笘離脱の無念を語っていた。

 とはいえ、三笘本来の姿、すなわちサッカーの楽しさを体現しつつ、1対1で相手を苦しませるプレーを連発していたのは今季序盤戦まで。リーグ戦では、ハーフタイム明けにベンチを出ての2ゴールで逆転勝利を実現した、第6節ボーンマス戦(3-1)が最後だと言っても良い。その後は得点もなく、3ゴール5アシストで今季プレミアを終えることになった。

 その間に、プレミア強豪の左ウイング事情も変わってきた。例えば、今やビッグクラブ代表格のマンチェスター・シティ。今季開幕当初には三笘への興味が伝えられたが、そもそも駒不足ではないポジションでは、ジェレミー・ドクが移籍1年目の21歳にして戦力となっている。ガリーも言う。

「一躍注目を浴びた昨季でさえ噂のレベルで、具体的に動いたビッグクラブはなかっただろう? あのまま今季末には契約が残り1年となっていれば、(故障明けでも)今夏の補強対象としては悪くなかった。非常に高い能力の持ち主を、おそらく1500万ポンド(29億円弱)程度で手に入れられたわけだから。それが、はるかに高い移籍金を要求されることになればリスクとの天秤になる。

 リバプールは、前線に若手も含めてオプションが十分。アーセナルは、左よりも右ウイングの駒数を増やしたいところだろう。マンチェスター・ユナイテッドは、スポーツディレクターが変わるにしても、理想的にはマーカス・ラッシュフォードを左アウトサイドで起用したいはず。チェルシーにとっては、補強の対象年齢外ということになる」

 確かに、ガリーの言うとおりだ。リバプールの左ウイングは、コンスタントに相手ゴールへの脅威となるルイス・ディアスをはじめ、担い手に事欠かない。アーセナルのウイングは、ブカヨ・サカがずば抜けているだけに、不在時に右サイドのクオリティー低下が気掛かり。ユナイテッド生え抜きのラッシュフォードは、以前ほどセンターフォワード(CF)起用を望む外野の声が聞かれなくなってきた。シティに逆転負けした第27節でのマンチェスターダービーでも、左ウイングで先発して先制点を決めている。

 昨季に続いて中位低迷中のチェルシーは、前オーナー時代であれば三笘獲得に躍起になっていたかもしれない。左ウイングを好むラヒーム・スターリングは、来季途中で30歳。ムラのあるパフォーマンスでファンの不評を買ってもいる。だが、長期展望の現オーナー下で獲得の照準が絞られているのは20代前半のタレントだ。

「トッテナムは左ウインガーを欲しがっている」と言うガリーだったが、すぐさま「ただ、31歳のソン(・フンミン)と比べて格段に若いとは言えないな」と続けている。トッテナムでは、やり手のダニエル・レビー会長が財布の紐を固く締めているが、それ以前に、2008年のリーグカップ優勝を最後にタイトルと縁がなく、欧州チャンピオンズリーグ(CL)常連とも言えない昨季8位が、純粋なステップアップ先と言えるかどうかも疑問だ。シティとアーセナルとともに噂のあったニューカッスルも、現時点でのステータス的に同じことが言える。

「難しいね、この夏は。怪我を克服したと証明するだけでも来季開幕後になる。動きがあるとすれば、移籍市場の閉幕(9月2日)間際しかあり得ない。むしろ、デ・ゼルビの去就次第かもしれない。どの監督も、高く買っている選手を連れていきたがるから」

残留し来季再び輝けば道は開けるか?

 ブライトンをステップアップの舞台としている状況は、前任地がウクライナのシャフタル・ドネツクだった44歳のイタリア人指揮官も同様だ。プレミアでの仕事ぶりを買われ、祖国の強豪から帰国要請を受けないとも限らない。ただし、「(プレミアほど潤っていない)海外のクラブにとって移籍金がネックにならなければの話だ」と付け加えたガリーは、こう締め括った。

「デ・ゼルビは、ジョアン・ペドロが抜ける可能性には触れていたけど、三笘に関しては何も言っていない。残留で終わるような気もするよ。来季も欧州の大会に出場できるのであれば、決して悪くはない」

 不本意な加入2年目を過ごすことになった本人も、プレミアで実力を試すチャンスを与えてくれたブライトンで、まだやり残した仕事があるとの思いをモチベーションに変えることができるだろう。その仕事をやり遂げれば、ビッグクラブによる見方が、「プレミアで再び実力を証明したプロ遅咲きの28歳」へと好転するであろうことも想像に難くない。

 何より、苦しい時にこそポジティブな思考が必要だ。フルハム戦の記者席では、エージェンシー派遣の年配レポーターと隣同士になった。訊けば、心のクラブはブライトン。ニックという名の彼は、0-2で迎えたハーフタイム中に言っていた。「悪い状況のなかでも何かしら良いことはあるものさ。三笘が今季絶望だと聞いた時、まず『これで来季もウチにいてくれるのでは?』と思った」、と。

(山中 忍 / Shinobu Yamanaka)

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山中 忍

やまなか・しのぶ/1966年生まれ。青山学院大学卒。94年に渡欧し、駐在員からフリーライターとなる。第二の故郷である西ロンドンのチェルシーをはじめ、サッカーの母国におけるピッチ内外での関心事を、時には自らの言葉で、時には訳文として綴る。英国スポーツ記者協会およびフットボールライター協会会員。著書に『川口能活 証』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『夢と失望のスリーライオンズ』、『バルサ・コンプレックス』(ソル・メディア)などがある。

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