新生・鹿島に閉塞感…攻守連動サッカーは何処へ? 名門復活へ「あまりにも寂しい内容」【コラム】
【カメラマンの目】ホーム開幕戦で見えたポポヴィッチ流とかけ離れた戦い
ランコ・ポポヴィッチを新監督に迎えた鹿島アントラーズは、J1リーグ第2節でセレッソ大阪と対戦した。結果は先制点を許したものの後半40分に植田直通のゴールで同点とし、勝ち点1の獲得に成功。これで開幕から1勝1分と結果だけを見ればまずまずの滑り出しとなった。
しかし、この対C大阪戦の鹿島は、試合終盤で執念の同点弾を決め敗戦を回避したが、内容としてはなかなかボールをつなげられず、90分間を通して流れるような展開を作り出すことはできなかった。
鹿島はシーズンの開幕を前にした宮崎キャンプで、徳島ヴォルティスとトレーニングマッチを行っている。この試合で鹿島は前線からの積極的な守備で、相手の動きを封じるスタイルをチームのコンセプトとしていることを示した。ただ、目に留まったのは守備だけではなかった。1対1の勝負を制してボールを奪うと、グループによるダイレクトプレーでの崩しや、一気にロングキックで前線にボールを運びゴールを目指す、攻守が連動した多彩な攻撃も見せていた。
だが、鹿島が攻守にわたって圧倒した試合はJ2のチームが相手で、しかもそれほど勝敗へのこだわりを持って臨んではいない練習試合だ。トレーニングマッチはシーズンを前にして、自分たちのサッカーがどれだけできるのかを試す機会であり、長所を出すことを目的とし、相手にサッカーをさせないような内容にはならない。何より徳島とは実力差があった。そのため鹿島は自分たちが目指すサッカーをピッチで表現できた。
翻って公式戦となれば、相手は手強いJ1のチームとなりレベルも高くなる。勝負にも強いこだわりを持って臨んでくる。
そうした状況でこの対C大阪戦の中心となったのは、相手からボールを奪う局地戦での戦いだった。両チームともにボール保持者への寄せが素早く、1対1の局面で一歩も引かない激しい奪い合いを見せた。
ディフェンスの強度だけがクローズアップされる内容でドロー決着に
局地戦での勝負が互角となり、相手に対して圧倒的な優位性を保てないとなると、試合は潰し合いになる。鹿島がボールを奪取しても、選手が次のプレーへとつなげる体勢を整えられず、攻撃に転じる起点となることができなかった。これが宮崎でのトレーニングマッチのように、守備から攻撃へと流れるような展開を作れず終始、閉塞感のある内容となってしまった理由だ。
サッカーでは結果と試合内容が必ずしも一致しないことが多々ある。負けても内容的には見るべきものが多い時もあり、その逆もある。この試合は引き分けに終わったが、結果だけを見れば鹿島にとっては、終盤まで負けていた試合で勝ち点1を奪取したのだから、手放しでは喜べないが、引き分けにしたことを評価することはできる。
だが、試合後にサポーターに向かって挨拶をする選手たちからは、試合終盤に追い付いた喜びは感じられなかった。選手たちの姿が内容的に満足していないことを表していた。
対戦する両チームが強い勝負へのこだわりを持って臨む公式戦では、意図ある戦いを貫き通すことができるとは限らない。まして、見る者を魅了するエンターテイメントに富んだものにするのは簡単なことではない。真剣勝負とはそういうものだと言われたら返す言葉もないが、どう贔屓目に見ても対C大阪戦の内容に限って言えば、終盤で勝負強さを発揮して引き分けに持ち込んだとはいえ、鹿島は閉塞感に満ちた状況を打開する効果的な手を打っていない。そうしたサッカーを高評価することはできない。
相手がいるのだから、すべての試合でプランどおりのサッカーをするのが難しいのは分かる。守備に重きを置いているチームもあるだろう。
ただ、そうした守備に自信を持っているチームと対戦した場合、鹿島がこのディフェンスの強度だけがクローズアップされるサッカーで、勝ち点を積み上げていく試合が多くなるとしたら、それはあまりにも寂しい内容だ。名門復活を目指すならJ1のチームを相手にしても、宮崎でのトレーニングマッチのようにハードな守備からボールを奪い、そこから効果的な攻撃を繰り出す、チームが目指しているサッカーをしっかりと見せてほしい。
より明確な攻撃の形を構築し、それが厳しいプレッシャーのなかでもできるようにならなければ、守備の強度だけが特徴となってしまい、鹿島のサッカーはいつも閉塞感のある内容となってしまうだろう。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。